第二十五話
「んで、状況は?」
「まぁ、良くも悪くもないって感じだな」
この状況自体が悪いからなんとも言えないけども、と隣にいる陽斗が笑う。
「……いや、笑えねぇけど?」
なんなら最悪に近い。こっちから連絡入れなかった俺のせいでもあるし、もっといえばちゃんと起きて、一緒に出かければよかったって話なんだよな……。
「いや、この世の終わりみたいな顔してる奴の空気に呑まれないようにしてるだけで俺もさすがにやばいのはわかってる」
ほれ、とスマホの内カメを使って見せられた俺の顔は、確かにこの世の終わりみたいな顔だった。
「まだ何かがあった訳じゃないんだし、なにかされる前に助けるためにここにいるんだろ?」
歯が浮きそうなセリフよくそんな簡単に……。いやでも、ちょっと気分は軽くなった気がする。
「いい加減にしてください! なんのためにこんな事を!?」
「「ッ!?」」
やべぇぇぇぇ! びっくりして声出るところだった! てか今の声葵衣か! 壁の向こうにいるのは分かってたけど、声聞けてよかった……。
「……移動するぞ、多分このままだと葵衣達が何されるか分からん」
声を聞けたことはいいけど、それ相手煽るテンプレなんだよな……男もいるって聞いてたし、ただただやばい状況に近づいてるんだよ……。
陽斗と二手に分かれて、俺は正面側、陽斗は裏口側に移動する。
「なにか答えたらどうですか!? 浜名さん!!」
「いちいちうるさいわね!!」
「──────────、────!!」
「──────、──────!?」
ドラム缶か何かでも蹴ったのか?なんかめっちゃ反響して何喋ってるか分からん……。
『なぁ、これ早く入った方がよくないか?』
んー、いや、まだな気がするな……。何より、緋彩と叶恵の事も把握しないといけない。
もう少し待って、と送って……。中の様子がなんとなくでも分からないと動くに動けないからな……。
「浜名家の根回しがどこまで行ってるのか知らないけど、今回のこれは、さすがにバレたら取り返しがつかなくなるよ?」
「……暴力団に警察の一部幹部、身体で買ったお友達はそれだけ?」
悠長に中の情報を──とか言ってらんないかもしれない。
めっちゃ煽るじゃんあの二人……。有利不利とかお構い無しじゃん、今回は絶対それ悪手だって……神経逆撫ですることしか言ってないって!
しかもめちゃくちゃ出ていきづらいよ! 警察とか暴力団とかにはさすがに勝てないわ!!
「……はぁ、やっと目が覚めたら、また煽り? さんざん痛めつけたのに、よく懲りないでそんなこと喋れるわね。まぁ、まだまだムカつくし、もちろんまだまだ貴方達には苦しんでもらうわ。それに、こんな奴ら、身体を払う価値もない。金で十分よ。もちろん、貴方達二人の実家も」
「……なにを」
「橘緋彩。貴方のお家は日本舞踊の名家。でも、文化そのものが知られなくなってきている現在、それだけで収益をあげるのは難しい……。そこで、浜名家の名義で日本舞踊の保護という名目で買収させていただきました。小鳥遊さんの家も同様です。他の弁護士事務所に所属の弁護士を抜かれ、経営が安定していなかったため、浜名家の専属弁護士として雇用させていただきました」
こっちからは二人の声は聞こえないし、どんな顔をしてるかも分からない。でもこれは二人にも効いたはずだ。
「あーはっはっはっ!! いい顔ですねぇ! 希望だった家まで潰されて、どんな気持ちですかぁ!?」
「ッ!!」
思わず飛び出そうとしたところで、スマホが震える。
『落ち着けよ?』
たった一言。でもそれには俺の足を止めるだけの効力があった。ギリギリではあるが。
陽斗の言うことは分かってる。けどこれは、マジで人として終わってる。この世のゴミを全てまとめたみたいな。
「反吐が出るってこういうことか……」
まだ歯を食いしばって隠れているしか出来ない自分にイライラする。
にしても、何も音が鳴ってないとよく響いて声聞き取りやすくて助かるな……相変わらず浜名楓はゴミみたいなこと言ってるけど。てか体払うとか金積むとかやばいことしすぎだろ……流石、少し前までの葵衣の実家と肩を並べるレベルの大企業のご令嬢だ事。その内情はとんでもなく腐ってるわけですがね?
「約束通り、金は出すわ、ここで起きたことをなかったことにもしてあげる。だから、ここでの貴方達への暴言は帳消しね。どうせ貴方達が私に逆らうなんて出来ないでしょうけど。暴力団の組員なんて言ったって、下っ端ばかりだし。でも今回だけ、更にサービス、この子達二人もう傷だらけだし、私のせいで血で汚くなってはいるけど、心が折れるまで、好きなようにしていいわよ?」
一瞬、何を言ってるかよく分からなかった。でも倉庫の中からは何人もの足音が響いてきて、それが現実だと実感する。
すげぇ野太い男の声するし、本当に本当のことなんだよな……。人間腐るとここまで落ちるのかって感じ。
さて、いい加減出るか、悪行の証拠は十分すぎるぐらい揃った。
「行くぞ、陽斗」
LINEを陽斗に送り、入口の扉に手をかける。
──守るには、それ相応の覚悟と犠牲が必要なのよ? それなしで、なんでもできるなんて思ったらだめよ?
懐かしいような声。誰だろうな……もしかしたら母さんかな? 会ったこともないけど。クソ親父に愛想尽かして逃げたって言ってたし、こんなことを言うような人じゃないだろうし、違うか。
でもまぁ、いい忠告にはなった気がする。さぁ、殴り込みに行こうか。




