第十七話
「……おまたせ」
「いやー、こんな大荷物になるとは思わなかったよー」
俺と葵衣が集合場所だった図書館前に着いてから二、三分。足の細さを強調する黒スキニーのパンツに、白無地のトップス、それにデニム生地のジャケットを羽織った叶恵と、パーカーで首にはヘッドホン、下はダメージジーンズの緋彩。二人ともめちゃくちゃかっこいい格好で来た。
だが、一つだけ不思議なことがあった。俺達はテスト勉強の為の道具を取りに帰る為、一度帰宅して、集合場所に来た。その認識は間違っていない。一応私服に着替えての集合だったけど、これは聞いてない。
「二人とも、なんでキャリーバッグなんて持ってるんだ?」
「「泊まるから」」
いや、まぁそりゃあそうだと思うんだけど……。意味もなくキャリーバッグ持って図書館で勉強するやつなんていないだろうし、そもそもキャリーバッグなんて持って図書館入りたくないし。絶対目立つじゃん、悪い意味で。
でもまぁ、泊まる泊まらないは一旦置いといて、
「葵衣、何か言うことはあるか?」
「今回は私は無実です! 何もやってないです! 私も今困惑してますぅ!!」
LINEのトーク画面を見せられたら流石に信用するしかないなぁ……。消した痕跡もないし、勉強に関することしか話してないな。
「じゃあ二人とも、今日は俺の幼馴染みの陽斗が来るのは分かるか?」
流石に陽斗の前にうちに泊まる気満々な二人を置いとくのは悪いし、何より陽斗が可哀想になる。
「あーうん、一緒に校内走ってた人でしょー? ちゃんと許可とったよー!」
おいこら叶恵、許可はまず訪問する家の方にとるもんなんだが?陽斗に許可とるのも大事かもしれないけどさ、まず俺らに許可取ってよ。せめて葵衣には言っといてよ……。
「このまま追い返すのは?」
「……無理言ってかぁ様に頼んだのに」
よよよ、とあからさまに泣き真似をする緋彩はスルーしておいて、忘れてたけどこいつらもそこそこお嬢様だったわ。普段が葵衣と違ってしっかりしてるから忘れてたけど、緋彩の家は結構有名な日本舞踊の家らしいし、叶恵の家は小鳥遊弁護士事務所と言う事務所を経営できるぐらいの弁護士だし。あれ、俺三人に手を出したらマジで殺されるんじゃね? てか本気出せば俺の拒否権とかなくなりそう……。
それに、頼み込んでまで泊まりたいって言ったやつを追い返すのは良心が痛むよなぁ……。
「……まぁ、軽くおっけーしてくれたけど」
「なぁ葵衣、こいつ一発殴っていいか?」
「ダメですダメです! ひーちゃんのお家の人達にめったうちにされますよ!?」
うぅ……色んな意味でもっと力が欲しい……。
──────────
あんなやり取りを叶恵ともしたところで陽斗が来たので図書館の中に入り、勉強会が始まった。
二人がうちに泊まるかはさっきの一件のせいで保留だ。あーあ、何もやらなければオッケーだったかもしれないのに!
「陽斗、そこ間違ってるぞ」
「え、まじ?」
「まじまじ、その文法だと問題に対して答えがおかしくなる。そこはこうして──」
「あー! なるほどな! そしたらここ二つも同じになるのか」
席順は俺の右に陽斗、向いに俺から見て右から叶恵、葵衣、緋彩が座っていて、葵衣の一ヶ月程の学習の空白を埋めるのに頑張っている。
「まじでウタがいるとスラスラ解き方わかって助かるわ」
「いや、こっちこそすげぇ飲み込み早くて毎回助かってるよ」
部活に打ち込んでるから勉強に回ってないだけで、陽斗は天才タイプだからやれば出来るんだよな。だから一回ちゃんと教えれば身につくし、付け焼き刃じゃなくてこれまでの知識も覚えててくれるからすぐに問題が解けるようになる。だからとことん合わない先生の授業以外の教科は割と七十点とかが普通で、学年の中でも三分の一とかにはちゃんと入っている。
わぁ、俺の幼馴染み超ハイスペック、俺なんて勉強しかできないからな……顔も普通だし、運動も得意ではないし……。
「「「じとー」」」
「いやその効果音は自分で言うもんじゃないと思う」
せっかくいい感じに語ってたのにしっかり台無しにしてくじゃん三人とも。
「それで、用はなんだ三人とも」
「陽斗さんばっかりー……!」
「……私達もいるんだから、かまって」
「私の一ヶ月分手伝ってくださいよ!!」
いや、やり方はどうかと思うけどもっともな理由だった。うーんでも時間もう少しだし陽斗のやり終わってない……。
「あ」
パッと目に入ったのは二人のキャリーバッグ。そうだな、ここで二人をうちに泊める判断をすればいいんだ、あとは俺が寝る場所さえ確保すればいいわけだしな。
「三人とも悪いが今はお預けだ。その代わり家に来たら教えてやるから、時間も微妙だし、今は陽斗優先でいいか?」
目を輝かせてコクコク頷く三人。……やっぱり最初から三人で話をつけてたんじゃないかと思うぐらい息がピッタリだった。
陽斗、別に笑うとこじゃないんよここ……。




