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第十五話

「今日はご飯の後、お話があります……!」



 鬼気迫る表情で言われたのが二時間前、現在午後九時半。リビングで正座で向かい合っている。


「時に詩乃さん。なにか、私に謝罪すること、また報告することはないですか?」


「いや特に」


 学校で噂を立てられないようにと千代ケ崎さんと一緒に登校するのを拒否したのに緋彩の名前呼びと一緒に登校することになったとか、叶恵と一緒に下校してからかってたら引くにひけなくなって名前呼びになったとかは別に千代ケ崎さんに言う必要があることでもないしな。


 二人とも千代ケ崎さんと浜名楓《高飛車クソ女》と並んで『四天王』とか言われてるらしいから噂にならないようにすることに関しては失敗した訳ですが。


 俺の平穏な日常は消え去りましたと。


「登校とか、下校とか……!」


 ぷくーっと頬が膨らむ。毎回思うけどコレわざとじゃないのすごいよな、素で怒るとコレなんだぜ?いやこんな遊ぶようなことしていい場面じゃないけど。


 それにしても登下校で悪いことをしたつもりはないぞ。緋彩も叶恵もちょっとやり方おかしくないかとは思うけどいい友達……になれたと思う、多分。こっちは危うく惚れそうだったけど。


「登校と下校? 緋彩と登校して叶恵と下校しただけだけど。噂にならないようにしようと思ってたのにこれじゃ意味ないよなぁ……」


 千代ケ崎さんとじゃないけど、噂になったら殺されるよなぁ……流石に毎日陽斗を巻き込むのも悪いしな。……はぁ、明日を迎えるのがつらい……。


「そこ! そこですよ!!」


「え?」


「え? 、じゃないですし、そんな何も悪いことしてなくない? みたいな顔もしないでください間違ってますから!」


 まじか……。そこかぁ、でもなんでだ……?


「なんで俺が緋彩と叶恵と登下校してたら千代ケ崎さんが怒るんだよ?」


「いや、そこもですけど! 呼び方ですよ、呼び方! なんで私だけ苗字なんですかぁ……」


「あぁ……それ……」


 緋彩も叶恵も不可抗力というか、強引にというか……。いや、叶恵は俺がからかい過ぎたせいかもしれない。


「千代ケ崎さんも名前呼びがいいの……?」


「できることなら……」


「ヴッ……」


 あなんか変な声出た。すごい真剣な顔で、純粋に頼んでもらうのって、悪くないかもしれない。どこかの二人は理性崩壊させて襲わせるように仕向けたり、からかって仕返ししたら呼び捨てにハマったりしてたからな……。やっぱ後者は俺が悪いな、うん。ごめん叶恵。


「そもそもなんで名前呼びにこだわるんだ?」


 いまどき苗字で呼び合う人とかも多いし、それこそ大多数は「千代ケ崎さん」「小鳥遊さん」「橘さん」って言ってるよな。本人達もそれでいいと思ってるみたいだし。


「逆に、とても近くにいる人に苗字で呼ばれるのって距離感感じないですか?」


「あー、確かにそうかもしれん。でも俺ってそんなに親しいか?」


「一緒に住んでる人に他人行儀にされるってどういう気持ちだと思います?」


「ごめん」


 確かにそうだわ、シェアハウスとかじゃなくて完全に生活空間が同じ人に苗字で呼ばれたらちょっと悲しいわ。


「じゃあ呼んでください。二人だけは不公平で──なんでもないです」


 納得しかけてたのに特大のミスしたな千代ケ崎さん! 思いっきり二人だけは不公平って言ったな!?


 まぁ、別にそういう子供っぽいところも魅力の一つっちゃ一つだし、全然いいけど。


 早く呼んで、と顔に書いてある千代ケ崎さん。目がキラッキラしてる。緋彩もだったけど、嬉しいのはわかるけど、そんなになるほどのものなのか?まぁ俺には分からない感情があるのかもしれないな。


「えーと、あ、あー、あお……ちょっと待ってくれ」


 待って、めっちゃ緊張する。緋彩と叶恵の時は周りに人がいての緊張だったから分かる。でもこの緊張は何!?


 喉につっかかるみたいに葵衣の文字だけ声に出ない。やっぱり特別に見られてんのがわかるから? いやいやそれなら普段の生活で意識してるだろ。うーんなんで!?


 深呼吸だ深呼吸。吸ってー、吐いてー……よし。


「じゃあ、いくぞ」


「は、はい」


 千代ケ崎さんにまで緊張がうつってしまったらしい。ぎゅっと握られた拳が膝に押し付けられて、前のめりになっている。


「……ぷっ、くくっ」


「ちょっと! なんで笑うんですか! 詩乃さん!」


「いや、こっちの緊張うつってガチガチになってるのが面白くて……!」


 はー、面白かった。おかげで緊張も解けた。また千代ケ崎さんはお怒りモードだけどな。


「それじゃ、改めてよろしく、葵衣」


「! こちらこそ、よろしくお願いします、う、詩乃!」


 ……急な呼び捨ては反則ですって葵衣さん……。

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