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第十一話

 ついにこの日がやってきた。


 今日は月曜日、千代ケ崎さんの久々の登校日だ。


「ブレザーよーし」


「よーし!」


「鞄、教科書よーし」


「よーし!」


 気合も十分、後は学校まで歩くだけ。


 昨日は千代ケ崎さんと登校を別にするか一緒にするかで戦争をした後、何とか一人で登校する権利を勝ち取り、千代ケ崎さんにここからの道順を覚えてもらった。不満たらたらな顔を見せていたがここは譲れない。まだ死ぬ訳にはいかないからな。


「それじゃ、気ぃつけて行けよ?」


 玄関で俺を見る千代ケ崎さんの頭を撫でると、幸せそうに目を細めて、にっこり笑顔。


「はい! ……えと、いってきます!」


 元気に玄関を飛び出していったのは確認できた。さて、ほとんど終わってるけど俺も準備しますかね。


 俺と千代ケ崎さんが出る時間は十分違いにするって決めたし、取り敢えず持ち物の確認するか。


 鞄、教科書、コーヒー入った水筒にべんと──弁当入れてないな。てことはまだキッチンにあるはず。


「あ」


 キッチンに置いてあったのは二つのお弁当。もちろん俺が一人で二つ食べる訳ではなく、あれだけ確認して弁当忘れるのはもう天才かもしれない。だって千代ケ崎さん三回ぐらい鞄の中身ひっくり返して確認してたんだぜ?


 でもこれを教室で渡すのはハードルが高過ぎるし、通学路も大勢の人に見られるから厳しい。でも多分千代ケ崎さんは購買で食べ物を買うのはできない。……今度ちゃんと教えなきゃだな。飲み込みは早そうだし風呂ほど手間ではないだろ。


「取り敢えず出よ」


 誰もいない部屋にいってきますと声をかけて、俺も家を出た。



 ──────────



「…………とぉーう」


「ぐぉ……」


 声につられて後ろを向くと、腹に結構な衝撃が来て、そのまま尻もちをついて倒れ込む。


「……あ、ごめんうたのん。……後ろ向くとは思わなかった」


 だとしても朝一頭突きはおかしいと思うよ橘さん……! 鞄がクッションになるとしても前につんのめるのも危ないからね?


 でもそれより──


「橘さん、怪我ないか?」


「……ん、大丈夫、タイツ破けただけ」


 ほら、と見せてくれた足は、たしかにタイツだけが破けていて、真っ白な肌は無傷だった。


「……それより、このままでいいの?」


「え?」


 登校中の生徒が多い通りで、橘さんを抱きかかえるように地面に座り込む俺。傍から見れば、美少女を抱きしめる一般生徒A。今まで気づかなかったことがおかしいぐらいの殺意の籠った視線が刺さる。


「どいてくれ、俺はまだ死にたくない」


「………………いいよ」


 いつも以上に長い間があったのが気になるが、取り敢えずどいてくれてよかった。学校で殺されないように千代ケ崎さんと別々で登校してるのにこれじゃあ全く意味がない。


「……どいた代わりに、私と登校。……それと、名前呼び」


 前言撤回全然良くなかった。歩きだそうとしたところを体全体を使って止められた。


 いや、個人的には天国だけど社会的には地獄。


 だって千代ケ崎さん以上に小さいその身長に対してアンバランスな双丘を、腕に当てられているのだから。


 心臓が痛い。千代ケ崎さんの攻撃に耐えれるようになったしいけるとか思ってたけど、そんなことはなかった。普通にやばい。


「あの、橘さん……?」


 締め付けが強くなって、柔らかさだけじゃなく弾力も伝わる。そして周りからの視線がキツくなる。


「……あおちんはB、私はE」


 何言ってるの橘さん!? 俺しか聞こえてないと思うけど、それって俺なんかに言っていいやつじゃなくないか!?


「た、橘さん……!?」


「…………それに私、つけない派」


 橘さんのとんでもない宣言と共に、腕が完全に包まれた。そりゃもうすっぽりと、ダボッとした橘さんの制服の中に俺の腕が埋まっていた。限界なんてとっくに超えている俺の理性さん、何とかしてこの状況を打破しなければ、本当に社会的な死を免れなくなってしまう。


「あの、橘さん」


 また腕の幸福度が上がる。あと一押しされたら死は確定だ。


「……何」


 腕に抱きつかれてから俺の腕の形に歪んだ胸を見ないためにずっと逸らしていた顔を初めて橘さんの方に向けた。


 橘さんは、湯気が出そうなぐらいに顔を赤くして、涙目でこちらを見ていた。


 明らかに無理をしていそうな顔に、少しだけ心に余裕が出来た。


「なんでこんなほぼ自滅みたいな事を……?」


「……先に行こうとしたから」


「それだけ?」


「……名前読んでくれるかなって」


 理性破壊して名前呼ばれた時はもう襲われてるよね、実際ギリギリだったし。


「……二つ頼んだのに、どっちも叶えてくれないのは不平等」


「う、滅相もございません」


 自分のことばかりで橘さんのことを考えてなかったのは事実であって、否定することは出来ない。


「……じゃあ早く、どっちか選ぶ」


 それならどっちもだな。こっちは散々理性削られたんだからちょっとくらい……な?


「……学校行くか、緋彩。ここで突っ立ってたら遅刻する」


「んな!? ……そこは緋彩さんぐらいにして、ばか」


 腕を包む二つのプリンの感触は、当たるだけ程度になったが離れなかった。


 背中に殺意の目線が刺さっていたが、満更でもなさそうな橘さ──緋彩を見たら、割と悪くないかもと思った。

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