トイレにエクスカリバーを忘れたら、掃除のオバチャンがガムを剥がすのに使ってた。
「漏れる漏れる……!!」
勇者は移動呪文で公衆トイレに向かうと、急いで小便器の前へ立った。
「クソッ! 鎧とか籠手とか外すのメンドクセーなぁ!!」
駆け足で装備を外し用を足す。後数秒遅れていたら漏れていた。それくらいのギリギリ加減だ。
「あー……スッキリしたぜぇ~」
そのまま手も洗わずにトイレを出て、再び移動呪文で町へと戻る勇者。しかし装備一式をトイレに忘れたままである。
「──ヤベッ! 装備置いてきちまった!!」
町へ戻るも置き忘れに気付き、再び公衆トイレへ。無事を祈りつつ慌ててトイレへ駆け込もうとするが、男子トイレの入り口には【女性スタッフが清掃中です】の札が下げられていた。
「あのー、すみませーん」
勇者が恐る恐る声を掛けると、そこには勇者が忘れたエクスカリバーで床に貼り付いたガムを剥がす掃除のオバチャンが居た。
「──!?」
剣の先っぽの斜めの部分で器用にガムを剥がすオバチャンは「いやぁ、これええわー」と、頻りにエクスカリバーを褒め称えガム剥がしに精を出している。
「オバチャン! それ──」
と、そこでようやくオバチャンが勇者の存在に気が付いた。オバチャンはエクスカリバーをキラリと光らせ「まだ掃除中ですがどうぞ」と笑顔で勇者を迎えた。
「違う違う! オバチャンが手にしてるエクスカリバー俺の俺の!!」
オバチャンが不思議そうな顔でエクスカリバーを見る。
「そか、コレ、エクスカリバーっていうのかい? 便利な物があるもんだねぇ~」
「違う違う!! 返して返して!?」
と、勇者はエクスカリバーばかりに目が行っていたが、よく見ればオバチャンがしている手袋は、勇者が装備していた伝説の籠手であった。
「オバチャンその籠手も俺の……!!」
「おやおやそうかいそうかい」
オバチャンは気にせず、今度はエクスカリバーで便器の裏の黄ばみを器用に取り始めた。
「便器にエクスカリバー入れないでよオバチャン!!」
みるみるうちに剥がされていく便器の黄ばみ。よく見れば水道の傍には逆さに置かれ水が張られた伝説の兜が置かれていた。
「オバチャーーーーン!!!!」
勇者が叫ぶ。無理もない。
勇者はトイレの中を頻りに見渡した。剣、籠手、兜。残るは盾と鎧だ。しかしそれらしい物が何処にも無いのだ。
「オバチャン……聞くのが怖いんだけど、盾と鎧を知らないかな?」
「邪魔だからトイレに流した」
「まさか過ぎるだろ!!!!」
勇者の理解の範疇を超えた隙を突くように、トイレへ農民が駆け込んできた。
「その剣と籠手と兜は正しく勇者の証……!! 勇者様、どうか魔物に襲われた村をお救い下さいませ!!」
──ガシッ!
農民に手を引かれ連れて行かれるオバチャン。勇者が「俺が勇者だ!」と声を掛けるも既に二人は遠くまで行ってしまい、オバチャンの掃除用具だけがその場に残された。
「…………」
スマホを取り出し電話をかける。
「あ、もしもし。下水道公社ですか? そちらに伝説の盾と鎧が流れ着いてませんか? あ、ありますか!? それ私のです。持ち手に【たかし】って書いてありますあります! 今から行きますので出来れば綺麗にして除菌シートか何かで拭いておいてもらえると助かります! では……!!」
電話を切り、トイレから駆け出す勇者。
しかしトイレの外には凶悪なスライムが……!!
「チッ!」
トイレへ戻り掃除用具を持ち出す勇者。
──カポッ!
トイレのスッポンでスライムを吸い付け、そのまま下水道公社へと走って行くのであった…………。