1話
「私は柳瀬真白と言います、私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。皆の自己紹介が終わったら、是非私と連絡先を交換してください。それから放課後や休日は色んな人と沢山遊んで、沢山思い出を作りたいので、どんどん誘ってください!」
高校2年生、初夏のホームルームで、そう挨拶した彼女は間違いなく、クラス内で一番目立っていた。
その理由は気さくさだけではなく、その容姿にもある。彼女は誰が見ても、一度は振り返ってしまうほどの美少女なのだ。
よくラノベなどでは『学校一の美少女』と表現されることがあるが、彼女はそれを体現したかのように美しい。
自己紹介を終え、彼女が自席に戻るとそこには男女問わず人だかりができる。
彼女はそれに笑顔で受け答えている。
誰かが面白いことを言えば彼女は笑い、悲しいと言えば親身になって話を聞いている。
そんな彼女だ、彼女は転校してきて一日もせずに”優しくて可愛い完璧美少女”と呼ばれるようになっていた。
そんな彼女が今、目の前で俺を睨んでいる。
・・・・なんでこうなった。
☆
俺が高校から帰ると、玄関には一枚の紙が貼られていた。
『三ヶ月間の滞納分を払って頂くまでは、この部屋は貸せません。中にあった荷物は大家まできてください』
え。
家賃三ヶ月を滞納してたらこうもなる。
覚悟はしていたから、あまり動揺はしない。
とりあえず今日は寝カフェにでも泊まって、野宿を回避しよう。そう思い、財布を開ける。
・・・・あ。
財布の中には1000円札一枚と小銭が何枚か。
終わった。
こんな時はとりあえず叫ぼう。
「金がねぇぇぇぇ!!!」 「部屋追い出されたぁぁぁ!!!」
俺の叫び声に重ね、誰かが叫んだ。
似た内容に情けない笑みを浮かべながら隣を向き、お隣さんと目が合う。
「「あ」」
柳瀬真白。なんでこんなところにいる。
「聞いた?」
彼女はそう聞いてくる。その目はすごく焦っている。
「あ、ああ」
ばっちり聞いた。
「最悪!なんでこんなぼっちに弱み握られないといけないのよ!」
えぇ?本当に柳瀬真白か?
学校での柳瀬は人のことをぼっちなどと蔑んだりしない。だが柳瀬は今間違いなく俺のことをぼっちと言った。
ぼっちは否定しないがなんなんだ。
「ほんと最悪!ねえ、あなた、学校でこのこと言ったら許さないわよ?」
「お、おお」
柳瀬の声音には有無を言わさない迫力があり、反射的に頷く。
それを見ると柳瀬は階段を降りて言った。
大家さんのところに荷物を受け取りに行くんだろう。
これはあれだ、彼女は学校で仮面を被ってたってやつだ。
それにしても、だ。今の柳瀬はなんなんだ?あまりにひどくないか。
こうなったら彼女の本性を暴露しようかと考えたが、やめておく。そんなことをしたら本当に変なことを言い出しかねない。
はぁー。
乾いたため息が溢れた。
俺は大家さんの部屋を訪れた。
その部屋には俺以外にもう一人−−−柳瀬真白だ。
なにやら言い争っている。
「大家さんそれだけは・・・・」
「それじゃあ野宿するの?」
「そ、それは・・・でも」
「じゃあ彼には私から提案してみるから」
大家さんと話している柳瀬は別人のような感覚を覚える。
不思議なやつだな。
そう思った瞬間、二人は俺の存在に気づいた。
「あ、ちょうどよかった。浅川くん。提案なんだけど、柳瀬さんんと一緒に住まないかしら?」
「は」
かっらぽな声に応えるように大家さんが続ける。
「君達二人はお金がなくて住む場所がない。でも、二人で一部屋なら借りられる。違う?」
「そうですね?」
柳瀬はずっと下を向いている。
「だったら二人で一部屋を借りてこのマンションに住まない?私としてもマンションから追い出すのは心苦しいの」
そこまで聞いて頭が働き始めた。
二人で暮らすってことは、柳瀬と二人で生活するってことだよな。
は?ありえないだろ。
「いやそれわ」
柳瀬のことを見ると未だに下を向いている。
そりゃやだよな。
こんな男と二人で生活するなんて。逆の立場だったら俺でも絶対に断っている。
「私は、最悪それでもいい。一人で暮らせるだけのお金が貯まれば、すぐにあなたとは離れる」
まじか。
柳瀬の言葉は意外なもので俺は目を見開く。
・・・・いいのか?
「大丈夫か?」
「野宿する方が・・・嫌だ」
そういうもんなのか?
俺も野宿は嫌だが、寝カフェに止まることすらできない。友人もいないから誰かの家に泊めてもらうこともできない。
・・・・しょうがないか。
「わかりました」
俺が答えたことによって俺と柳瀬との不思議な同居生活が始まった。
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