バトルシステム
「ほんとにデフォルトのままじゃない。ほら、とりあえず少しは現実のルックスに近づけてくれる?」
ラルゴ中心部の噴水公園で、無事に美香と合流できたタカは、さっそくアバター(初期設定のむさい親父戦士)に文句を言われていた。もしかすると、パーティー組めなかったのは、この見た目のせいかもしれない。
現実の自分とまったく別のアバターを作成する人もいるが、自分はできるだけ現実の自分に近づけたい派だ。無論、身長は高くし、筋肉を厚くするくらいはさせてもらっている。典型的な日本人。黒髪で黒目。特徴をつけるために、左腕に十字架のタトゥーを付けてみた。
美香も、ほぼ現実を同じような顔立ちだが、金髪碧眼になっている。額を大きく出すタイプのミディアムボブで、美香の雰囲気とよく似合っている。胸も若干大きくしたようだ。
「さて、私のことは、ミカでいいわ。あなたも、タカって名前みたいね?」
ミカが連れてきた二人の仲間と挨拶し、今日は4人パーティーで戦闘指南してくれる事になった。
「ミカは、ヴァイオリンだろ?他の二人の楽器は何か、教えてもらっていいかな?」
ミカにたずねると、いきなり蹴られそうになった。もちろんゲーム内でプレイヤーへの攻撃は禁止されているので、攻撃は届かない。
「は?どう見てもチェロでしょうが!ほんと何もわかってないのね。」
と、大きな楽器ケースを振り回しながら文句を言ってきた。
たしかに、ヴァイオリンにしては大きい。
「他の二人も同じサイズの楽器ケースだね?」
どうやら今日は、チェロ3人と俺(指揮)のパーティーらしい。
4人は街の北門から平原までやってきた。いや、いつのまにかタクトが出現しているから、5人かな。呼んでいないのに出現するとは思わなかった。理由は分からないが、タクトは少し嬉しそうにしている。ふらふらと挙動はいつものようにおかしいが。
「じゃあ、今日はチェロ3人のアンサンブルで戦うから、よく見ておいてね。タカはとりあえず、何もしないで大丈夫だから。」
ミカはそう言って、平原の向こうから突進してくる牛のようなモンスターを見ながら、自分に下がるような手振りをしている。そして、戦闘態勢に入った。ミカがリードするようだ。
「さあ、いくわよ!曲名はラルゴ北部平原バトルワルツⅠね。アームド(武装化)!!」
「アームド(武装化)!!」
「アームド(武装化)ォォ!!」
3人が勢いよく叫ぶと突然、大きな剣を持った戦士が3人現れた。全身が緑色の甲冑に覆われ、顔は見えない。どうやら、彼らが戦うらしい。指揮棒とは大分状況が異なる。
緑色の戦士の後ろで、チェロ3人がテンポの良い曲を演奏している。その旋律にあわせ、緑色の戦士がモンスターと戦っている。演奏のリズムにあわせ、攻撃したり、演奏中の3人の身を守ったり。
「タカ、オーケストラオンラインの通常戦闘はこんな感じよ!演奏を正確に行うことが一番重要。もちろん、演奏できない人にはリズムをあわせるだけのモードもあるけど、本当の楽器のように演奏できると、やはり多彩な攻撃ができるの。私たちの場合は、演奏しながら、自由に戦士を操作する事ができるの。」
ミカは演奏しながら器用に説明してくれている。演奏しながら戦闘をイメージするなんて、とても難しいような気がするが、慣れらしい。しかも、演奏が決まった時に発生するクリティカルなど、クリティカルエフェクト衝撃と音が、演奏中の楽曲と重なりあって、現実では感じることのできない達成感があるらしい。なにそれ、楽しそう。
また、今回は雑魚相手なので何とかなっているが、本来は様々な楽器の組み合わせのパーティか、指揮者同行じゃないと、苦戦するらしい。チェロはソロ向きの楽器らしく、戦闘スキルが万能タイプなので、ソロでも戦えるらしい。ソリストプレイというみたいだが。チェロのほか、ヴァイオリンやピアノもソロ向きの楽器らしい。
それでも強敵相手やレイドモンスターの場合、演奏と戦闘を指揮してもらわないと、まともに戦闘できないらしい。まだ誰も、レイドモンスターや街ごとに存在しているらしいボスを倒せずにいるようだ。そのせいもあって、戦闘志向のプレイヤーがゲームをやめていったらしい。
ミカたちの戦闘は一方的だった。そろそろ決着がつくだろう。
それにしても、タクトが教えてくれた戦闘スタイルと違いすぎる。タクトに文句を言おうとしたとき、ミカが叫んだ。
「そろそろトドメ!!気が進まないけど、いくわよ!!」
3人が楽器を振り上げ、3人の緑の戦士が羽交い絞めにしているモンスター牛の脳天に向かって、
まるでチェロを鈍器のように使い、一斉に殴りかかっていた。