-現実サイド- 美香と夜の公園で
夕食後、部屋に戻りさっそく美香にテキストを送信。
”最近始めたゲームがあるんだけど、一緒に遊ばない?”
美香からはすぐに返信が来た。近所の公園で話を聞く、とのメッセージ。
部屋から外を見ると、きれいな冬空が広がっていた。都会でも田舎でもないこの地域だが、今夜はいつもより星が明るくみえた。夜になってだいぶ冷えてきたので、すこし厚めに羽織っていこう。途中で美香に何か温かい飲み物を買っていかないと、たぶん怒られる。
母に近所の公園で美香と話をしてくると伝え、玄関から外に出た。
待ち合わせの公園はすぐ近く。しかし、少し離れたコンビニでホット紅茶(無糖)を買って公園に急ぐ。美香はすでに公園に来て、ベンチに座っていた。俺に気づくと、手を振りながら、さっそく悪態をついてきた。
「タカ、遅い。女の子をこんな寒い場所に待たせるなんて、最低男子ね。」
「ごめん、美香。ほら、飲み物買ってきたから許して。」
ホット紅茶(無糖)を渡すと、美香はニカっと笑い、受け取った。この儀式も久しぶりだな。
「大学の卒業式以来だよね。けっこう久しぶりだね。もうそろそろ1年経って春だよ。でもまあ、元気そうじゃん。」
「美香も元気そうでよかった。」
美香はベンチから、よいしょって立ち上がり、自分に近づきながら聞いてきた。
「で、ゲームのお誘いだっけ?色気がないのは変わらないね。」
「まあ、お前だしな。痛い! いきなり蹴るなよ。 オーケストラ オンラインってゲームなんだけど、知ってる?なんか戦闘パーティー組んでくれる人がいなくて、募集中なんだ。」
つま先で俺の脛を蹴ったときに、自分も少し痛かったようで、顔をしかめながら美香が答える。
「そのゲーム、発売日すぐ位からやっているんだよ、実は。音気にしないで練習できるからね。」
「ああ、趣味でオーケストラやってるんだよね? 痛い!!」
また蹴られた。。
「は?? これでもプロオケに所属してます!! 何度も言ったと思うけど、やっぱりちゃんと記憶してなかった。。 学校出てすぐにオケに所属できるって、すごい事なんだよ?って言っても分からないよね。。」
「ああ、そうだな。ごめん。。」
俺は蹴られた脛をさすりながら答えた。下手したら骨にヒビが入っているレベルだぞ、これ。美香の声も大きいから、住民に警察を呼ばれる前に、終わらせないと。
「それで美香、久しぶりに一緒にゲームしない?すでにプレー中とか、心強いよ!」
「もちろんOKだよ。ほんとはこのゲームは練習用のつもりだったんだけど、そろそろ戦闘イベントこなさないと、演奏のほうに影響が出そうなんだよね。運営も、戦闘パーティーが少ない事に危機感を持っていて、修正してくるって噂があるんだよ。」
美香は昔から俺よりもディープなゲーマーで、広いネットワークも持っている。その美香が言うのだから、間違いないだろう。
「次は一緒にプレイしましょう。で、タカはどういうアバター? 特徴教えて、探しに行くから!」
アバター?そういえばルックス設定してなかったから、初期状態のままだわ。初期状態ってどういうルックスだったけ?
見た目にまったく無頓着なタカであった。