-現実サイド- 夕食
ゲームからログアウトしたタカは、すぐに夕食に呼ばれ、自宅のダイニングで母との食卓を囲んだ。
母ひとり、子ひとりの二人家族。寂しい時もあるが、親子関係は良好だ。
正面に座り、おかずのエビフライを箸で器用に切り分けながら、母が口を開く。
「タカ、ゲームしてたみたいだけど、珍しく長い時間やってたわね。新しいゲーム?」
「ああ、ちょっと気になったゲームがあって。
初期設定とかあったので、長時間ログインしちゃったよ。」
バラバラになったいエビフライを口に放り込みながら、母はつづけた。
「フルダイブ系のゲームでしょ?いいわね、面白かった私もやってみようかな。
脳への刺激になって、認知症予防にいいって、TVで言ってたわ。」
「ああ、確かに刺激的ではあるよね。日常では味わえない状況を、リアルに味わえるわけだから。
今やっているゲーム、オーケストラ オンラインっていってね。
残念だけど、自分には合わないゲームだったよ。
楽器演奏がメインで、バトルとかメインじゃないみたい。」
TVには母の好きな健康番組が映っている。
画面をチラ見しながら母は、実にもっともな指摘をしてきた。
「オーケストラっていう位だから、そりゃ戦闘よりも演奏なんじゃない?」
「まあそうなんだけど、パッケージには『楽器で戦闘、演奏もできるよ』というニュアンスで
書いてあったから、バトルメインって思ったわけ。
一緒に戦ってくれる友達探すのも苦労しそうな感じだよ。」
ここで母の目がキラリとひかり、いやらしい笑みを浮かべた。
嫌な予感がする。
「なら、美香ちゃん誘えばいいじゃない」
やはり。。
天手 美香 (アマデ ミカ)
同い年の幼馴染
趣味でオーケストラに所属
楽器は確かヴァイオリンと言っていた気がする。
一度こうなったってしまったら、声だけはかけておかないと、
後で母親ネットワークで散々に言われそうだ。
しょうがない、連絡はしよう。誘ってはみよう。気が進まないが。。
「オーケストラね、お父さんを思い出すね。楽器で戦うって言ったわよね?
タカは楽器は何を選んだの?」
「ああ、指揮棒にしたよ。ちょっと気になっちゃってね」
思わずしみじみした口調になってしまう。
自分は父の事を覚えていないが、両親はとても仲が良かったらしい。
TVの音が遠くなった気がした。
昔ながらの蛍光灯で照らされている部屋。
照明を見ると、チカチカと光が跳ねた気がした。
「そう、指揮棒ね。お父さんは指揮者になるのが夢だったのよ。」
母はうれしそうに、何度も自分にしてくれた話を、また始めたのだった。
すると唐突に、怒られてしまった。
「まさか、指揮棒で殴ってるわけ?お父さん悲しむわよ、、」