菅原邸のセキュリティ。
久しぶりの更新です。
前回までの話を忘れたという方、大丈夫です。私も忘れました。(おい作者)
それではどうぞ、続きへ
目の前のパソコンを睨む。
…ハッキングなんていつぶりだろうか。
n区に来てから、余計なところに突っ込まず、noahの研究にだけ費やしてきた時間。
(なのに、また僕は。)
そう思ったところで頭を振って、座り直した。
菅原邸のセキュリティシステムは、僕の上司が作ったこれ以上なく難解に暗号化されている。
「うーん、でもなぁ…。」
ところどころに娘息子の名前をパスワードに使っちゃうあたりが、先輩らしいっていうかなんていうか。
――セキュリティロックが解除されました――
親バカ過ぎて、ちょっとどうしょうもない。
――警報システムが一時的にダウンします。再起動まであと02時間です。――
「えっと…?…うわぁ、よくこんな地味な嫌がらせみたいなトラップばっかり…ってそうだ。」
先輩は直属上司だから、やり方はよく知っているしシステム開発にも一枚噛んでいるから余計やりやすかった。
僕は防犯カメラの方に一時間前の情報をループで流すようにして、こちら側のパソコンに防犯カメラの実際の情報を流す。
「睦月さんはーっと。あ、いた。」
一方の睦月は、忍び込んだ場所で途方にくれていた。
「…。」
菅原邸の一角にある文書を盗んで来いとの、伝令が来たのは一刻ほど前の事。
アジトでのんびりしてたら、ボスに呼び出されて真琴ちゃんが連行されて…失敗したら殺すとか言うから、なんかもうこの組織もいよいよ上が切羽詰まっているのだろうか。
(どうしようか?まぁ最悪、壊せば出られるけど警報が鳴って人来ても面倒くさいのよね。)
人命…しかも理由があったとはいえ監禁状態にして連れてきてしまった青年の命がかかっている。失敗はできないと私は自分を奮い立たせる。
「あ。睦月サマ〜?師走ちゃんにあってきたよ?」
廊下のど真ん中を堂々と歩きながらこちらに声をかけてくる男が一人。
「…貴方、うちの非戦闘員側でしょ?敵地のど真ん中で何してるわけ?バカ?」
私がそう言うと男――霜月は笑った。
「あれー?睦月サマ、猫が剥がれてるよ?被り直さなくていいの?」
「別に今更貴方相手に被っても仕方ないじゃない。いちいち『そのクサイ演技と気持ち悪い笑顔やめない?』とか言われるの面倒くさいわ、私。」
そう言って笑顔を作って霜月に向けると霜月はあからさまにげんなりした顔をした。
「うわぁ、気持ち悪い笑顔〜。」
相変わらず失礼なやつだ。
「…で?」
「あぁ、はいはい。彼、やっぱりハッキングやりだしたみたいだよ?事実ボク堂々と玄関から入ってきたけどなんもなかったし人にも会わなかったしー。」
私の言葉は無視したわけね?真琴ちゃんったら。
鎖くらい引きちぎって逃げられるでしょうに。
内心舌打ちをしながら、ニコリと私は微笑んだ。
それを見た霜月が顔をしかめたのはいつものことである。
…もちろん、普通の人間に鎖を引きちぎる事ができないのは言うまでもないのだが、この組織で普通ではない者たちとばかり接してきた睦月の頭からその事はスコンと抜けていた。
「って事は、脱出は思ったよりラクそうね。」
相変わらずハッカーとしてのあの子は天才級だ。
「まぁ、最悪ボクがなりすませばいい…ってなにしてんの睦月サマ?」
「え?警報装置多分あの子の事だから一番初めに切ってるでしょ?なら、この扉壊そうかなって?」
大きく振りかぶって拳を下ろそうとした睦月を霜月は手首を掴んで止めた。
「待って待って!そういうのやるから師走ちゃんに怪力ゴリラとかいわれ…いや、すいません。待って睦月サマ、蹴ろうとしないでボクが悪かったから!!ねぇそれより防犯カメラに合図何か送れない?」
睦月の渾身の蹴りを手首を掴んだまま、スレスレで身を反らせて避けながら霜月が上の防犯カメラに視線を投げた。非戦闘員と言っても化物クラスで建物を破壊したりなんだりをする人達よりはというだけで、霜月の身体能力も人並み外れてはいる。ただ、変装をする際に邪魔だから無駄に筋肉をつけたくない、というのが一つ。そして本人が「ボクは諜報員だから」と言ったから、〈非戦闘員〉などという扱いなのだ。
「何いってんの。記録に残らないように死角付いてここに来たのに…ってそうかそうよね。」
堂々と歩いて入ってきたと、いまさっき聞いたばかりだ。ならダミー情報を流すにしろ何にしろ、対策を講じてるのはわかる。こちらを見ているのならば彼に開けさせたほうが断然早いのだ。
私は防犯カメラに向かって大きく手を振った。