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ノアの変革  作者: 橋姫
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プロローグ

これはただ、私が悪役サイドをプレイするゲームが好きだったので、その影響で生まれた産物です。基本は平和…で、ありたい。

 暖かくやわらかい日差しが僕を包む。今は二月。時期としてはまだ肌寒いのだが、窓越しに差し込む日差しは優しく僕を癒してくれた。

現実逃避をしたい僕の心を。

「真琴ちゃ~ん!ご飯まだ~?」

「今出来ますよ。睦月さんおとなしく座ってて下さい。……って、何当たり前のように僕の部屋にいるんですか、飯をたかろうとしてるんですか、そして僕をちゃん付けで呼ぶな!僕は男でしゅ」

盛大に噛んだ、痛い。ダブルの意味で。

「あはは、でしゅだってでしゅ。かわいいなぁ」

そう言って睦月さんは僕の頭を撫でた。僕はその手を文句を言いながら払いのけ、ご飯の支度を再開した。

 なぜこの人が僕の家に居座るようになったのか。話は少し時間をさかのぼる。




☆ ☆ ☆ ☆ ★





僕はいつも通りに仕事を終えていつもの通りに帰宅する予定だった。予定だったというのも、それがとある面倒ごとに巻き込まれたせいで出来なくなったということなのだけれど、この時の僕はまだ知らない。


「お疲れ様です」 


「お疲れ様。あーそうだ。真琴君さぁこの間のあれ、よかったよ」


そういって、形式通りの挨拶を先輩上司にすると、先輩上司が話しかけてきた。僕は内心舌打ちをしながら表では笑みを作って応対することにした。早く家に帰りたい。


「もしかしてあれってbellのことですか?」


「そう、それだ」


bell。それは人をサポートするために僕が開発したプログラム。bellは人と話しをすることで学習し、成長していく。人のかわりにデータに関することであればなんでもしてくれる。例えば予定管理、時間管理など。

 まあもっとも僕が住んでいる地区は政府の実験地区に指定されているからすべてがネットを介して行えるため、炊事、洗濯などもゆくゆくは行えるようにするつもりだ。


「さすが、天才プログラマーだね。……おっと、そう睨まないでくれ。天才ではなく努力家、か」


僕は思わず先輩を睨んでいたらしい。自覚した後、営業スマイルに切り替える。その変化を目の前で見ていた先輩は苦笑をもらした。


「まあbellは僕が楽をするために作ったものですし、それが誰かのためになるのならそれでいいです」


営業スマイルでそう言った僕を先輩は疑いの目で見るのだった。





 先輩と別れて、帰路に就く。

帰りがけよく知っている道を歩くとき、皆さんは考え事をしながら帰ったりしないだろうか。

ふととあることが浮かんでは消え、また浮かんでは消える。まあ、要するに僕、白井真琴は考え事をしていた。その内容についてはこの地区、そしてこれからのことだった。


 僕の住んでいる地区は先ほど触れたとおり、実験地区である。何の実験かというと、人類管理システムNoahの実験登用地区だ。Noahとは政府お抱えの研究チームが発表した、新プロジェクトだ。「よりよい生活と健康」をモットーに立ち上げられ、Noahプロジェクトは実験登用段階にいたった。その登用先がn地区である。地区の代表はNoahの登用について投票を行い、過半数越えで可決。よってn地区は実験登用地区へとなった。それにより、ネットを返して様々なことが出来るようになった。

例えば、食事なんて、ベルにいえば一瞬でぽんっと机の上に出るし、容姿の変更でさえ簡単に出来てしまう。…ただ、食事に関しては自分で作ったほうが美味しいので僕は自分で作るけれど。


まぁそれはともかく、このままでは犯罪に悪用されてしまう可能性すらあるのが現状だ。一応何か犯罪行為をしようものなら事前予測で警察に連絡の行くようにはプログラムを組み上げてはいるのだが…。


と、ここで思考がはたと止まる。

向かいから来た人に目を奪われたのだ。




綺麗な人だと思った。

歩く度にふわふわと浮く彼女の明るく茶色い髪が、まるで天使の羽のようだと思った。




 僕は彼女をぼぅっと見ていた。見惚れていたのだ。彼女が僕の横を通り過ぎようとするまで、僕は動けずにいた。

彼女はまるで重さが微塵もないかのように僕の横を歩いていこうとした。

だが、彼女はふらっと揺れたかと思うとその場に倒れた。


「だ、大丈夫ですか!?」


慌てて僕は彼女に声をかけた。

すると彼女は目を開けて、一言。



「お…」



「お?」






「お腹減った…」



それだけゆって気を失ってしまった。


「え、えぇー…」

なんかとてつもなく残念な人の香りがする。





なにはともあれ。こうして、彼女ー睦月さんと出会った。






☆ ☆ ☆ ☆ ★





「おーい真琴ちゃーん??真琴ー?真琴ちゃまー???」


「…あのときはすごくキレイな人だと思ったのにな。」


現実は非情だ。こんなに可愛いのに、中身は残念だなんて。


「真琴ちゃん!!もう無視しないでよ〜」


そう言って力いっぱい僕を揺する睦月さんを無視していると、彼女はどうやら飽きたらしく、洗濯物の山にダイブ…


「って!!!!睦月さんさっき畳んだばっかりなのに散らかさないで下さい!!!もぉー!!!」


「だって真琴ちゃんか無視するから〜」


これを片付けるのが誰だと思っているのだろうと睦月さんを睨む。


「真琴ちゃ〜ん、ごーはーんー早くー!!」


「はいはい。」


催促されて、ご飯をテーブルの上に置くと睦月さんはホントに嬉しそうに微笑むのだった。

なんだろう、彼女の後ろに尻尾の幻が見える。興奮して尻尾をブンブンと振る尻尾が。


「やったぁ!じゃーあー頂きまーす!」


手を合わせて美味しそうに食べる睦月さんはとても幸せそうだ。


「睦月さん。」


「はひ、なんへほー。」


「…飲み込んでから話して下さい。」


「…。はーひ。…んでなあに?」


可愛らしく首をかしげる。憎たらしいほど可愛いのだが、頬にご飯粒がついたままだ。子供か。


「頬にご飯粒ついてますよ。…じゃなくて。いつになったら貴方は自分の家に帰るんですか…。」


睦月さんと出会って今日で一ヶ月。ご近所さんには彼女と勘違いされてるし、生活に余裕はあるけれど、居候をずっとおいておくわけにもいかない。元々、一人で借りた部屋なのだ。管理人にドヤされる。

僕の言葉に睦月さんはご飯粒を取ったあと少し考え、真面目な顔でこう言った。


「…真琴ちゃんが私のお嫁さんになってくれるまで?」


お嫁さん…。お嫁さんって…。

いや、僕男なんですが。

せめて旦那ではないのだろうか。

この手の押し問答は何回したかわからないので、もう諦めるしかなさそうだ。


「…貴方は僕のストーカーか何かなんですか?わざと僕に接触してきたんですか…???」


だとしたら、少し怖いかもしれない。

あんな場所で行き倒れたのは演技だったのか。あれだけありえないほどお腹がなっていたのだが。

そんな事を僕が言うと睦月さんはポカーンとした後弾かれたように笑いだした。


「…ふふ、あははは!違うわよ真琴ちゃん。私は貴方に胃袋を掴まれたから、こう言ってるのよ!」


そう言ってドヤ顔をする。

なんでドヤ顔でいうんだ。アホなのかこの人は。


「それにね…お嫁さん…とはゆったけれど、現実的には相棒に近いわ。パートナーよ。お嫁さんっていうのは…まぁ冗談だけど、結婚をしようとゆってるわけではないのよ。私の仕事を手伝ってほしいの。パソコンに詳しい、真琴ちゃんにはね。」


そう言って睦月さんはニヤリと笑った。


「お断りします。」


そう僕が言葉にすると睦月さんは楽しそうに笑う。

その笑みは妖艶で、キレイだけれどどこか僕を不安にさせた。

ゾワ…っと鳥肌が立つ。


「どっちみち、真琴ちゃんには拒否権なんか無いわよ?」


ピンポーン


チャイムがなる。

僕が、ドアを開けようとすると、睦月さんは僕の手を掴みこう言った。


「開けないほうがいいわ。だって開けた先にいるのは追手だもの。」


いつもの無邪気に笑う彼女ではなく、恐ろしく冷たい声をした冷ややかに笑う彼女。

それでもこんな時でさえ、綺麗だと思ってしまう僕はおかしいのだろうか。


「追手?」

そう聞く僕の声は酷く困惑している。


ガチャガチャ。ドンドンドン


ドアを叩く音。開けようとする音。


「天才ハッカーの名が泣くわね。【ノアの箱舟】って知らないかしら?」


睦月さんはなぜそれを知っているのだろうか。僕は自分が昔伝説級のハッカーだったと言う事はゆっていないし、それどころかなんの仕事をしてるのかすらゆってはいなかったはすだ。


僕はプログラマーの仕事をしてこそいるが、元は有名なハッカーとして世間を賑わせた人間だ。

このn地区には刑務所上がりの人間や裏社会の人間が紛れ込んでいたりもする。

あらゆる意味で治外法権であり、犯罪を事前予測する事のできるこの場は一番危険で一番安全な場所である。


なるべく平静を装い、僕は言葉を繋ぐ。


「あぁ、動物の番を乗せて助けたっていう…。」


「違うわよ。そうじゃなくて、反社会的組織の方。」


「は、反社会的組織…!?」


「そこのメンバーなのよ、私。そして私と一緒に居るあなたも、組織の一員として相手は考えるでしょうね?」


ドンドンドンドン!


次第に大きくなる音に、焦る僕。

こんな事現実にはない。あってはならない。


「ちょ、ちょっと睦月さん!?」


睦月さんは僕の手を掴むと、そのままベランダに向かう。

そうして軽々と彼女は僕をお姫様抱っこする。


「なにしてるんですか!?降ろせ降ろせよ馬鹿!!!」


僕が必死に抵抗してもびくともしない。

というかこれは…成人男性としてはどうなんだ。

何か…いろいろ間違ってはいないだろうか?


彼女が僕をお姫様抱っこしてベランダを飛び降りたのと、ドアが嫌な音を立てて破壊されたのはほぼ同時だったように思う。


「何する気!?やめてやめてやめて無理無理僕死ぬ!こんなとこから落ちたら死ぬから!!!!ここ14階だよ!?ねえ聞いてる聞いて!?ねぇぇぇぇ」



「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ」


僕の悲鳴と共に変わったことがただ一つ。



それは僕が、何か面倒くさい事に巻き込まれたと言うことだ。

そして僕の平穏無事な生活は…終了したのだった。




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