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マモノツカイ  作者: 黒歴史丸
8/21

まぁ挫折も必要だよ人生って

遅れました…

「惚れた視線のさーきにー♪」

『新しいせかーいー♪』

「時雨様は…独特の歌いですね?」

初めての遺跡潜りは順調に進んだ。

思わず歌っちゃう位である。もっとも時雨の歌ははっきり言って微妙であったが。

「待ちな!」

その時!岩陰から2人組の男達が現れた!

「命が惜しいなら荷物と女は置いていけ!」

「ククク…マモノツカイ相手なら窃盗も殺人も合法なんだぜぇ?」

時雨達一行は思わず身体を強張らせた。

想定して居なかった訳では無い。

職業斡旋所での人々の冷たい態度から、この世界におけるマモノツカイの扱いは何となく察していた。

襲われる事も想定していた。

しかし実際に目の当たりにすると足がすくんで、冷や汗までかいてしまった。3人共である。

「ククク…冥土の土産だオレ達盗賊兄弟の歌を聴かせてやるぜぇ。」

「いくぜ!」

すると何故か2人組の男達こと盗賊兄弟が歌い出した。

「俺たちゔぁ!」

「兄貴ー!」

しかし!主人の危機にサンドリアの頭の上で寛いでいた毛玉が飛び出した!

それまで微動だにしなかった毛玉のような生き物は、

鳥の様な強靭な脚力で盗賊の歌をインターセプト!

「この毛玉がぁ〜!人が話してる時は黙って聞くのが礼儀だろうが!」

『盗賊の言う事じゃねぇなぁ。』

毛玉の様な生き物に鼻の骨をへし折られ、鼻血を出しながら文句を垂れる盗賊の姿に、時雨達一行の恐怖は薄らいだ。

毛玉の様な生き物はそんな時雨達の仕草に満足したように笑い、再びサンドリアの頭上へ舞い戻った。

「おのれぇー!兄貴の仇ー!」カチッ

盗賊弟は時雨達に襲いかかり!足元の罠のスイッチを踏んでしまい…

「「あー!」」

足元に空いた穴に落下した。

「…先行こうか?」

「はい…」

時雨達は何とも言えない顔で先へ進んだ。


明るいとは言っても日の光も人工の明かりもない地下、『湖裏水脈』には薄暗さがあった。

しかしその暗さを意識することなく探索ができていたのは時雨達の心に余裕があったからだ。

その余裕はある種の油断であったが、同時に時雨達の心を守っていた。

しかし余裕はもう無い。時雨達は死の迫る感覚を覚えてしまった。自分の最期を意識してしまった。

盗賊兄弟は詰めが甘く勝手に罠に嵌って落ちて行ったが、彼らは確かに時雨達に死の恐怖を刻んで行った。

「…」

時雨達一行の足取りは重たかった。

戦いに身を置くということがどれほどの重さを持っているのかを理解させられた。

自分達の危機で足を竦ませ、動くことが出来なかった事実。

とてもこれから世界を救う自信なんて沸かなかった。

『…』

ペルは考えていた。

彼は時雨とは長い付き合いで、幼少のころからの親友であった。

日本に居たときは物言わぬ人形であったとはいえ友情は本物である。

故に時雨が恐怖に竦んだ時、何も出来なかった現実を本気で悔いていた。

時雨が『芸人』ではなく『勇者』として振る舞おうと気負っている事も心配だった。


『湖裏水脈』の中腹付近。時雨達の探索の目的地にて

「何や…何が目的なんや!」

『湖裏水脈』のマモノの一人を襲う影が一つ

「ワイら確かにマモノや、人だってまぁ襲う仲間もおる。」

「それでもワイらは…『湖裏水脈』はずっと仲良うしてきたやんか…なんで今更『遺跡破壊』なんてするんや!」

マモノの必死の説得も空しく影は聞く耳を持たない。

冷たく空虚な瞳でマモノを見つめ、その手に持っていた獲物を静かに振り上げた。

「時雨と」

『ペルの』

「『楽しい雑学』」

「今回は窃盗罪だよ」

『懲役10年以下又は50万円以下の罰金に処されるぜ!』

「日本の刑法ではだけどね」

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