渡る世間は変人ばかり
第五話
『カッ?!テメェが服着てねーのが悪いんじゃねぇか!』
「服着ようよ?下着姿でうろうろしてると君の方がエッチな人呼ばわりされるよ?」
下着姿の姫君サンドリアに対し、2人はそう指摘した。
「この快楽を捨てるのは嫌です…見られてるかもしれないって思うと恥ずかしいけど気持ちいいんです。」
そんな指摘に対するサンドリアの返答は明らかに開けてはいけない扉を開けてしまった変態の言葉であった。
「でも下着姿じゃ外に出れないよ?」
『マモノツカイ云々とは関係無く牢屋行きだよ!」
諦めずに説得を試みる2人だったが
「外…大勢の人…ああ、ダメです、そんな…気持ち良すぎます。」
逆効果であった。サンドリアは妄想で興奮し、顔を真っ赤にして身体をくねらせ、息を荒らげた。
その後、サンドリアが妄想の世界から帰ってくるまで10分はかかった。
「ごめんなさい。少しおかしくなってしまって…何時もこうなんです。妄想し始めたら止まらなくて…。」
10分後。2人はようやく現実に帰ってきたサンドリアと改めて向き合った。
今度は立ち話では無く、お互いに机を挟んで椅子に座って居る。
「うん。別にいいよ趣味は人それぞれだし。ただ一緒に牢屋行きは嫌だな。」
時雨は何でもない様に言った。
世の中には変な奴が居るものだ。事実、時雨だって常に腹話術の人形と話しながら生活する変人である。
その腹話術の人形が付喪神になり、魂を得たとは言えその生活は変わらない。
「牢屋…看守…ああ、そんな下着まで…興奮します。」
サンドリアは牢屋から何を連想したのかまた妄想の世界に行ってしまった。
『カッ!?またかよ!?駄目だ帰って来い!』
「ああそんな情熱的な…優しくしてください。」
ペルが現実に引き戻そうとして肩を掴み、更にサンドリアが妄想を悪化させてしまう。
まるでコントだ。
「サンドリア姫!」
そんな一連の流れを断ち切ったのは時雨の一言だった。
「は、はい。」
いきなり声を掛けられ、少し驚き気味にサンドリアは返事した。
「姫の趣味や癖は分かりました。しかし下着姿では活動に支障が出る。ここは折衷案と行きましょう。」
「そんな癖までお見通しなんて…。」
「サンドリア姫!」
「は、はい。ごめんなさい。それで折衷案とは?」
『まさか上からローブで隠すとか言わねぇよな?』
時雨は一向に話の進まない状況を打開するべくある提案をした。
サンドリア姫が妄想世界に旅立った時は、強く声を掛けて現実に引き戻す方法も習得した。
「姫は服を着たく無い。でも外を出歩くのは服が必要。ならば間を取って下だけ脱ぎましょう。」
『そうか!下着だけを取れば外からじゃ分からない。そこに気づくとは時雨やはり天才か。』
「でも…誰にも見えないのは興奮が薄いです。」
「スカートならどうかな?風でめくり上がったら?」
それは悪魔の囁きだった。
ただでさえ末期の露出癖を更に悪化させかねない。しかし、その快楽から逃れる術をサンドリアは持たなかった。
「ああ…あああ…私見られて…中まで…。」
サンドリアはしばらくの間、時雨やペルの声で妄想の世界から帰ってこれなかった。
『ようやく城下町だよ。』
「ごめんなさいペル様…私…あんな無様な姿を…ああ…。」
「それはもういいから!」
時雨の出した案を採用し、下着抜きで離れから外に出た3人は城下町に出ていた。
離れで金や道具などの支援を受け取っているが、元の世界との文化の違いに不安がある。
世界の危機の詳細も分からず、行動の指針も無い。
情報の収集は必須だろう。
「お2人がこの世界の事情に疎いとは道中に聞きましたが…一体何を話すべきでしょうか?」
歩きながらサンドリアは2人に言った。
『カッ!そうだなぁ…取り敢えずこの世界で手に職をつけねぇとな!』
「後はマモノツカイについても知りたいな。王様が一目で僕をマモノツカイと見破ったのはちょっと気になる。」
2人がそう言うと、サンドリアは少し考えて語り出した。
「わかりました…では遺跡潜りは如何でしょう?」
「時雨と」
『ペルと』
「サンドリアの」
「『「楽しい雑学」』」
「今回は露出症について」
「ああ…だから私が呼ばれたんですね?」
『そうだぜ!露出症予備軍!』
「医学書の規定だと露出による空想、性的衝動、行動が6カ月以上反復すると露出症だから…まぁ予備軍だね。」
「また衝動により人間関係に困難が生じない場合も露出症では無いようです。…すいません迷惑じゃない訳ありませんよね。」
『時雨の場合は自分も変人ってわかってる。まぁお互い様だな!』
「あんまり気にしないで良いよ?」




