幕間 誰が得するか分からない説明回
「それじゃ本題の仮契約と本契約について話すわよ」
「は、はい!お願いします…」
時雨はぺこりと頭を下げた。
「本契約は文字通りの本格的な契約よ。仮契約との主な違いは…『名付け』ね。マモノには名前の文化が無いわ。名前は個体を識別するだけじゃなくて縛る物でもあるから。」
「縛る…ですか?」
「普通は出来ないわよ。そうゆうskillや奥義があるって話。『けいやく』も名前で相手を縛るの『マモノツカイ』がつけた名前をね。」
言霊という言葉がある。
この世界ではなく時雨のいた世界…日本と言う国の言葉であるが、この世界には言霊と呼べる力が実在する。
言霊は言葉には魂の力が宿ると言う考え方である。
つまり名前には名前の持ち主の魂の力が宿るのだ。
その魂の力を利用しマモノの魂との間に繋がりを作る。『けいやく』と呼ばれるskillの正体である。
「でも名前をつけなくても不完全ながら『けいやく』は使えるの。」
「な、なるほど…仮契約ですね…」
「ここまでは大丈夫?」
「も、もうちょっと時間を…」
「じゃあ5分以内に覚えなさいよ。」
〜勇者 自習中〜
「じぁあabilityにと奥義について教えるわよ」
「よ、よろしくお願いします。」
ニュンペー(変種)は諦めた様な顔をしていた。
時雨が無知なのは仕方がない。
時雨がこの世界に来てからまだ間も無い。
その上本人も知らない無意識の内の話だが…時雨は勇者として1つの世界を背負った事実に気を負っていた。
時雨は本来慎重な性格である。
本来なら情報収集を時間をかけて行い、十全な準備を行い事に臨んでいたはずである。
しかし勇者としての使命…世界1つの重みは知らず知らずの内に時雨から冷静さを奪っていた。
しかしその事をニュンペー(変種)に知る術は無い。
ニュンペー(変種)からすれば時雨は呆れる程の世間知らずに見えたのだ。
「abilityは種族由来の特長や個体ごとの特長のことよ。例えば…『天職』って着いてるabilityあるわよね?アレは器用な種族にしか無いの。その個体が何に最も向いているかを表すabilityよ。ある程度色んな事が出来る種族にしか無いの。」
「個体…ですか?」
「そう同じ種族でも1から10まで同じ個体は居ないわ。だからその違いをabilityで表すの。大まかにね?」
「なるほど…」
尚時雨の種族は『意思の神の勇者』となっている。
実は人間をやめていたのだ時雨は。
「abilityは世界のルールに干渉したりするわ…ごく稀にね?」
「ごく稀に?」
「偶に居るのよ…『愛の絆で力を取り戻した!』とかやる奴が。」
絆の力が現実で目に見えて猛威を振るう。
反則もいい所のご都合主義だがそれが実在するのがこの世界である。
しかしそれだけで実力差を簡単に埋められる程甘くは無い。
だが絆の力が無力というのは余りに夢が無いだろう。
「最後に奥義だけど…skillの完全上位互換よ世界の法則ごと書き換える『この世界で最も強い力』よ。」
「世界の法則ごと…」
時雨は唖然とした。
まかか自分が世界の法則を書き換えていたとは考えもしなかった。
というか話のスケールが大き過ぎてついて行けなかった。
「そんな唖然とする程の事じゃ無いわよ。奥義使える奴なんて結構居るし。」
「結構居るんだ…」
「skillやabilityも世界に干渉するけれど…奥義は丸ごと書き換えてしまうわ。文字通り最強の力よ。」
ニュンペー(変種)はサラッと言った。
まるで夕飯のメニューを告げる母ちゃん見たいに軽く言った。
時雨は余り実感が湧かず微妙なリアクションしか取れないまま、戦闘の作戦会議に移っていった。




