幕間 省略された説明会
「条件を決めるわよ。」
現在時雨は『湖裏水脈』から落下し『八寒地獄』に入った後、ニュンペーの変種と名乗った女性に仮の契約を持ちかけられていた。
「じ、条件ですか?」
時雨はニュンペー(変種)に恐る恐る聞いた。
「そう。脱出の為に契約を結ぶとは言えあくまで仮の契約。私が貴様を認めているのは実力の一点のみよ。それは貴様も同じでしょう?私達は敵同士として戦いはしたけどお互いの間に交流は無い。相互理解が無いわ。」
「確かに…そ、その通りです。僕達は即席のコンビですから…長い付き合いのペルみたいには行かないと思います。」
「だからお互いの協力関係に罅が入らないように条件を詰めていきたいの。例えば…仮契約の解除の条件とか…」
「あ、あと戦闘時の意思疎通の手段も決めたい…です。」
「タメでいいわよ。と言うかあんまりビクビクされると貴様に苦戦した私まで惨めになるわ。堂々としてなさい。それは自分の為であり味方の為であり…敵の為よ。」
そんな会話の流れで時雨とニュンペー(変種)の即席コンビの作戦会議が始まった。
「さて…先ずは契約内容の確認ね。本契約じゃ無い訳だし『名付け』は要らないわよね?」
「あ、あの…そもそも仮契約と本契約の違いって何ですか?け、『けいやく』のskillはまだ使ったこと無くて…効果知らないんです…」
時雨の言葉にニュンペー(変種)は驚愕の表情を浮かべた。
まるで「何を言ってるんだコイツ?アタマがイカレちまったのか?」とでも言いたそうな表情だった。
「…あの人形はどう契約したのよ?」
「さ、最初からそばに居たので…そもそも契約した覚えがありません。」
「どんな特別ケースよ…」
ニュンペー(変種)は額に手を当てて溜息を吐いた。
人が思わず嘆息する時のポーズだ。
「そもそもの話、skillとability。あと奥義の違いは分かる?」
「じ、実はあんまり区別がついて無いです…」
「頭が痛いわ…」
「ご、ごめんなさい!」
ニュンペー(変種)の「まじかー」って感じの様子に時雨は思わず謝った。
何か悪い事をしてしまったかの様な気がしたのである。
読者諸氏にも似たような経験の覚えがあるだろう。
「skillとはつまり技術又は異能が形を成したものよ。
世界に影響を与える形を成した技。それがskill。」
「つまり『けいやく』は僕の技術?」
「異能よ。『マモノツカイ』の異能。この世界においてマモノと共存する数少ない方法よ。『けいやく』すればマモノとの間に魂の繋がりが出来るわ。その繋がりを辿って互いに干渉できるの。」
「干渉し合うと…どうなるんですか?」
「…互いを裏切れ無くなるわ。具体的には『けいやく』をした時にかわした条件を破れ無くなる。逆に言えば無条件では契約はかわせないわ。」
ニュンペー(変種)は質問への回答に始めて詰まった。
まるで…話難い事情を抱えていて何処まで喋ったらいいものか迷っているようであった。
「そもそも交渉するのも『マモノツカイ』の異能抜きだと出来ないのだけどね…マモノの言葉は普通は人間に聞こえないから。」
ニュンペー(変種)は静かに付け足した。




