じょしょー1 事実は小説よりも理不尽
新連載で御座います。
他の連載も執筆をさぼったりはしてません。
大阪 難波駅
『カッ!どいつもこいつも、ちょっと立ち止まって少し芸を見る程度の余裕もねぇのか。いつから日本人は社会の奴隷になったんだい?え?!」
「駄目だよ、そんな乱暴な事言ったら。」
一人の男が片手がすっぽり入るタイプの人形を手につけ、人形と話している。
『カッ!お前がそんなんだから俺が客引きしてんだろうが!え?時雨、お前はいつになったら大人気芸能人になるんだ!』
「ごめんね?ペル。でもペルは口が悪いよ?お客さん怖がっちゃう。」
『何処にそんな客が居るんだ!時雨こそもっと声張り上げろ!』
この2人は男の方を時雨。人形の方をペルと言い、いわゆる大道芸人と言うやつであった。
時雨は腹話術の達人である。ほぼ毎日のように難波の駅で人形のペルと喋っていた。
「ところでさぁ?ペル。」
『どうした?時雨。』
「何か、僕らの足元が光ってない?」
『ああ、見事に光ってるな。』
時雨達の足元には紅い魔法陣が現れて居た。
しかし時雨は目に見えて驚きはしなかった。
むしろ会話のネタが出来てラッキー位の感覚だった。
「これ何だろうね?魔方陣なんてまるでファンタジーだよ。」
『カッ!どうせ何かのイベントだろ?マジのファンタジーなんてありえねぇぜ。まして時雨が巻き込まれるなんて、ファンタジーの住人でも時雨は選ばない。断言するね!』
「ちょっとー、ペルそれどう言う意味?」
そうして話している内に魔法陣は起動し、2人は姿を消した。
「「お待ちしていました!勇者様!」」
2人が最初に認識したのはその言葉だった。
何処かエジプト風の聖堂の中に2人は立っていた。
周囲にはこれまた古代エジプトの神殿の人が着ていそうな服の人々と、いかにも上流階級って感じの人々が居た。
ついさっきまで大阪の難波の駅に居たはずなのに。
(雑な描写に思うかもしれないが、自由な想像により物語が広がるのが小説の良いところである。故に敢て細かく描写しないのだ。)
『こいつは驚いた…事実は小説より奇なりって本当だったんだな。』
「不思議な事ってあるもんだね。」
しかし2人のマイペースは崩れなかった。
時雨自身ファンタジー系のライトノベルをよく読んで居たので、こう言うシチュエーションは本の中では慣れたものである。
しかしながら現実に起こって、尚も自分のペースを保つことができるのは、ある種の才能であった。
「勇者様。どうか我らに力をお貸しください。」
周りの人々の中から、司祭らしき人物が2人に近づき言った。
『カッ!事情も話さねぇで協力しろは虫が良すぎだぜ!』
「ペル失礼だよ?すいません。先ず事情を聞かせてもらえませんか?」
いきなりの人間と人形の会話に司祭らしき人物は
「は、はい。」
としか言えなかった。
「詳しい話は、我等が王がお話し致します。」
司祭らしき人物はそう言って、2人をに案内した。
案内された先に居たのは、神殿の様な古めかしいが芸術的な部屋であった。
部屋の奥の中央辺りに玉座があり、褐色肌のガタイのいい男が座っている。
「ようこそ我がラムセスへ。我がラムセス王です。歓迎しますよ勇者殿。」
褐色肌のガタイのいい男改めラムセス王はそう言った。
『俺様の名前はペルだ。』
「時雨と言います。」
2人も挨拶を交わした。
「うむペル殿に時雨殿、どうかアンリ神の勇者として戦って欲しい。」
『カッ!司祭もそうだが、この国の人間は事情の説明も碌に出来ねぇのか?』
「ペル、そんな言い方したら駄目だって。すいませんウチのペルが」
時雨は頭を下げて言った。
「いや確かに情報の擦り合わせもせずに頼んだ、我も悪い。事情をお話ししよう。」
『ペルと』
「時雨の」
「『楽しい雑学!』
「初回は僕の名前。」
『時雨は漢語で「ほどよい時に降る雨」の意味を持つらしいぜ!カッ!良い名前じゃねえか!』
「うん。僕もこの名前すき。意味から転じて教化を比喩するらしいけど…教化って何?」
『じゃあ次回は教化についてだな!』