07 ビステテュー、がんばる
ゴーレムの頭の上に降り立ったビステテューだが・・・
ドラゴンゴーレムの羽根が、ふわりとビステテューを受け止めた。
(し、死ぬかと思った。
いや、死んだ。
完全に。)
ドラゴンゴーレムの羽根に包まれつつ、ビステテューは真っ青な顔色ながらも、敵?ゴーレムの所在を確かめる。
(羽根を傾けて、わたしをあの子の頭の上に!)
羽根の上を滑り降りながら、ビステテューは敵ゴーレムに近づく。
敵ゴーレムの大きさは、人族の五、六倍というところか?
ドラゴンゴーレムの胸くらいまでしかないが、ほとんど円柱に近い形状をしているため、重量はドラゴンゴーレムより遥かに重いと思われる。
(この重量を維持するためには、相当の魔力が必要なはず。
でも、召喚者の気配は、近くにはない。
と、言うことは・・・)
ドラゴンゴーレムの羽根から零れ落ちるように、ビステテューは敵ゴーレムの頭の上に着地した。
高いところは苦手と言いつつも、ビステテューは中級冒険者と同等以上の身体能力を有している。
ゴーレムの頭の上は半球状になっていたが、表面はザラザラしているため、滑り落ちる心配はないようだ。
なるべく下を見ないように気をつけながら歩き回ってみるが、ゴーレム内部への入り口は見つからない。
(やっぱりそうか。
ゴーレムを生成して中に入ったんじゃなくて、自分を核にしてゴーレムを生成したんだ。)
それならそれで、やりようはある。
ビステテューの瞳に、翠の輝きが燃える。
「強制解析!」
ビステテューは、両手の平をゴーレムに押し付ける。
一瞬、ゴーレムの魔力が抵抗を示したが、無理やり防御をこじ開けてゆく。
「第一層、第二層、第三層、突破!
防御障壁、構築・・・解析再開・・・」
ゴーレムの表面が波打ち、飛び出した触手のようなものがビステテューに迫るが、見えない壁に弾かれる。
学園長から強制的に受けさせられた鍛錬の結果、体術はあまり向上が見られなかったが、防御魔法だけは格段に上達していた。
しかも、防御魔法と召喚魔法の同時行使が可能である。
念のため、周囲の状況を探るビステテューだが、堅固な防御障壁には、綻び一つ見当たらない。
「第四層、第五層・・・第六層、貫通・・・」
ビステテューの額に、汗の玉が浮かぶ。
散発的に触手が攻撃してくるが、すべて障壁に弾かれる。
ここで集中を切らせば、また一から解析のやり直しだ。
解析が進んで自由が利かなくなっているからこそ、この程度の抵抗で済んでいる。
最初から仕切り直しとなれば・・・いや、そうなったら、もはや調査は継続不可能になるかもしれない。
ドラゴンゴーレムの力押しで、調査対象の敵ゴーレムを破壊してしまったりなどすれば・・・
「第七層・・・第八層!」
不意に、敵ゴーレムの抵抗が途切れた。
しかし・・・
キーンと、突然の強烈な耳鳴りに、ビステテューが顔をしかめる。
それも一瞬で、ビステテューの足元から無数の亀裂が走り、隙間から光が放出される。
「ま、マズい?!」
足元から、地鳴りが響いてくる。
ミシミシと音をたてて、敵ゴーレムの天頂が崩れ始める。
同時に、敵ゴーレムの魔力が中心に収束してゆく。
崩れた部分が魔力に変換され、光の中に吸い込まれている。
「逃げるのは・・・無理か!
なら!」
ビステテューは意を決し、眩い光の中に、自ら飛び込んでいった。
ヘタれ冒険者ビステテュー「やっぱり、わたしが主役だったり?いや、主役だよね。完全に完璧に。」
毒舌魔法使いのシャーナ「天と地がひっくり返ったかも・・・」
天然神官のリーリア「わたしたち、出番がありませんでしたからね。」