04 ニナの決意
地上に出たエンゲとニナだが・・・
目が、合ったような気がした。
ゴーレムに、目玉があったとするならば、だが。
走る、ニナ。
同様に駆け出しかけ、エンゲはすぐに足を止める。
「何やってるんだい!?」
呼びかけるニナに、エンゲは背中を向けたまま、
「ここはボクに、任せてくれ!」
「なッ?」
「土壁、生成!」
地面から生えてきた、いくつもの土の壁が、たちまちエンゲとゴーレムの姿を隠してゆく。
「エンゲ!」
「行くんだ、ニナ!
君だけでも・・・」
ドンと言う、轟音一閃、打ち砕かれる、土の壁。
エンゲの姿は、見えない。
目前に飛んでくる土くれを、ニナは手甲で叩き落す。
治っている筈の背中のキズが、ズキリと痛んだ気がした。
手の甲に残る感触の余韻が、熱い。
ギリッと、奥歯を噛み締める。
彼我の能力差は、比較することさえ、おこがましい。
それでも、いや、だからこそ・・・
改めてニナは、ゴーレムに相対する。
不思議と、エンゲの心配はしなかった。
ドワーフの基準からすれば骨と皮しかない、脆弱すぎる体躯の青年が見せた男気が、ニナの身体に力をくれた。
正直言って、エンゲを当てになど、してはいなかった。
他人に何かを期待すれば、必ず裏切られる。
だから、自分の道は自分で切り開くしかない。
そうやって今まで生きてきたのだし、これからもそうだろう。
もしも今、ゴーレムによって屠られることになったとしても、自分で選んだ自分の道だ。
唯一つ、思い残すことがあるとしたら・・・
(あいつと一晩でも、一緒に過ごせたら良かったかな。)
ドワーフ基準では醜男以外の何者でもないエンゲだが、ニナとしては、それも有りだと思っている。
(とまれ、余計なことを考えるのは後だ。
全身全霊をかけた一撃を、放つのみ。)
ニナは胸の前で、手甲に包まれた拳を交差する。
エンゲのことを考えたおかげか、不思議な程に落ち着いている。
目前のゴーレム以外のものが、意識の外に消えてゆく。
ゆるりと、左足が前に出て、右腕を後ろに引く。
待ち受ける、ゴーレム。
まともに打ち込んでも、すべての打撃は弾かれ、魔法はその滑らかな表面で四散するのみだろう。
それならば、力を一点に凝縮し、正面から強固な装甲を穿つだけだ。
余計な思考は、集中を阻害する。
悲しいことも。
辛いことも。
嬉しかったことも。
悔しみも。
心地よかったことも。
すべての想いを収斂して、己が拳を叩き込む。
(推して、参る!)
ニナの足が、地を蹴った。
いや、そうしようとして、周囲が影に包まれていることに気がついた。
(上?)
見上げた瞬間、後ろ髪がそそけ立った。
天を半ば覆う程に巨大な影は、まさしく・・・
「ドラゴン?」
ニナは、言葉を失っていた。
残念エルフのエンゲ「たまにはボクも、カッコいいところを見せないと。」
男前ドワーフのニナ「結局、足止めにはならなかったけどね。」