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鉄壁のギルガⅢ ~リンゴール戦記Ⅱ~  作者: 金剛マエストロ
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01 エンゲ、ニナと出会う

意識を取り戻したエルフの青年を助けたのは・・・

 やわらかなものに包まれて、目を覚ました。

 身動きがとれず、周囲を見ようとするが、頭もうまく動かせない。

 光は、ほとんどない。

 何か、鼻を突く匂いがする。

 動物のような・・・いや、もっと馴染みのものだ。

「おや?

 目が覚めたかい?」

 その声は、すぐ近くから聞こえた。

「誰?」

 誰何(すいか)の言葉を放つのと同時に、自分の置かれた状況に気がついた。

 頭を左右から挟みつけているのは、太ももだ。

 額の上に乗っているのは、豊かな乳房。

 その向こうに、笑顔の女の顔がある。

 いや、女?

 産毛(うぶげ)と言うには、はっきり過ぎる程に存在感のある口髭(くちひげ)に覆われた口元は、しかし、確かに女性のものだ。

 女の顔が近づき、

「あたしゃ、ニナ。

 お前さんの名は?」

「ボクは、エンゲです。」

 エンゲの返答に、ニナは、ウンと頷く仕草を見せると、

「痛むところはないかい?」

「え?

 いえ、全然、大丈夫です。」

「そりゃあ、良かった。」

 言われて初めて、匂いの元に気がついた。

 木の皮をなめして編んだ自身の軽鎧から、鼻を突く血の匂いが立ち昇っている。

 だが、その下の身体には、痛むところはない。

「ボクは、いったい・・・」

「地割れに呑みこまれたのさ。

 ちょっと無理して、横にあった洞窟に引きずり込んだんで、傷だらけになっちまった。

 お前さんの装備は、ほとんど埋まっちまったようだよ、こいつを除いてね」

 ニナの手に握られていたのは、エンゲの長弓だ。

 世間一般の評価としては、特段優れたものではないのだが、エルフにとって、自分自身の手で(しつら)えた弓は、身体の一部と言っても良い程、大切な道具だ。

「あ、ありがとう。」

 無造作に手渡された自分の分身を、涙を浮かべながら受け取るエンゲ。

「で、でも、どうしてドワーフの君が、エルフのボクに、こんなに良くしてくれるんだい?」

 火や鉄を嫌悪するエルフと、火や鉄を生きる(かて)とするドワーフの(いさか)いは、遥か神話の昔から現代まで、古いしきたりのように連綿と維持されているものだ。

 そんなエンゲの言いように、ニナは心から面白そうな笑みを浮かべつつ、

「その言いようじゃあ、あんた、エルフの里では、さぞかし居心地が良かったろうね?」

「ど、どうして、そんなことが言い切れるんだい?」

 するとニナは、不意に真顔になって、

「そりゃ、分かるさ。

 だって、あたしもおんなじだもの。」

「えっ?」

 それは、どういう・・・と、続くはずの言葉は断ち切られた。

 なぜなら・・・

「ちッ!

 (かん)付かれちまったかい。」

 吐き捨てるようなニナの言いように、

「ゴーレム?

 いや、違う?」

「地中の魔物、モルンだッ!」

 ニナの言葉をかき消すように、どうッと土の壁が崩れ、そいつは姿を現した。

 黒い毛皮に覆われ、人族より一回り大きい体躯(たいく)に、巨大な前足。

 動物のモグラとの一番の違いは、巨大な牙を持っていること。

「あんな化け物、どうやって?」

「何とかするさッ!」

 (こた)えるニナの両手に装着されている手甲(てこう)が、紅い光を帯びつつあることに、エンゲは気がついた。

「ぐぅふッ!」

 長大な爪を具えた腕を()(くぐ)り、地面に顎を付ける程に沈んだニナの放つ拳一閃、

「がああああッ!」

 鼻面を叩かれたモルンが、泣き喚きながら穴の奥に戻ってゆく。

「助かった?」

「今のところはね。」

 返事半ばで、ニナの膝が落ちた。

 慌てて抱きとめ、背中に廻したエンゲの手の平に、べっとりとイヤな感触が・・・

怪我(けが)をしてるじゃないかッ!」

「なに、この程度、かすり傷さ・・・」

 それだけ言って、ニナの身体から力が抜けた。

「おい!

 しっかりしてくれよ!」

 慌ててニナの胸に耳を付けると、鼓動は力強く、不安はなさげだった。

「いったい、どうすりゃいいんだい、ボクは・・・」

 ほとんど光のない空間に、応えてくれる者は、誰もいなかった。

残念エルフのエンゲ「残念ってなんですか、残念って!」

男前ドワーフのニナ「黙ってりゃ、それなりにいい男なんだがねぇ。」

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