終
戦い済んで、日が暮れて・・・
(まだ、ちょっと焦げ臭いな・・・)
あの戦闘の後、焼けた髪を自分で切ってみたが、どうも中途半端だったらしい。
明日、ニナに頼んでみよう・・・と、エンゲは、まどろみの中で考える。
(しかし、見れば見るほど立派な髭だな。)
間近に見るニナの顔立ちは、ドワーフという種族に属しているということを考慮に入れても、野性味がありすぎた。
ニナの出自は確認していないが、もしかすると、獣人族の血が混ざっているのかもしれない。
(もっとも、混血と言うのなら、ボクも似たようなものなんだがね。)
ニナの、額にかかる髪を、そっと撫ぜる。
「うん・・・」
と、ニナが小さく呻いた。
(存外、睫毛長いんだ。)
首を捻り、額同士をくっつけてみる。
ニナの鼻息を微かに感じて、こそばゆい。
「うん?」
ニナの瞼が、パチっと開いた。
「何してるのさ。」
伝法な言いようは、照れ隠しのためらしい。
すっかりくつろいでいるエンゲとは、対照的だ。
「そう言えば、確認する機会を度々逸してたけど、君は、ボクの幼馴染だよね。」
エンゲの瞳をじっと見つめ返す、榛色の眼差し。
エンゲは敢えて、返答を急かさない。
「いつ、気がついたのさ?」
「そうだね・・・ゴーレムの穿った穴に落ちた後、助けてくれた君の顔を見た時かな?」
エンゲは上体を起こし、ニナの顔を見下ろした。
「そういう君は、どうなんだい?」
「ドジなエルフが穴の中に転げ落ちてゆくのに、思わず手を差し伸べちまった時・・・かもね。」
「なぁんだ、ボクの方が早かったと思ったんだけどな。」
ガッカリ顔もほんのひと時で、
「ボクはずっと、あの子にもう一度会いたいと思ってた。」
エンゲは、鼻と鼻が接触する寸前まで顔を近づけて、
「君のこと、ずっと、男の子だと思ってたよ。」
「男でなくて、悪かったね。」
拗ねたようなニナの言いように、
「でも、女の子で良かった。
今は、そう思ってる。」
ほとんど見る機会のない、エンゲの真剣な顔から、ニナは目が離せない。
「あたしも、あんたのこと、女の子だと思ってたよ。」
「えっ?」
「でも、男の子で良かった。
まぁ、ちょっと頼りないところもあるけどね。」
「せっかく褒めてくれるんなら、最後まで褒めきってくれないか?」
怒るというよりは、拗ねているという言いようだ。
自然と、表情が緩んだニナは、エンゲの引き締まった胸の上に頭を預ける。
締まりのない顔を、エンゲに見られたくなかったから。
「でも、また会えて、本当に良かった。」
ニナのつぶやきに、エンゲの返事はなく、代わりに、ほっそりした手が、やさしくニナの髪を撫でた。
『デラとアルフのドラゴン退治』の、裏話的お話の続きです。
当初の予定では、エルフのニナが主人公のお話と、ドワーフのエンゲが主人公のお話の二つの物語になる予定だったんですが・・・どうしてこうなった?
いろいろ謎は残した(設定を消化し切れなかったとも言う)ままですが、これから生まれる物語で語られるかもしれないし、語られないかもしれません。
それではまた、いつか、どこかで。