09 後始末
調査依頼は完了したが・・・
ビステテューからの報告をもって、魔物調査の依頼は完了した。
ゴーレム出現の原因、場所、召喚者、意図など、すべては不明。
しかし、曲がりなりにも学園の教師として実績のあるビステテューからの報告ということもあり、冒険者組合はそれを受理し、予定されていた報酬は支払われた。
調査&報告の報酬は、六パーティ分の合計で小金貨三十枚だったが、結果的にゴーレムは破壊されたので、討伐報酬として小金貨百枚が上乗せされていた。
学園の食堂に集まった一同に、ビステテューは一人当たり二十枚ずつの小金貨の山を割り当てた。
「ほとんどお役にたてなかったと言うのに、こんなにいただいていいんでしょうか?」
と、ギルガ。
「討伐報酬分は、余計じゃないかい?」
こちらは、ニナ。
「多いことには文句はありませんが、ビステテューさんは、それでよろしいのでしょうか?」
リーリアの言いように、シャーナが頷く。
「でも、ビステテューさんが決めたことなんでしょう?
それならボクは従いますよ。」
淡白な語り口のエンゲは、小金貨の一つを取り上げ、クルクルと指の上で廻している。
「エルフのクセに、ずいぶん金物に執着するんだね。」
あきれたようなニナの言いように、
「郷に入れば郷に従えですよ。
エルフだからと言って、霞でお腹は膨れません。」
そうは言いつつも、さらに言葉をつないで、
「とはいえ、慈善事業ではないんですから、どうして山分けする気になったのか、その理由を知りたいところですね。」
ピンと指先で弾いた金貨が、金貨の山の頂上に着地し、クルクルと廻っている。
「器用なもんだ。」
ため息がちのニナだった。
「みんなに、お願いがあるの!」
目前の五人のやりとりを眺めていたビステテューが、両手を組んで懇願のポーズを取る。
「お願い・・・ですか?」
「女性の頼みとあれば、可能な限り応えたいとは思いますが・・・」
すぐに反応した男性陣に対し、女性たちは黙ったまま、ビステテューの続く言葉を待つ。
「ここにいる全員で、パーティを組んで欲しいの!」
「何か、事情がありそうですね?」
ギルガの質問に、唇を噛み、俯くビステテュー。
「思い切って、話してみたら?
学園には、何かとお世話になっているもの。
余程のことがない限り、協力することに、吝かじゃないわ。」
珍しく、助け舟を出すシャーナ。
五対の目に見つめられ、意を決したように、ビステテューは話し始めた。
「つまるところ、うち等に、あんたの盾になれと?」
身も蓋もないニナの言いように、
「そういう言い方は、ないんじゃない・・・」
エンゲの言葉は、ニナの一睨みで、尻すぼみに口の中に消えてゆく。
「他に、頼める人はいなかったの?」
シャーナの質問に、ビステテューは頭を振って、
「学園の生徒には頼めないし、同僚たちは生徒への指導で忙しいし、冒険者組合には、あまり知り合いはいないし・・・」
「なる程、今回の依頼を受けたのは、仲間になってくれそうな人材を、探すためでもあったんですね。」
穏やかだが、痛烈な一撃を放ったのは、ギルガだった。
「それって、ホント?」
シャーナの質問に、ビステテューの顔が強張る。
「図星ですか?
確証はなかったんですがね。」
あくまで穏やかな表情のギルガの、心の裡は読み取れない。
「無害そうな顔してるクセに、結構、腹黒よね。」
シャーナの容赦ない言いように、ビステテューの目から、たちまち涙が溢れ出す。
「だって、だって、わたしの知り合いって、みんな、とんでもないバケモノばかりなんだもの。
あんなのと一緒に戦ったら、わたしなんて、たちまち粉微塵になって死んじゃうわ!
若い身空で、まだ、結婚だってしてないのに。
なんで、なんでわたしばっかり、こんな目に・・・」
ポロポロと涙をこぼすビステテューだが、同情の眼差しを送っているのはエンゲだけだった。
「あんまりイジめなさんなよ。」
呆れ顔のニナに、
「ビステテューさんの、飾らない、素直な物言いは、美点だと思います。」
「ものは言いようだよね。」
悪意の欠片もない微笑みを浮かべているリーリアと、皮肉な笑みのシャーナ。
すると、一同の表情を窺がっていたギルガが、
「つまるところ、みなさん、パーティ結成には賛成のようですね。」
「えっ?これって、そういう流れ?」
納得できないという顔をしているのは、エンゲだけのようだ。
「誰も、反対とは言ってなかったさ。」
ニナが、口元を歪める。
決して上品とは言いがたい表情だったが、目が笑っている。
「でも、これでますます、防御特化のパーティになるよね。」
シャーナが、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「盾士のギルガさん、防御魔法のわたし、土壁のエンゲさんが守り主体で・・・」
「火炎魔法のシャーナさん、近接特化のニナさんに、ゴーレムは・・・」
「結局、まともな戦闘はしなかったけど、あのドラゴンゴーレムって、何ができるの?」
リーリア、ギルガの言葉を引き継いで、シャーナが尋ねる。
「火炎ブレスに、氷弾ブレスに、電撃ブレスに・・・」
「えっ?それマジ?」
「一応、全属性攻撃は可能なんですけど、威力は大したことはないんです。
デーモン辺りが出てきちゃうと、お手上げです。
まともに相手できるのは、トロールとか、オーガくらいでしょうか?」
「それだけできりゃ、充分だよ。
大体、うちらの階級じゃあ、ぎりぎり中級の魔物の単体討伐が精一杯さ。」
「あ、それなんですけど、実は、あのゴーレムさんは特級以上の魔物ということで、全員に評価点が加算されてます。
つまり、みなさん昇級可能だそうですよ。」
「えっ?
ホントかい?」
「てことは、全員中級冒険者ってことか。
なんか、あんまり実感ないよね。」
「階級なんて、実績を積み上げれば勝手に付いてくるものです。
むしろ、より強敵と会い見える可能性が高まるということですから、もっと、鍛錬に励む必要がありますね。」
「あーやっぱり、そうなりますよね~」
肩を落とすビステテューに、
「何言ってるんだい!
このパーティの最強火力なんだから、しっかりおしよ!」
「それじゃ、守りの方は、くれぐれもよろしくお願いしますね。」
「おう、任された!」
そう言ってニナは、胸を張って応えた。
ヘタれ冒険者ビステテュー「鍛錬てことは、また、学園長に・・・ガクガクブルブル」
毒舌魔法使いのシャーナ「リザさんに、もっと鍛えてもらわなくっちゃね。ワクワク」
天然神官のリーリア「即死さえしなければ、おおむね助けられますので、がんばってくださいね。」
ビステテュー&シャーナ「・・・・」