序
拙作、『デラとアルフのドラゴン退治 ~リンゴール戦記Ⅰ~』の、裏話的物語の三つ目です。
本作は、『駆け出し魔法使いの物語 ~リンゴール戦記Ⅲ~』の、続きのお話でもあります。
全十二回で、毎日、おやつの時間頃に更新の予定です。
それは、蹂躙だった。
圧倒的なまでの暴力の前には、何もかもが無力だった。
刃は折れ、矢は尽き、盾は打ち砕かれた。
火炎も、氷槍も、水流も、疾風も、電撃も、一切が通用せず、巨大な岩塊さえ、木っ端微塵に粉砕された。
死屍累々の大地を、物言わぬ死神が進んでゆく。
その目指す方向に、必死に走り続けている者がいる。
(こんなことに、なるなんて・・・)
涙と鼻水にまみれながら、それでも足を止めない、いや、止められない、痩身の青年。
特徴的な外観は、第一に長い耳介。
それから、白い肌に黄金色の髪、そして青とも緑ともつかない、神秘的な色合いを湛えた瞳。
ヒト族の者たちは、畏敬とやっかみの念を込めて、彼をエルフと呼ぶ。
場所も定かではない、深い森に住む、長耳の一族。
だが、ヒト族と深い交わりを持とうとしない彼らの中からは、決して少なからぬ数の者たちがヒト族の街に至り、ヒト族とともに暮らしている。
「だから、外に出るのは、本当はイヤだったんだ。
怖いのも、痛いのも、イヤだ。
でも、死ぬのはもっとイヤだッ!
だ、誰か、ボクをたす・・・」
救いを求める言葉は、不意に出現した地割れに呑みこまれた。
「ああッ!」
必死に差し伸べる手が、何かを掴んだ。
いや、何かに掴まれた。
視界が闇に包まれると同時に、意識も闇に呑まれてゆく。
ただ、手の平の感触だけを残しつつ・・・
地割れに呑みこまれたエルフを助けたのは・・・