ニンベン
今日は病院に行く日だ。カードとお金、お母さんが書いた手紙をカバンに入れる。行って来ますと大きな声で言えば、いってらっしゃいと優しい声が返ってくる。
「幸せだなぁ。」
川沿いにある家を出て土手を登る。カッパの絵の看板から516歩で病院につく。51、52…。空は青くて、川は少し暗い。370、371…。白とピンクの花が咲いてる。前に、この花を踏んだらお母さんに怒られた。花も生きてるんだって。でも、夏になったらセミやカナブンが道でつぶれてる。みんな生きてるのに。
「寂しい。」
515、516…。今日は3歩ほど足りなかった。よそ見をしたからかな。入り口の目の前に立つと、ドアが開く。このドアは頭がいいから、ニンゲンが来ると勝手に開く。でも、虫や葉っぱが来ても開かないのは、やっぱり頭がいいからなのだ。
中に入って受付のお姉さんにカードを渡す。このお姉さんは、いつも診察が終わると飴をくれる良い人だ。奥にいるおばさんは、私をお医者さんの部屋まで連れて行く時に、手を強く持つからわるい人だ。痛いっていってあばれても絶対に離さない。
「こんにちは。今日は診察かな?お薬かな?」
「こんにちは。今日は、お医者さんの日。お手紙もあるの。」
「わかりました。では、そちらの椅子でお名前が呼ばれるまでいい子で待っていてください。」
「はい。」
ここのイスは家のよりやわらかい。でも、ツルツルしてて足がちょっとかゆくなる。でも、いい子で待たなきゃいけないので、おとなしく座る。前までは、ここが私のお家だったけど、ちょっと前にさよならした。お医者さんのシミズさんは、「もう元気だから大丈夫だよ。」って言ってたから、私はもう病気じゃない。だから、学校にもいけると思ってたのに、お母さんは「まだダメよ。」って言った。それに、さよならした病院にも3日に1回は行くから、やっぱり私は病気なのだ。どこも痛くないのにな。




