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flat/notes/nevar  作者: 鳴神夭花
第一章
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第一話 白昼堂々の追いかけっこ

 白雪時兎はひたすらに逃げていた。何故かと言えば、ただいま絶賛追い掛けられている最中だからだ。何にと問われれば、結構に可愛い女の子にである。

 女性と接することなど少なかった人生だ、多分。可愛い女の子に追いかけられるなんて願ったり叶ったりなのかもしれない。

「待てって言ってるでしょおおお!」

それが必死の形相をしていなくて背中に羽根なんてものが生えてなかったら、時兎とてなりふり構わず必死に逃げるなんて真似、しなかっただろう。

 だって羽根だ。そんなものを生やしているなんて可笑しい。コスプレか何かだろうか。そんな彼女に追い回されている理由を時兎は知らなかった。突然見つけた! と叫ばれてそんなものに追い回されるなんて恐ろしすぎる。時兎が何をしたと言うのだ。時兎はぼうっとしていただけだった。誰もいない公園で空を見上げて、あれ、なんでこんなところにいるんだっけ―――と考えようとしたところで背後から迫り来る彼女が空から降ってきたのである。

 通常であれば此処で男らしくキャッチでもなんでもして〝天使が降ってくるなんてことあるんだ!〟とかなんとかそういうお気楽なことを言った方が良かったのかもしれなかったけれど、残念ながら時兎にそんな甲斐性はなかった。そもそも時兎の腕なんてなんともまあ、お世辞にも筋骨隆々とは言えない。控えめに言っても大根とも罵倒出来ない。つまり、そうだ、想像の通りである。なので羽根の生えたコスプレ美少女とのラブコメは一瞬で頭から消して、そうして、避けた。

 何がどうしてこんなことになったのか―――一瞬だったが降ってきた少女は本当に美少女の分類でコスプレをしていてもその可愛さは失われておらず、というかもしかしたら可愛いからコスプレをしていたのかもしれないが―――空から落ちてしまうなんて、なんて不幸なんだろう。南無阿弥陀仏。特に時兎自身仏教徒という訳ではないが言うことがなかったので手を合わせてそんなことをしておいた。今から目の前にぐっちゃぐちゃの死体が出来上がるかもしれないというのにひどい余裕である。

 と、まあ、そんな時兎の人非人さは発揮されることはなかったのだが。

 ふっしゅううう、と効果音の付きそうな砂埃が舞って、落ちてきて判別不能な死体になるはずだった美少女はとても綺麗な着地をしてみせた。体操選手もびっくりの着地だった。もしかしたら体操選手だったのかもしれない。体操選手で美少女でコスプレイヤーとなるとあまりにキャラが濃すぎるような気もするが、それは時兎の関与することではない。

 彼女の無事そうな姿を見て、ああこれで救急車ないしは警察に電話をする手間が省けたと、そういえば携帯何処にやったっけ―――そう考えようとした時兎に浴びせられたのが、見つけた! の声だったのである。

 そこからは冒頭の通り、追いかけっこだった。

「ああもう! これだから!!」

後ろの美少女は苛立っているようだった。余計に捕まりたくない。可愛い顔が般若になっている気がする。振り返っている余裕など時兎にはなかったが。こういう時は一旦落ち着いて話をしよう! と言うべきだったのかもしれないが、追いかけっこが始まってしまってからはもう遅い。止まれと言われて止まる人間はいない。逃げるなと言われて逃げない人間はいない。その中でも白雪時兎というのはあまりにも臆病な部類の人間だった。だからこそ、少女との和解は諦めて少しでも可能性の高い方―――もやしの自分でも逃げ切れる方を選んだのだったけれども。

 少女は人混みに翻弄されているようだった。通行人を押しのけて来ない辺り良識はありそうだが、その口から流れ出る語彙のない罵詈雑言によって和解はやはり不可能と再認識する。丁度お祭りをしていたのか、周りは人だらけである。よっしゃラッキー! と人混みをすり抜けて、ぱっと目に付いた裏路地に駆け込もうとして、

「そうはさせないわよっ!?」

「うわっ!?」

身体がバウンドした。

「其処にっ………痛ッ!!」

 ばちり、と少女の身体に電流が走ったように見えた。こんな漫画みたいなことがあるのか、と思いながらも時兎は立ち上がる。さっきバウンドした際にあちこちぶつけたような気がするけれども最早このアドレナリンが出まくっている状態では痛いのかどうかもよく分からない。それでも此処で寝転がっていたらこの少女に捕まって多分ジ・エンドであることは間違いない。

「くぅ…っ」

「あ、やめ、だめっ!!」

少女の悲鳴を背中に、時兎は足を踏み出して―――

「黎明堂へようこそー!!」

「………は?」

 元気な掛け声に、時兎が返せたのはそんな言葉だけだった。

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