表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
flat/notes/nevar  作者: 鳴神夭花
プロローグ
1/7

ようこそ黎明堂へ

 音がする。呼んでいる、と思う。それでもなんとなくそれに応えてはいけないような気がしていた。真夏の昼のこと。蜃気楼が漂っている。信号は全部赤。立ち止まったら持っていた棒アイスが溶けて、手を汚していった。ああ勿体ない、そんなことも思うことが出来ないくらい間髪入れず、真上から音がして。

―――あ。

歌みたいだな、と思った。大分前に流行った歌。確か母が良く聞いていた。元々なんだか丸い媒体に記録されていたらしいそれは機械に強い母の努力で音楽プレーヤーに入っていた。祖母はそれを見ながらこういういところはお祖父さんに似たのね、と笑っていた気がする。母は祖母のものだと言っていた。祖母は結構いろいろなものに手を出していたらしい。それこそ、なんでも。今じゃあ発禁になってるものまでこのプレーヤーには入っているのだから、大切にしなくてはいけないな、なんて思っていた。

 好きなものを好きなように聞けるというのは素晴らしい、と思う。

 この世界のことを好きだと思ったことはなかったけれど、だからと言って嫌いという訳でもなかったけれど。

 祖父が家にいない理由を祖母は話さなかった。母も話さなかった。父がいなくなった理由は祖父に関係しているらしかったけれど、それでもきっと、これは幸せなんだと思おうとしていた。思いたかった。

 だから。

―――これで、おわれる。

記憶の中の祖父はいつも頭を撫でてくれていた。そしていつも、ごめんな、と言うのだ。なんで謝るの、と思ったことは何度もあるし、何度か聞いたことだってあった。そういう時いつも祖父は笑うだけだった。悲しそうに、本当に申し訳なさそうに、笑うだけだった。走馬灯のようにそんな光景が浮かんできて、歌は最後の部分に差し掛かっていた。

 蝉の声はしなかった。

 真夏なのに、ひどく静かな日だった。

 ジジッと音がする。音割れした先で誰かが笑った気がした。少年の声。覚えのないそれを最後に、目を閉じた。

 「大好きだったよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ