6話
村を出た先に広がる景色も、ぼくには見覚えがあった。見渡す限り青々と茂る草原が延々と続いている。体感としては、ゲーム内より広大に思えるが、遠くに見える鬱蒼とした森と、セセラの洞窟の入り口が麓にあるセセラ山の雄大な姿を確認して、見晴らしのいい草原を鍬を担いで進む。
行き先については不安はない。森に入ってしまえば洞窟までは一本道だし、洞窟内の地図もバッチリ覚えている。遭遇するモンスターも野生動物に毛が生えた程度の雑魚ばかりだ。中型犬ほどのウサギであるビッドラビット、牙がちょっと長めの猪ホウンピギー。頭の中にあるデータを思い出し、肩に担いだ鍬を確かめるみたいに握り直す。
「極力戦闘を避けていけば……大丈夫だよね」
ゲーム内では最初から最低ランクではあるが、剣も鎧も装備された状態でスタートする。それに比べ、ボロボロの農作業着と底が薄くなった靴に鍬という、丸腰に近い今のぼく自身の状態は不安がないと言えば嘘にしかならない。武器の中にはハンマーのような叩くことでダメージを与える物もある訳で、この鍬でも一応はなんとか凌げるだろうと考えているのだが、一歩ごとにぼくの歩くスピードは上がっていった。
やっぱり防具なしでのクエストは無理があったか? けれど、この近くには、まともな町どころか村もないのだ。装備を揃えようとしたら、アリーシャとの最初の邂逅を逃してしまう。セセラの洞窟に咲く真っ白な花がなければ、きっとアリーシャはぼくに気付いてはくれないのだから。
このまま進もう。そう心の中で決心した途端、背後で妙な音が聞こえた。ズモモ、ズモモというくぐもった音が、こちらに近づいて来ている気がする。ぼくは覚悟を決めて背後を振り返ると、何もない草地に土が僅かに盛り上がっているのが見えた。それが徐々にこちらに向かって来ている!
敵に見つかったのだ、そう自覚してぼくが真っ先にしたのは、唯一の武器である鍬を構えるのではなく、猛然と森を目指してへ走ることだった。よく見ればこの草原、至るところに土が掘り返されたような跡が見て取れる。
ウサギは土の中に穴を掘って暮らすって聞いたことがある。恐らく、これはビットラビットの仕業だ。そして恐ろしいことに、盛り上がった動く土は、背後の一つばかりではなかった。獲物を探すように無数に蠢く土が、次から次に現れては、ぼくの背後を追ってくる。
日頃の農作業で鍛えた体は、全速力で走り続けても軽く息が上がる程度で、足、膝、腰、どこからも悲鳴が聞こえて来ない。もしかしたら、全てのステータス数値が最大、いわゆるチートとして転生しているのでは? ぼくは見逃していた可能性に思い当たり、自分のステータスを見てみようと、またも必死に目を瞑りコントローラーを頭に思い浮かべようとしてみたが、走っている最中にやることではなかった。一瞬、目を閉じたその瞬間、足下が爆発したみたいな衝撃が襲い、ぼくは派手に転がった。