13話
抱き寄せた袋をポイッと投げ捨て、自嘲気味に呟く。
「生まれて初めて、かけて頂いた言葉が『逃げよ』だ。生まれて二十四年、もうじき二十五年が経つが、いつかは自分もこの国で役立てる時が来ると信じて、一心不乱に己を磨いてきた。それ以外を何もしてこなかった。だからな、私はどうしたらいいのか分からんのだ」
脱ぎ捨てた鎧の上に、女らしさの欠片もないオッサンのような股を開いた座り方で腰を下ろしたカタリナは、目のやり場に困っているぼくと目が合うとフッと表情を和らげた。
「『神の目』の持ち主よ。私は、この人生を使い何を成すべきなのだろうか。お前の目に見えた、私の歩むべき道を示してくれ」
ぼくがカタリナに示してやれるのは、破滅の道だけだ。ゴクリと喉が鳴る。
「私はお前の知る『カタリナ』だったか?」
有無を言わさぬ、皮肉にしかならないが、一国を背負うべく生きてきた人間の迫力に、ぼくは覚悟を決めて頷いた。
「ぼくが知っているのは、これから先にこの国で起こることについてだ」
「ほう、貴様の『神の目』は未来を映すか」
「いや、その『神の目』ってのは、ぼくは持っていなくて、その、ゲームで、その前世の記憶があるからで」
細かく考えることを放棄したぼくは、もうあるがままを眉を顰め不審に思っているカタリナにぶつけていく。
「ふむ、前世の記憶が、この先の未来のことなのだな? ややこしいな。全て理解するのは難しそうだ」
あまり頭を使うのが得意ではなさそうな(なんせドラム缶アーマーを何の疑問も抱かずに装備していた奴だ)カタリナは、ずばり自分のことだけを教えてくれと言い出した。占いのような曖昧な言い方が出来ればいいが、ぼくにそんな上等な話術は操れない。適当に話を作れるほど想像力もないぼくは、もたつきながらも『漆黒の魔剣士カタリナ』について説明をしてしまった。
けれど、ぼくの説明も酷いが、このゴリラ女の理解力も酷かった。世相に疎いのは仕方ないが、ハラハラしながら説明する度に、事細かに解説を求められ色んな意味で疲れてしまう。挙げ句、
「うん、難しくて、よく分からんな。もっと簡単に説明できんか?」
飽きてきたのか、ロングソードの手入れをしながら、そんなことを言って来た。
はっきり言おう、この女、ぼくの言ってることを微塵も信用していない。普段喋ることのない喉は悲鳴を上げている。それくらい必死で説明しているのに、このゴリラ女!