契約II
ーー『リリィ』ーー
刹那と別れて、家に着くとハルは早速明日のことで頭首に呼び出された。
今、部屋には私とユキの二人っきり。
私は大きくため息をする。
「はぁぁぁ~~~。」
「ナノ?ナノナノ??」
ユキが頭の上で跳ねながら聞いてくる。
今日のハルの様子はいつもと違うかった。
どこが違うかって?テンションが違うんだよ。
いつものハルなら学校でチョップ一回なんてありえない。
もっとペシペシやってるに・・・
なのに私がちょっと大げさに痛がってみるとハルは混乱していた。
「夢のせいかな~?」
本当に夢のせいならいいけど・・・
そしたら明日は元気になっているはず・・・
明日は儀式の日。
成功例のない儀式に体調の悪いハルがするなんて・・・
そんなことあってはならない。
儀式以外で紅狐を封じる方法はないのか?
「ナノ~ナノ~♪」
相変わらずユキは頭の上で跳ねている。
ん?私はユキを見ながら疑問に思う。
なんでユキは召喚されたんだろ?
ハルは私の術は根本から違うと言った。
なのにユキは召喚された。
なんでだろ?ハルが部屋に戻ってきたら聞いてみるか。
「ユキ~そろそろ降りて欲しいかな。、
一緒にゴロゴロしながらハルを待っておこ!」
ユキは転がりながら私のもとへやってくる。
私はユキに顔を埋めてモフモフすることにした。
ーーーー
「・・・ィ・・・リィ・・・
起きろ!リリィ!!」
「・・・っ!!!」
ハルが大きな声で私を呼ぶ。
あれ?私いつの間にか寝ていたのか?
今は何時だ?うわっ、二時間ほど爆睡していたのか!
ユキは?まだ寝ている。
「やっと話が終わって帰ってきたらリリィは爆睡中だなんて。」
ハルが笑いながら言ってくる。
・・・あれ?私、ハルに何か聞こうとしてたのになんだっけ?
「ねぇハル。
ユキとの契約で聞きたい事があったんだけど・・・。」
なんだっけなぁ。
さっき思ったばかりなのにもう忘れてしまった。
私がうんうんと考えているとハルはいきなり目を輝かした。
「ねぇ、リリィ。私いいこと思いついた。
儀式をしなくても紅狐を封じる方法。
私の夢に近づく第一歩を!」
ハルの夢?
架空生物と共に平和に過ごす夢のことか?
現代、架空生物と人間の関係は最悪だ。
でも、ハルは架空生物が大好きだから将来的に共存出来る世界を作ろうとしている。
その為にも今は頭首の隣でバレない様に内側から変えようと動いている。
でも、それと紅狐と何の関係がある?
「リリィ!ちょっと森へ行ってくる!」
「え?へ?もっ、森?ちょっと待ってよハル!
こんな時間に森は危ないよ!
あの森には紅狐がいるんだよ!」
今は午後8時。こんな時間に森に行くなんて!
いくらハルでも危険すぎる。
「この時間だからいいんだよリリィ!
頭首が呼びに来たらテキトーに誤魔化しといて!んじゃ!!」
嘘だろ!?
私が言いかける前に行ってしまった。
どうしよう?
追いかけたいが私はあの森に入ることは出来ない。
あぁどうしよう??ハル早く帰って来てくれ!!
ーー『ハル』ーー
私はリリィの声を後ろに家を飛び出すと森へ向かって走りだした。
いいことを思いついた。
これが上手く行けば私もリリィもいつも通り生活できる。
私は全速で走った。
今日は月が出ていてよかった。
森に入ると辺りは真っ暗で月の光だけが頼りだ。
周りは木々ばかりで紅狐の姿はどこにもない。
紅狐の妖力も感じない。
どれぐらい進んだんだろう?
「ハァ・・・。」
さすがに疲れてきた。
どこかで休みたい。
そんなことを考えていたら
「え?」
いきなりとてつもなく大きい妖力を感じる。
これは紅狐か?
あまりの力で手が震える。
でも・・・この力は私を誘っているようにも見える。
いや、本当に誘っているようだ。
「よし!」
せっかく誘ってくれてるのに行かないなんてありえない。
私は紅狐に会う為にここに来たんだ。
私は自分に喝を入れるとその妖力の方へ歩きだした。
ーーーー
しばらく妖力を追っていると開けた場所に出る。
「うっわっ・・・・」
私はその風景に目を見開いた。
そこにいたのは紅の髪に紅の狐の耳と尻尾。
眉目秀麗と言う言葉がとてもお似合いの顔立ち。
隣には巨大な桜の木。
月光に照らされ桜の舞と共に映る君の姿はとても綺麗だ。
「やぁ。よくここまで来たね。」
「!!」
私はその姿に見惚れていて突然の声掛けにビックリする。
あぁそうだった。
君の姿を見すぎてて本題を忘れていた。
「フフッ・・・
儀式の前日に、ここに来るなんて
食べられにでも来たのかい?」
紅狐が私に聞いてくる。
その顔はニコニコと穏やかそうだが目は笑っていない。
本気で私を食べようとしているのか?
正直に言ってめっちゃ怖い。足が少し震えている。
・・・でも、
「バーーーカ!
私が紅狐に食べられるなんてありえない!!」
私はとにかく必死に否定する。
超怖いからせめて口に出して言わないと立っておけない。
紅狐は少しポカンとしていると突然笑い出した。
今度は本当に笑っている。
「アハハハハハ!!
フフッ!フハッ!クククク・・・!!」
笑泣きしている。
おい。いつまで笑うつもりだ。
今の言葉でこんなにも笑うことないだろ。
・・・しかし、笑った顔も綺麗だ。
「いっや~、いやっごめんごめん。
フフッ・・・」
堪えながら謝ってくる。
「君があまりにも震えているもんだからついね。」
Sか!!君は絶対Sだろ!
くそぉ~。こんな奴に怯えてしまっただなんて。
「フフッ・・・
君はホント変わらないね・・・。」
「変わらない」?何のことだ?
私は頭がハテナ状態だったが紅狐は話を進める。
「あの時もそうだったし・・・
ねぇ、なんでここに来たの?
私が危険なのは知ってるでしょ?」
紅狐が私に質問してくる。
「なんで」だって?
そんなの・・・
「そんなの会ってみるまで分かんないじゃん。
危険って聞いたけど、もしかしたらいい奴だってこともあるかもしれないでしょ?
それに・・・それに私は架空生物が大好きなんだ。」
紅狐はまたポカンとしている。
そりゃーそうだよね。
架空生物が≪悪≫になっている世界で陰陽師に住んでいる人が架空生物が大好きだなんて言い出すんだから。
信じられないよね。
・・・でも
「信じられないかもだけど、私は世界を変えたいと思ってる。
架空生物と人間が共存していける世界にしたい。
だから・・・
私と纏契約をして欲しい!!」
≪纏契約≫
契約の中で最も強いと言われている契約だ。
ポカンとしていた紅狐が私に問いかけてくる。
「その契約は禁忌ではないのか?
君は外から変えるつもりか?」
そう≪纏契約≫は主の身体に架空生物が入ることによって、主はその力を振るうことが出来る。
でも、それは人間の身体にかなりの負担になってしまい、完全に纏ったら人間の身体は崩れ死んでしまう。
だから、この契約は禁忌になった。
「外から変える」多分これは「陰陽師と戦争するのか?」と聞いているのだろう。
世界を変えるには一番早いやり方だ。
「それはしない。
外からは変えない。内側から少しずつ変えていく。
私は次期頭首だ。今は頭首の横で動いているけど、最終的には私が頭首となって世界を変えるんだ。
纏契約をして欲しいって言ったのはもしもの為だよ。」
紅狐はしばらく考え込んでいる。
私の顔をジッと見つめて。
紅狐は二コリと微笑むと言い出した。
「纏契約はしなくても大丈夫だ。
君には纏契約をしなくても私を纏える力がある。
だから従順契約でいい。」
私にそんな力が?
確かに私の力は強いと言われている。
でも、契約なしで纏えるなんて・・・
「どうする?
従順契約するのか?しないのか?」
「すっするよ!」
私は心の中で唱える。
「へぇ~。声に出さんでも唱えれるのか。
そんな人を見たの君で二人目だ。」
これは私しか出来ないと思っていたが、他にもいたんだ出来る人。
唱え終わると私は考える。
「ねぇ、名前何がいい?」
架空生物に名前はない。
だから唱えた後に名前を付けることで契約は完了する。
「別に何でもいい。」
さすが架空生物。
名前に興味すらないか。
ん?なら・・・
「『桜夜』
君は夜の桜にとてもよく似合うから。」
どうだ?
「!!」
桜夜の肩が一瞬ビクッとする。
どうしたんだろ?
でもすぐに元通りに戻る。
「いいよ。その名前で。」
見間違いだろうか?
でも、桜夜はこの名前でいいと言ってるし。
「んじゃ、君の名前は桜夜だ!」
契約は完了した。
私の身体に桜夜の力を感じる。
あんなに凄い妖力を感じたのに、今は少ししか感じない。
「帰ろう桜夜!
これから君の家となる場所に!」
「了解。」
私は桜夜の手を掴むと家の方へ歩き出した。
桜夜は少し悲しげな表情をしている。
やっぱり名前が嫌だったのかな?
でも、契約が完了したから変えることは出来ないし。
家に帰ればリリィがいる。きっと仲良くなる。
私はそう思い家に早く着かないかワクワクしていた。
ーーーー
今日この日、世界が驚きで満ちた。
三大上級架空生物の≪紅狐≫が契約されたと。
この瞬間、ハルの運命は大きく変わろうとするなんて誰が思うだろうか。
読んでくれてありがとうございます(=゜ω゜)ノ