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さいご

校門に着いた。あやはいない。もう行ってしまったのか。当たり前だという冷静な心の声となんで行かせてしまったんだとヒロをなじる八つ当たりの心の声が反響する。

苦しい。

はたと講堂を飛び出してから息をしていなかったことに気づく。息を吐く、吸う。我ながらとても荒い。

きっとすごい顔をしているのだろう。さっきからすれ違う奴等にじろじろと見られる。腹が立つ。殴りかかりたいぐらいだが構ってなんかいられなかった。


「あや・・・」


ぽつりと彼女の声を呟くとあとは止まらない。


「あや!!あやどこだっ!!!あやっ!」


じろじろ見ていた奴等が驚いて視線を逸らす。


「なぁ、あや知らないかっ!!」


通りすがりの奴の腕をつかみ問いただすがもの凄い勢いで首を振られ逃げられる。


「・・・っ」


あやがいない。また涙が出そうだ。


「・・・けん太、あなた何してるのよ」


背中から声をかけられる。俺と同じように荒い息をしながら目を丸くしているのは探している彼女だった。


「・・・」

「けん太?ていうか凄い顔だよ、気づいてる?」


絶対に見つからないと思った彼女がなぜか校門の内側にいて俺を物陰まで引っ張る。ふらふらと付いていくと今度はなぜかハンカチで俺の顔を拭いている。


「あや」

「そうだけど」


苦笑した彼女を衝動のまま抱きしめる。いなくならないように強く。苦しいと彼女はもがくが構ってなんかいられない。それに気づいたのか彼女は諦めたように手を俺の肩に置いた。


「なんで・・・」

「友だちがね、講堂に忘れものをしたの。付いていったらヒロくんたちが校門に行ってやってくれって」


彼女の顔があたっている部分がじんわり熱を持ち始めた。


「ごめん」

「・・・傷ついた、失敗って言われて」

「ごめん」


ごめん、ごめんと何度も呟く。あやはその一回一回にうんうんと頷きながら涙をためた目で俺を見た。(本当に彼女はきれいなんだ)


「・・・私もごめんね」


あの日勝手に帰っちゃって、連絡しないで。そんなの謝らなくていいと言うと彼女は笑った。


「あやが、本気で別れる気だと思った」

「ていうかもう別れたと思ってたよ」


聞きたくない事実を彼女があまりにもさらりと言いのけるので、それは大したことでは無いのではないかと一瞬感じたが大したことではないかと思い再び悪い方向に鼓動がなり始める。

だが彼女が俺の腕の中にいるというのは彼女が俺から離れない確たる証拠だということに気付き冷静になろうと息を吸った。


「でもけん太が私を好きだってことが分かったから」

「最初っから好きだ」

「うん、ありがと」


今ようやくそれがわかったんだと彼女は言った。わたしたちもう少し素直になろうねと。

そのまましばらくじっと彼女を抱きしめる。どれくらい経ったか分からなくなったとき、彼女が声をあげた。


「あ、そういえば」

「どした」

「友達講堂に置いてきた」

「・・・俺もだ」

「迎えに行かなきゃ」

「うん」


腕をほどかないといけないと思いつく。そろそろと強張った腕を下ろし始めると、今度は彼女がぎゅっと俺を抱きしめた。


「なんだか名残惜しいね」

「離れなければいい!」


なんて名案だ!俺は凄い!と思ったが彼女はそういうわけにはねと腕を下ろした。(少し背中が涼しくなる)

彼女は少し思案するように首を傾げたあと、とてもとても顔を赤くしながら茶目っけたっぷりに言った。


「・・・もう一回、失敗しに行っちゃおっか」


女の子から言うなんてだめかしらというあやは本当に可愛くて俺はなんのためらいもなく大きく首を振って彼女の手を握った。


さいごまでお読みいただきありがとうございます。


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