06
引っ張られる腕が痛い。
「あっ!」
腕をつかむ牛が突然止まった。
「忘れ物したっ!レポートあったのに」
悔しそうに言う彼女には申し訳ないけど少しほっとした。これで解放される。
「明日提出のやつでしょ?はやくとりに行かなきゃね!」
じゃ私はそういうことで!とにこやかに笑って手を振ると何馬鹿なこと言ってるのとでもいうような目で見られた。
「あやも行くのよ、あんた逃げるでしょ」
ああやっぱりね。今までつかまれていた腕とは逆の腕をがっしりつかまれ今度は逆方向に引きずられ始めた。(少しは短い腕が長くなるんじゃないかしら)
「あ、あやちゃん!」
講堂につくとそこにはけん太とよくつるんでいるいつものメンバーがいて少し引く。彼女もけん太がいると思ったのかもしれない、私を隠すようにドアから見えない位置に押しやる。
「ちょっと待って!」
「あんたに見せるあやはない」
なにかっこいいことを言っているんだ、彼女は。
「今、けん太があやちゃんを迎えに校門に行ったんだよ!」
迎えってなによ。意味がわからないけどけん太が私を探しているっていう事実にどきりとした。
「お願いだ、行ってあげて」
「私は行けない」
ドアから顔を覗かせて言う。声が震えていないか不安だった。
「私が行っても何も解決してないから」
そうだ。私はけん太が好きで好きでたまらなくて、私を好きになってもらおうとすごいたくさん努力したけど、でもそれは結局一方通行。一目惚れだって運命だって私が勘違いしていただけ。けん太にとって私は失敗でしかないんだ。
どうしてけん太が私を迎えにいったのかは知らないけど失敗がなかったってあのままじゃきっといつか駄目になってただろう。
そんな思いで彼らを見返すとそばにいた彼女が心配そうに私の肩に触れた。
「けん太はあやちゃんのこと好きだよ」
気持ちが揺れるってきっと今のことを言うんだろう。考えていたことをヒロくんにストレートに答えられて揺さぶられる。
「今も呼んでる」
ヒロくんが窓を少し開け指差す。
おそるおそる窓近づくと校門のところでうろうろしているけん太がいる。なにかを一生懸命叫んでいるのがかすかに聞こえるが、きっとあれは私の名前。
「え」
人通りが多い校門で必死になって私の名前を呼んでけん太より私が恥ずかしいではないか。
「あやちゃんが行かないとやめないぞ」
顔が赤くなる。
「あや…」
「行くわよ!行けばいいんでしょ!」