05
うおおおと男泣きし始めるけん太の背中を見守ることしかできない俺はこっそりとため息をついた。
(これは重症だ)
それくらいけん太にとって彼女が大切だったんだろう。体力馬鹿のけん太の初恋は失恋に終わりました、か。これは酒を飲むしかないかもしれない。
だが普段は人懐こいけん太が、彼女の前ではドーベルマンのようなストイックな男になるのは見ていて非常に愉快だったのだがそれも見納めになってしまうのか。もったいない。
「あれ・・・けん太泣いてるの?」
そろりそろりと大量の本を抱えながら入ってきたのは俺とけん太の共通の友人ヒロだ。本が崩壊し始める前に降ろすのを手伝ってやる。
「今日はあやちゃんとデートじゃないんだねぇ」
ありがと、と呟きながらこの新たな客は地雷をどすどす踏んだ。その言葉が耳に届いたかけん太の泣き声が増した気がする。(苦情がくる、真剣に)
「さっき引きづられて校門から出て行ったから違うかなぁとは思ったんだけど」
珍しいね、とヒロが笑う。そうだ、けん太は毎日のように彼女を迎えにいっていた。学部が違うから勿論終わる時間もまちまちなのにも係わらず。そんな姿を忠犬けんと笑って言っていたくらいだ。
「・・・あやが?」
ぴたり。と止んだ泣き声に見るとけん太が目を見開きながらヒロを見ていた。
「え?あ、うん。もう行っちゃったと思うけどね」
バン!
「行ってくる!!」
どこに、という暇も無く弾丸のようにけん太は飛び出していった。おいおい行ってどうする。もういないぞきっと。そんな言葉は必死の形相のけん太にはかけられない。飲み込んだ言葉を尻目にけん太の姿はもう無い。
「今日もけん太は元気だねぇ」
「・・・そうだな」