03
失敗だった。あきらかな失敗だった。
「くよくよするな、けん太」
彼女との関係も、あのタイミングに行為に及んでしまったことも、そしてあの一言を呟いてしまったことも。
「他にも女はいるさ。なんなら紹介してやろう」
友人が肩をたたいて俺を慰めるが、なんの慰めにもならない。あや以外に俺には女なんていないんだ。考えられない。それについて改めて、そしてさらに彼女が俺の前から居なくなっていることにも合わせて気付き腹が痛くなる。 本当はシャワーから出た瞬間に土下座をして謝るつもりだったんだ。そして一からやり直させて欲しいと頼むつもりだったんだ。だが時既に遅く、部屋に戻るとベッドに部屋代の半分だけが残され、彼女はいなかった。それが現実だった。
「俺が・・・」
「ん?何だ」
「シャワー浴びながら謝るイメトレなんかしてないですぐに出て謝ってれば良かったんだ。イメトレに時間かけすぎたから・・・」
「・・・多分別問題だ。まあ、初めてだしな。そんなこともあるさ」
そう初体験という壁を前に、俺は非常にナーバスになっていた。いやそれだけでなく、あやといるときはいつも緊張していた。
・・・あやを初めて見たときビリビリッとまるで漫画のように電撃が走りこいつは俺の女だ!と直球で脳髄にメッセージが来た。あやもそう考えたに違いないと思った。直接会って話せばそこから全てうまくいくそう感じた。 だが、実際に紹介させて会ってデートして付き合ってみると俺はでくの坊でしかなかった。緊張して何も話せなくなり、彼女の一挙一動に目を見張った。すべてが美しかったんだ。胸が震えた。言葉に出来なかった。会う度にそれが強くなった。あやが俺を引っ張ってホテルに向かったときには全てが夢でキツネに化かされたんじゃないかと思った。
「・・・そんなに落ち込むなら謝って謝って許してもらえるまでとことん謝れ」
「そう、だよな」
友人がさしのべた救いの言葉に、かすかに希望が芽生えた。
「謝ればいんだよな!まだ遅くないよな!!」
「そうだ!その意気だ!」
よしそうくるなら早速電話でと放り出していた俺の携帯を友人が差し出す。ひったくるようにそれを掴みすぐに彼女の携帯へと音を鳴らし始めた自分の携帯をぎゅっと握るが無機質の声が終わりを告げた。
―おかけになった電話番号は、現在使われておりません。
「けん太!?」
その無機質な機械音が何を意味するか気付いた途端、からっぽの胸をかばうように手でおさえながらしゃがみ込んだので目から出る涙はおさえられなくなった。ああ俺はもう駄目かもしれないと体力馬鹿な俺が初めて思った。