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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結)(コミカライズ開始)  作者: Y.A


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第五十三話 伊達小次郎と義姫

「蝦夷の地は広大だと聞く。この地をすべて平らげ、次こそは津田光輝を討ってやるのだ!」


 光輝との戦に敗れ、蝦夷へと追放になった伊達政宗達は、攻め落とした蠣崎家の館でこれからの展望について語る。


 政宗についてきた一万人近い家臣やその家族に対し、わかりやすい希望を与えて繋ぎ止める必要があったからだ。


 蠣崎季広、慶広親子を討ち果たしてその館と所領を奪うまでは順調だったが、問題も山積している。

 まず、蝦夷は米が獲れない。

 交易で稼いだ銭で本土から購入するしかないのだ。


 更に、今の季節は冬であった。

 東北も寒冷で雪が多かったが、蝦夷はそれを上回る。

 凍死する者も出始めていて、政宗はその対策に追われる事となった。


「あなた、このような僻地では小次郎の体によくありませぬ」


 家内において不和も発生している。

 隠居はしたが、まだ現役で政宗についてきた父輝宗は彼に協力していた。

 だが、その妻で最上義光の妹義姫は、蝦夷での生活に不満を漏らした。


 政宗の弟小次郎の体が弱いので、蝦夷ではなく東北に戻るべきだと事あらば口にしていたのだ。


「戻る? どうやって戻るのだ?」


「伊達家は名門、津田ずれなる下郎とて、道理を説けば米沢を明け渡すでしょう」


 義姫の言い分に、輝宗は呆れてしまった。

 そんな言い分が通用するくらいなら、最初から津田家に領地など奪われないからだ。

 お前は今まで何を見てきたのだと、輝宗は心の中で義姫に対し悪態をついた。


「義兄上がどういう立場になったかわかるか?」


「最上家の当主として、城を与えられているではないですか」


 輝宗は、津田家の統治制度をまるで理解していない義姫に呆れた。

 と同時に、女なのでこんなものかとも思っている。


 津田家の統治は、どの家臣も銭で雇われ領地を与えられた者はいない。

 当主である光輝が全ての領地を有し、家臣は代官、城代、軍指揮官として任じられるだけだ。

 功績を認められた家臣の世襲は許されるが、継ぐのは一定の家禄だけ。

 あとは本人の才覚で役職を得て、そこに役職禄を足される。

 世襲家臣家は後継者さえいれば一定の格で遇され続けるが、当主に能力がないとあまり重要な役目を与えられない。

 

 輝宗は、実によく出来た仕組みだと感心していた。

 織田信長も、それを参考に徐々に家臣の統制を始めているらしい。


 ただ、伊達家ではいきなりそれは出来ない。

 土地に執着する寺院や地侍勢力の反発を受けるからだ。


 津田家は、その莫大な銭と様々な独自技術から得られる富に、年中動員可能な大兵力で完膚なきまでに反抗勢力を叩き潰してそれを実現している。

 

 その治世の見事さから領民達には支持される津田家であったが、逆らう者には血の粛清も辞さなかった。

 一向宗を始めとする宗教勢力ですら、津田家の前では屍の山を築いている。


 それでも世間にあまり悪評が立たないのは、多数いる領民達の圧倒的な支持を受けているからだ。


 輝宗はそれを完全に理解するまでに、何度も失敗を繰り返した。

 津田家との戦いで、以前のように奪われた領地で一揆の扇動工作を行って大失敗したのだ。

 伊達家の威光に従って一揆を起こした者は少なく、津田家に簡単に鎮圧されてしまった。

 最後などは、送り出した家臣が捕えられたり殺されたりして津田家に差し出される始末であった。


 輝宗は気がついたのだ。

 もう東北で伊達家が返り咲く可能性はほぼないと。


「(この女は……)」


 輝宗と政宗と、二人に従って蝦夷までついて来た家臣達の大半はそれを理解している。

 蝦夷の地を見て東北に戻ってしまった者達もいたが、これはいい選別方法であったと思っていた。

 こういう連中は、これから行う蝦夷平定作戦で足を引っ張りかねないからだ。


 それよりも、目の前にいる現実を理解していないこの女だ。


「義兄上は、仙台城代という役職を与えられただけだ。かの地を賜ったわけではない」


 戦に敗れて領地を失った最上義光は降伏し、光輝から仙台城代の地位を与えられた。

 これは、佐竹義重と同じ待遇である。

 まずは統治でその能力と忠誠心を見て、問題がなければ軍権も与える。


 義重は光輝の期待に応え、今では堀尾家、山内家、日野根家、不破家などと同じ扱いを受けている。

 名門の出なのを上手く生かしたというわけだ。


「あのような下賤の者に、我ら名門伊達家が負けるはずがないのです!」 


「お前がどう思おうと、今の時点で伊達家が津田家に勝てるはずがない。その力を蓄えるための蝦夷平定だと言っておる」


「あなたが、そこまでの負け犬だとは思いませんでした!」


 義姫は、もうこれ以上は輝宗と話をしたくないとばかりに席を立ってしまう。

 輝宗は少し頭を冷やす時間が必要であろうと放置していたのだが、義姫は予想外の行動に出た。

 自分の意見に賛同する家臣達と共に小次郎を連れて蝦夷を出て、東北へと戻ってしまったのだ。


『名門伊達家の名をもって津田家に滅ぼされた各大名家の力を集結し、領地を取り戻すのです!』


 残された手紙を読んで輝宗は呆れるしか他に手がなかったが、それでも自分の妻と子供である。

 仙台にいる義光に手紙を出して対処をお願いした。


「何卒、妹と甥の命だけは」


 仙台城代として多忙な日々を送る義光は輝宗からの手紙に驚愕し、慌てて光輝の元に頭を下げに向かった。


「(この人、苦労性なのかな?)寺で出家するのならいいけど」


「ありがたき幸せ!」


 義光がこれでもかと畳に額を擦りつけてから一週間後、米沢にて伊達家残党による一揆が発生した。

 以前に輝宗から追放された中野宗時、久仲親子を中心に伊達小次郎を旗頭とした一揆勢であったが、蜂起前から風魔小太郎指揮下の間諜によって察知されており、蜂起直後に津田軍に囲まれて壊滅した。


 義光との約束通りに、義姫と小次郎は強制的に出家させられて寺に送り込まれ、これ以降、旧東北諸大名残党による一揆はほとんど発生しなくなる。

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