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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結)(コミカライズ開始)  作者: Y.A


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第三十一.五話 産業とお見舞いセット

「社長」


「その呼ばれ方は久しぶりだな、キヨマロ」


「ここには、私と社長しかいませんからね」


 今日の光輝は、新地城にある奥の院において仕事をしていた。

 とそこに、自分の仕事をいち段落させたキヨマロが声をかけてくる。


「定期的に沈没船からお宝回収を行っていたのですが、そろそろネタ切れです」


「ネタ切れねぇ……」


 この世界にきてそろそろ十年ほど、価値のありそうな物は大半を回収してしまったらしい。

 あとは、これから沈む船から回収するしかないとキロマロが言う。


「なら、海底資源を掘ってくるとか?」


「効率が悪いのでは?」


 わざわざカナガワを遠征させて鉄や銅では効率が悪いと、キヨマロは言う。

 それなら、鉱山で採集した方がマシだと。


 実際に、伊勢と紀伊の鉱山で採掘は始まっている。

 規模の大きなものはないが、採掘・製錬技術を確立するために積極的に採掘を行わせていた。

 炭鉱からも石炭を採掘し、それをコークスに加工してから製鉄に使ったりもしている。


 ここで問題になるのは、鉱山夫達の健康対策だ。

 粉じんや照明用の油煙を吸って鉱山病になる者が多く、この時代だと三十歳まで生きられれば長寿扱いだった。

 そこで、新地家ではゴーグル、防塵、防毒マスク、バッテリー式のヘッドライト、同じくバッテリー式の電動ドリル、作業着を貸与し、坑道には電動トロッコを設置。

 鉱山夫の健康、安全教育の実施と労務管理の徹底で、じん肺患者と事故を減らす努力をしていた。


 金払いも悪くないので多くの鉱山夫が働き、鉱山周辺には町なども建設されている。


「近場の海でよくないか?」 


「こういう場合、将来を考えて日本近海の海底鉱床は後回しにするのが基本ですから」


 この時代なら、他国の海底資源を採掘しても文句を言ってくる国もないという理由もあった。


「嵩張らない、貴金属とか宝石ならいいのか?」


「採集可能量が少ないのでタンク付きの掘削回収ロボを置き、あとでカナガワを使って回収するという手もあります」


 採掘用のロボットに海底で資源を掘らせ、貴金属や宝石の原石のみを選別してタンクに仕舞う。

 こういう機械をカナガワで世界各地の海底鉱床に設置し、定期的に回収、修理すれば、多くの資源が手に入るはずだとキヨマロが進言した。

 

「試しにやってみるか」


「では、そのようにいたします」


 光輝から命令されれば、キヨマロは素早く動く。

 定期的に世界の海を航行中のカナガワに命令を出し、世界中の海底に資源掘削回収用のロボットを置いた。


 例えば、南アフリカナマクアランドの海底と、夜中には砂浜近くまで移動してダイヤモンドの回収をおこなう。

 世界中にある漂砂鉱床の探索と、ダイヤモンド他宝石の回収も始まった。


 他にも、有力な海底熱水鉱床から貴金属を回収する作業も行っている。


「レアメタルとか、レアアース類が多いですね」


「あとで役に立つだろうから、秘密倉庫に仕舞っておけば?」


「そうですね。まあ、後といっても大分未来でしょうけど……」


「俺はどうせ生きていないさ、キヨマロに任せる」


「任されました」


「そこは、そんな悲しい事は言わないでくださいとか言っておけよ。お世辞的な意味も含めて」


「人間の寿命は決まっていますからね。残念なお話です」


 メンテさえしておけばほぼ永遠に稼働するキヨマロには、寿命がある人間という存在がいまいち理解できなかった。


「お前、やっぱり可愛気がないわ」


 これら回収した貴金属、宝石、レアアース、引き揚げ財宝などが、後の世まで光輝の一族を世界一の大金持ちにし続ける事になる。





「はい、いらっしゃいませ」


 そうして、新地家が手に入れた貴金属や宝石類の一部は、新地の職人によって研磨、加工され、堺にある新地家直轄の店舗で販売された。

 宝石の質のよさと、研磨技術の素晴らしさ、宝石が付いている宝飾品は和風なデザインの他に、ヨーロッパの王侯貴族や金持ちが喜びそうなデザインも研究して作らせている。

 職人を保護し、技術の囲い込みと蓄積を行っていたのだ。

 カナガワにはデータがあるが、それを実践するのは人である。

 キヨマロや数少ないロボット達に全てを任せるだけでは規模が大きくならないので、人材の育成に励んでいるわけだ。


 新地家への忠誠心を期待して、孤児の育成と教育も行っている。

 他の大名家にはそんな余裕はないが、銭を生み出せる新地にはそれが可能である。


 ここ数年で徐々に成果が出つつあり、その一部が今店に並んでいる商品であった。

 高価だが品質のいい商品が並び、そのせいか客には南蛮人も多かった。


「ホウセキ、ウッテクダサイ」


「はい、宝石ですね」


 研磨された宝石や、宝石を使った様々な宝飾品がよく売れていく。

 南蛮人は鉄砲用の硝石や鉄で日本の金を得て喜んでいたが、その金で宝石を買って帰る南蛮人も多かった。


 こうして、徐々に新地家の金保有量が増えていく。

 表向きには、硝石の大量購入でほとんど使われてしまうと周囲に思わせているが。


「コノオサラキレイデスネ、ウッテクダサイ」


「これは、新地領で作られた新製品ですよ」


 新地家では磁器の製造も始まっており、職人達に南蛮人が好みそうな形や絵柄の作品も作らせ、宝石と一緒に並べられていた。


「ガラスザイク、カワッテイテオモシロイ」


 ガラス細工は、ヴェネツィアン・グラスが最盛期を迎えるなど西洋が主流とされていた。

 同じ土俵で勝負しても競争に巻き込まれて骨折りなので、クリスタルグラスを用いた江戸切子や薩摩切子のような製品を主に製造していた。


 これも、宝石細工や磁器と合わせて新地家が技術を独占している。


「シンチブランドデスネ、スゴイデス。キンガスクナイノデ、ブツブツコウカンシマセンカ?」


 新地家は、新地領産の製品と、金、中国の絹、西洋の工芸品や美術品との交換をおこない、さらにそれを日本国内でも売り捌いて、莫大な利益を得る事に成功するのであった。






「奇妙! 大丈夫か?」


「はい、少し熱が出ただけです」


「そうか、だが無理をするなよ」


 信長が完成したばかりの安土城へ引っ越しを終えた直後、急な環境の変化のせいか彼の嫡男奇妙丸が熱を出した。

 基本は元ヤンキーだが、子煩悩な父信長は熱を出した奇妙丸のためにいい医者を呼ぼうとする。


「今日子がいいのではないか?」


「距離的な問題もありますし、軽い感冒だと思われますので京の医者で構わないのでは?」


「駄目だ! 奇妙は織田家の跡取りぞ! 万が一の事があってはならぬのだ!」


 奇妙丸は、他の信長の子供達よりも圧倒的に大切にされていた。

 『もし病気が悪化して死ぬような事にでもなったら、お前は責任を取れるのか?』と、京の医者を薦めた家臣に食ってかかり、家臣は酷く狼狽した。


「今日子を呼べ!」


「ははっ!」


 そんな事情で、今日子は急ぎ安土城へと向かう事になった。


「新しい道ができたし、中東から密輸した新しい馬で走らせる馬車のデビューも兼ねてレッツゴー!」


「義姉さん、レッツゴーとか……古っ!」


 また余計な事を言って清輝が締め落とされたが、みんないつもの事なので気にしていない。


 安土に呼ばれた今日子は、バネ、サスペンション、天蓋付きのアルミ合金製の馬車に、去勢し、蹄鉄をつけた外国産の馬を二頭繋いで全力で走らせる。

 

 そしてその周囲には、同じ馬に乗る護衛が十名ついていた。

 銃剣付きの種子島と、合金製の刀、軽量鎧などを装備する古参の親衛隊員達である。


「新地、岐阜、安土で道が繋がっているから早く着けるかもね」


「今日子様、輸入した馬は早いですな」


 世話に手間がかかるし、小さい日本の馬に比べると悪路や斜面に弱かったが、騎馬隊で運用したり馬車を走らせるには、外国産の大きな馬は有効であった。

 繁殖用を除いて去勢してあるので、発情期でも安心して使えるのもよかった。


「ちょっと寄り道するね」


「墨俣ですか?」


「そう」


 今日子は、途中で墨俣城に寄り道をした。

 ついでにねねの顔を見たかったからだ。


「今日子さんではないですか。お久しぶりです」


「今日はちょっとだけ寄り道ね。馬に水をあげてほしいんだけど」


「わかりました」


 馬と護衛の休憩も兼ねて、今日子は墨俣城でねねと話をする。


「奇妙丸様の治療ですか?」


「書状によるとただの感冒みたいだけど、私が到着する頃には治っているような気もするんだよね」


「それでも大殿様は、奇妙丸様を可愛がっておられますから」


「みたいだね、これを切って食べようよ」


 馬車には小型冷蔵庫が積んであり、今日子はそこからメロンを取り出した。

 新地城内の菜園で作られている、マスクメロンである。

 これも高級品として贈答用に使おうと、現在生産量を増やしているところであった。


「日吉君も……もう二人は親戚の子かな?」


 ねねは二人目を妊娠中でまだ出産はしていないから、今日子は日吉の傍にいる二人の男の子は、ねねか秀吉の親戚の子供だと思った。


「この子達は虎之助と市松といって、藤吉郎様が日吉の御付きにしたのです」


 木下家は農民の出で、譜代の家臣がいない。

 秀吉は、自分は仕方がないが、嫡男日吉にはそういう思いをさせないようにしようと、見込みのありそうな子供を日吉の御付きにして面倒を見るようになっていた。


「元気そうな子達ね」


 今日子は、この二人は将来有望なのではと評価する。


「うちの太郎と同じか。虎之助君と市松君はメロン食べるよね?」


「「……」」


 遠慮しているみたいで、虎之助と市松はメロンが載った皿になかなか手を出さなかった。

 でもとても食べたいようで、二人はチラチラとねねに視線を送る。


「いただいていいわよ、今日子さんにちゃんとお礼を言いいなさい」


 ねねから食べていいと言われると、虎之助と市松は満面の笑みを浮かべてお礼を言った。


「「おばちゃん! ありがとう!」」


「虎之助……市松……」


 その瞬間、ねねは確かに時間が凍り付いたような感覚を覚えた。

 今日子は見た目よりも若いが、もう三十を超えているのでおばさんなのは確かだ。

 子供の言う事だから間違っているとはいえず、ねねはどうしていいのかその場で固まってしまった。


「……まあ、四児の母だものね……仕方がないか……」


 とすぐに本人は納得したが、後年虎之助こと加藤清正と、市松こと福島正則はこう述べている。


『初陣より数多の戦場で何度かヒヤリとしたが、今日子様をおばちゃんと呼んでしまった時に比べれば大した事はなかった』


『今日子様はめろんのあとでお菓子もくれたが、優しさの中に修羅の顔を見た。ちょっと漏らしかけた』


 以後、その噂が周囲に流れたために、今日子をおばちゃん呼ばわりする命知らずはほとんど存在しなくなるのであった。






「軽い感冒ですね。温かくして休んでください」


 少し墨俣に寄り道はしたが、今日子達一行は順調に馬車を走らせて安土へと到着した。

 早速奇妙丸の診察をするが、今日子の見立てでも彼は軽い風邪であった。


「消化にいい物を食べましょう」


 今日子は奇妙丸に葛根湯を飲ませてから、おかゆを作って奇妙丸に食べさせた。

 他にも……。


「甘いのに体が温まるな」


「ハチミツとショウガを使った飲み物ですよ」


「これも甘くて美味しい」


「玉子酒ですよ。砂糖も入れてあります」


 今日子は、ハチミツショウガ湯や玉子酒などを奇妙丸に飲ませる。

 そして……。 


「お見舞いもかねて果物があるので、これも食べますか?」


「美味しそうな果物だな。食べさせてくれ」


 奇妙丸は熱も下がり始め、食欲も旺盛であった。

 おかゆをお替りし、お見舞いセットのイチゴ、パイナップル、リンゴ、バナナ、マンゴー、ブドウなどを美味しそうに食べた。

 全て、新地家のプライベート菜園で採れた高級品ばかりである。


 奇妙丸は、甘い果物を堪能した。


「今日子、特にこの『めろん』という果物は美味しいな」


 奇妙丸は、特にメロンを気に入ったようだ。

 ねね達も美味しそうに食べていたので、この時代の人達の嗜好にも合っているのだと今日子は思った。


「おかげですっかりよくなった。礼を言うぞ、今日子」


「いえ、完治してよかったですね」


 念のために二日間ほど奇妙丸を看病した今日子は、彼からお礼を言われた。


「果物が美味しかったな。病気になると食べられるかもと思うと、定期的に病気になりたいと思ってしまうぞ」


 奇妙丸の冗談で今日子も笑っていると、そこに村井貞勝が姿を見せる。

 だが、彼の表情はなぜか冴えなかった。


「どうかしましたか? 貞勝様」


「今日子殿、実はもう一人見ていただきたい方がおりまして……」


「お子さんですか?」


 今日子は、貞勝の顔色が冴えないのは自分の子供が病気になったからだと思ってしまう。


「いえ……うちの子供達は元気ですよ」


「では、誰かお知り合いの方ですか?」


「何と言いますか……我々がよく知っている人物です。まあ、大殿なんですけど……」


「奇妙丸様の感冒が染ったようですね」


 今日子は、少し予定を伸ばして信長の看護をした。


「熱もないみたいですし、過労かもしれませんね。栄養を取って休養する事ですね」


「そうだな、『栄養』と休養が必要だな」


「(今日子殿、すまない……)」


 貞勝は知っていた。

 信長が、病気になった奇妙丸が美味しい物ばかり食べているのが羨ましくなって、仮病を使ってまで今日子を引き留めたのを。

 だから心の中は、今日子への申し訳なさで一杯だった。


「(大殿が疲れているのは事実なのです……)」


 貞勝は、普段の信長が大領の統治者として精力的に働いているのを見ているから、今日子に迷惑をかけるなとは言えなかったのだ。


「このめろんという果物は甘くて美味しいな。今度、徳川殿に贈答品として贈ろうか。いくつか贈ってくれとミツに伝えてくれ」


「わかりました」


 信長は仮病を使ってまで、お見舞いセットのフルーツを堪能するのであった。

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