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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結)(コミカライズ開始)  作者: Y.A


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第三十一話 第二次対織田包囲網

「お父様、大きなイチゴが採れました」


「これは大きいな、太郎も頑張って採れよ」


「姉さんには負けないよ」





 光輝は、忙しい時間を縫って家族サービスというものをしている。

 普段、光輝の子供達は家臣の子供達と一緒に勉強したり、遊んだり、食事をして過ごしている。

 だが、この家族サービスの日だけは特別だ。


 光輝と今日子夫妻の他、お市、葉子、孝子に、長女愛姫、長男太郎、次女伊織姫、次男次郎、三女茶々姫、四女お江姫。

 あとは清輝と孝子夫妻に、長男小太郎、次男小次郎だけとなっている。


 そして光輝達を、キヨマロと人間に偽装したロボット達が護衛と世話をしていた。


 ここは、新地城の奥深く『奥の院』と呼ばれている場所で、多くの設備がカナガワから運ばれた資材で建設され、家臣でも入る事はできない。


 奥の院の更に奥にある最重要機密区画とカナガワには、今日子、光輝、清輝しか入れないし、その中にある物を知らなかった。

 下手に侵入を試みようとすると、キヨマロ以下人に偽装したロボット達によって排除処分されてしまう。


 今までにそういう輩は多数存在していて、みんな伊勢湾でお魚の餌になってしまった。


「社長、今年もハウスイチゴはいいできですね」


「やっぱり、ハウスにした方が収穫は安定するのか」


「年によっては酷い天候不順になるので、ハウスの方がいいですね。必要な電力はソーラーパネルと蓄電池で十分に補えますし」


 家族がイチゴ狩りを楽しむのを見ながら、キヨマロと光輝が小声で話を続ける。


 今日は、新地家のプライベート菜園でイチゴの収穫作業を行っていた。

 普段はロボットに世話されている多くの作物は、新地家での消費に、家臣への下賜用、信長や仲のいい織田家家臣達への贈答用に使われる。


 新鮮なイチゴは、寒い時期には人気の贈答品となっていた。

 

「こういう穏やかな時間は貴重だよなぁ……」


 切った張ったの乱世において、光輝は荒んだのではないかと思ったが、こうして優しい妻達と可愛い子供達がいれば頑張ろうと思えるのだ。


「でも兄貴、紀伊が落ち着いてよかったじゃないか」


 紀伊平定から一年あまり、たまに小規模の騒乱はあるが紀伊の開発は順調であった。

 最近は、武装蜂起しても無駄だという事実に気がついてきたらしい。

 素直に新地家の支配を受け入れる者が増え続けている。

 

 伊勢長島の開発も順調だ。

 木曽川、揖斐川の治水工事も兼ねた開発も順調に進んでいる。

 長島は、一向宗の影響がない新しい町へと生まれ変わるのだ。


「伊勢志摩、紀伊、伊賀、大和、河内、和泉を繋ぐ街道も大体は完成したしな」


 この街道によって、軍勢の行軍速度が早まった。  

 普段は移動と流通路になるので、経済も発展するはずだ。


「それよりも、朝廷って頻繁に年号を変えるんだな」


 光輝達がいた時代というか別の未来だが、年号は天皇陛下が崩御しないと変わらない。

 なのに、今年から永禄から元亀という元号に変わった。

 今は、元亀元年というわけだ。


「年号を変えると経費がかかるからって、献金の要請が来てたわね」


「経費がかかるのは事実ですけど、普段から朝廷と貴族にはお金がありませんので……」


 大分マシになったが、それでも下級貴族の困窮ぶりは相変わらずのようだ。

 孝子は今日子に、経費請求にかこつけたタカリだと説明する。


「だから、私や葉子ちゃんが新地家に嫁いだわけです」


 口には出さないが、身売りと言われても否定はできない状態であった。


「実家に残っていた方が悲惨なので、私達は今の生活に大満足ですけど」


「そうですね。果物なんてここに来てから初めて食べましたよ。渋柿を干した物以外で」


 葉子と孝子は、新地に嫁げてよかったとそれぞれ口にする。

 

「元号を変えたところで、世の中そう簡単によくならないと思うけどね」


 清輝の発言はかなり辛辣であったが、彼の言葉通りに元亀元年も戦乱の年となる。






「すまぬな、ミツ。兵を出してくれ」


「ええと、どの方面にでしょうか?」


「摂津方面だな」


 元亀元年の秋、収穫が終わると共に光輝のお休みは終了した。

 またあのアホ公方が、極秘裏に信長追討の密書を出したらしい。


 その主な原因は、信長が義昭の将軍としての権力を制限するため『殿中御掟』九ヶ条の掟書を出した事と、紀伊を畠山高政に与えなかった事だ。


「今回は、前よりも厳しい戦況となろう」


 今回の包囲網に参加するのは、駿河を落とし、今度は徳川家が押さえた遠江を狙う武田家、収穫も終わったので早速兵を動員しているらしい。


「武田家に関しては、同時に東美濃も狙っておる」


 一益が家臣化しようと苦慮している遠山家の離反を調略で誘い、別働隊が岩村城や明智城を狙っているという情報を信長は掴んでいた。

 光輝は『武田家とは同盟関係にありましたよね?』という疑問を口に出さなかった。

 武田家の同盟破りは、そう珍しい話でもなかったからだ。

 そのくらいの情報なら、光輝も掴んでいる。


「越前と加賀でも、一向一揆が再び蜂起した」


「つまり、また石山ですか?」


「そうだ」


 昨年講和を結んだばかりの石山本願寺がまた動いた。

 これに荒木村重、中川清秀、高山友照・右近親子なども同調し、伊丹親興と三好義継が窮地に陥っている。

 更に、河内の畠山高政も遊佐信教、丹下盛知、安見宗房と共に蜂起して再び畿内を混乱に陥れようとしていた。


「四国からは三好長治と篠原長房、丹波の波多野と赤井も再び裏切った」


 光輝は節操のない奴と思ったが、こんな食うか食われるかの時代なら仕方がないのかとも思い直す。


「徳川殿には、佐久間信盛、平手汎秀、水野信元と一万人の兵を送る……」


 あの武田信玄相手には厳しい数の援軍であったが、無い袖は振れないと信長は顔を歪ませる。


「一益と権六には援軍すら送れぬ。あの二人なら何とかしてくれると思っている」


 石山が再び蜂起した事で、織田軍の主力は石山方面に向けざるを得ない。

 丹波の蜂起と三好軍の再上陸もあって、先年の包囲網よりも厳しい状態であった。


「ミツ、頼むぞ」


「お任せあれ」


 光輝は二万人の軍勢を動員した。

 石山や他の寺院の扇動があったのか知らないが、紀伊でも少数の地侍と武装僧侶が一揆を起こしたものの、数が少ないので現地の警備隊に鎮圧させている。

 即応部隊の長に島清興が任じられていて、彼は三日間で六百七十八個の首を獲って紀伊をすぐに安定化させた。


「清興は凄いな。褒美に金一貫(3.75キログラム)を与える」


「ありがたき幸せ」


 後背に不安がなくなって光輝はほっとしたのか、清興に多額の褒賞を出した。

 彼の下で活躍した家臣達にも、銭を恩賞として与える。


「それで、まずは河内か……」


 大和には松永秀久がいるのだが、彼は摂津方面へと急行している。

 旧主である三好義継が心配なようで、信長に直訴までして援軍を認めさせていた。


「そんなに義理堅い人なのでしょうか?」


 一豊は首を傾げている。

 久秀はなぜか世間の評判が悪い。

 

 三好長慶の家臣であった頃に、嫡男の三好義興、弟の安宅冬康、三好実休などの死に関わったと噂されていたが、実際には言いがかりに近い。 

 光輝は、自分と同じく成り上がり者だから悪く言われていたのであろうと思っていた。


 現に久秀は、死ぬまで三好長慶を裏切っていないのだから。


「殿、援軍にどれほど任せますか?」


 それよりも問題なのは、石山を押さえるために出陣した信長から寄越された浅井長政主従である。

 信長は、北近江を没収されて居候状態になっている長政を、今回の戦功で元の状態に戻そうとしているらしい。


「討ち死にされると困ります」


「そうですな」

 

 茂助と方泰が困っているのは、もし信長お気に入りの長政を万が一にも戦死させてしまったら、信長から不興を買うのではという事であった。


「義兄上、これは浅井家の汚名返上がかかっているのです。もし私が討ち死にしても、子供達がいるので浅井家断絶の心配はありません。余計なお気遣いは無用です」


「わかりました」


 新地・浅井連合軍は、怒涛の勢いで河内に流れ込む。

 隙あらば紀伊侵攻を目論んでいた畠山高政達は先制され、遊佐信教、丹下盛知、安見宗房はそれぞれの居城を一気に攻め立てられて討ち死に、一族で自害して滅亡した。

 残された高屋城に籠る畠山高政も、激しく攻め立てる浅井軍に首を獲られ、一族の男子は自害、女子は寺に送り込まれて畠山尾州家は滅亡した。


「方泰、河内の治安維持を頼む」


 光輝と長政は、平定した河内の管理を方泰に任せると今度は摂津へと急行した。


「新地殿、この勢いを殺す事はありませぬぞ」


 長政の作戦に従い、新地軍は石山が周囲に建築した付け城に攻撃を開始、激しく鉄砲と青銅製大筒で討ちかけて一日に三つの付け城を落とし、本願寺の坊官下間一族で名のある者を数名討ち取っている。


「新地殿、移動せぬのか?」


「ここで守っていれば、すぐに出てくるでしょうな」


 光輝は三つの付け城の補修を行い、連携を強化して守備兵を置く。

 長政から進撃しないのかと聞かれたが、付け城を放置しているとまた奪われてしまう。

 それよりも、石山からの援軍と、石山の外で活動している摂津国人達を討つべきだろうと思ったのだ。


「本当に来ましたな……」


 付け城を奪還すべく、石山から下間頼照が指揮する軍勢と、荒木村重、中川清秀指揮の軍勢が一斉に襲い掛かる。

 だが、それは光輝の計算の内であった。


「惜しむことなく放て!」


 付け城に設置された青銅製大筒から散弾が一斉に放たれ、夕立のような銃撃が鳴り響く。

 十八番であった種子島の集団運用で負けてしまった石山一向一揆衆は、下間頼照を射殺されるとバラバラになって石山へと撤退していく。

 その背中にも容赦なく砲撃と銃撃が浴びせられ、たちまち千人を超える死傷者を出した。


「頼旦様に続き、 頼照様までもか! おのれ、仏敵新地め!」


 残存兵を率いて撤退する坊官は、長島に派遣されそこで新地軍に討ち取られてしまった下間頼旦に続き、大物坊官に犠牲者が出た事に驚きを隠せなかった。


「今は、一旦退くぞ!」


 一向一揆衆は石山に逃げればよかったが、外にいる荒木村重、中川清秀勢はどうにもならなかった。

 一向一揆衆が先に撤退してしまったために、大量の砲撃と銃撃を受ける羽目になってしまう。


「これでは討ち減らされる一方ではないか!」

 

 一向一揆勢ほど鉄砲を所持していない荒木村重、中川清秀勢は、次々と家臣と一族に戦死者が続出、たちまち軍勢は三分の一以下にまで減らされた。


「かかれ!」


 そこに、浅井勢と新地軍の精鋭が突入して、渡辺守綱が荒木村重を、負傷が癒えた蜂屋貞次が中川清秀を討ち、敗走する敵にも容赦なく襲いかかる。

 生き残った家臣は降伏し、絶望した荒木、中川一族は自害、茨木城以下摂津の反織田方の諸城は炎に包まれる。


「石山は落ちるのか?」


「わかりませぬ……」


 新地・浅井連合軍は連戦連勝を重ねたが、なかなか戦況は好転しなかった。

 天下の要害であり、多くの財と食料を蓄え、全国から兵が集結、鉄砲まで製造可能な石山は六万人の織田本軍に攻められてもビクともしなかったからだ。


 畠山高政、荒木村重、中川清秀の討ち死ににも動揺していない。

 一向宗の力があれば、他にいくらでも駒を用意できるからだ。


 例えば、今も敵方として戦っている高山友照とその息子右近はキリシタンであった。

 そこに宗教など関係なく、ただ力関係だけで高山親子は石山方についたのだ。


「殿、伊丹親興殿が討ち死にされたそうです」


 勝っているはずなのに、光輝達に悪い報せが届く。

 松永久秀が応援に向かった戦線において、三好義継と一緒に戦っていた伊丹親興が討ち死に、若干十九歳の伊丹忠親が跡を継いで戦いを継続しているという。


「救援に向かいましょう」


「わかりました」


 光輝の意見に、長政は反対しなかった。

 途中、いくつかの一向一揆勢を蹴散らしながら進軍し、いよいよ合流直前のところで今度は高山親子に邪魔をされてしまう。


「突破しろ!」


 大量の銃弾が高山隊に浴びせられ、浅井軍の遠藤直径が父友照を、子の右近は本多正重がその首を獲った。

 他にも、この戦で一揆方について討たれた摂津国人は多く、その多くは没落・滅亡の憂き目に遭う事になる。


「ミツ! 長政! よう来た!」


 新地・浅井連合軍が姿を見せると、松永、伊丹、三好軍を苦戦させていた一揆軍は挟み撃ちを受けて石山へと撤退した。

 石山を包囲する信長本軍の元に向かうと、彼は大活躍した光輝と長政の功績を喜び、長政には金塊、刀剣、茶器と北近江の旧領をすべて返還する。


 光輝にも、大量のビタ銭と砂金、金塊などが渡される。

 双方共にこれ以上の領地譲渡は互いにためにならないと、褒美は銭と金銭が主でという話になっていたからだ。


「サルと光秀も上手くやったようだ」


 丹波方面は、秀吉と光秀が共同で波多野秀治、秀尚、秀香兄弟を討ち、赤井直正は再び降って平定された。


「だが、信玄坊主の勢いが止まらぬのだ」


 援軍を得た徳川家康は、諸将の反対を押し切って武田軍二万五千と野戦を敢行、ほぼ同数を率いていたにも関わらず、敗北して浜松城に逃げ帰った。

 その際に、平手汎秀は討ち死にしている。


 まだ兵数はあるので、浜松を基点に武田軍と睨み合って何とか防衛しているようだが、東美濃方面も苦戦していた。


 秋山信友指揮する五千の別働隊は明智城を落とし、岩村城も一益が決死の籠城戦の最中であった。


「石山は何とか押さえる。ミツ、東美濃だ」


「ははっ!」


 光輝は、東美濃へと軍勢を移動させる事となる。

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