共通ルート、その3、もしくは別名、序盤王子イベント
「――これは何を模しているのでしょう?」
「ワグアで採れるタコという魚だそうですよ。」
「魚なのですか。こんな可愛らしい魚がいるのですね。」
南東リリヤ領の名物だというソーセージ、何度か食したことはありましたが、このように愛らしい姿になっているのは初めて見ました。
王城の宴席には、国内だけでなく近隣諸国の産物もふんだんに使った料理が出るのが常だそうです。ギイニが説明しながら、少しずつ皿に取り分けてくれます。
――ざわざわ
何やら、ざわめきが大きくなりました。
辺りを見渡しますと、殿下の御前から下がった時、私より後ろにまだ列は続いておりましたが、それも気づけばなくなったようです。
のみならず……
「――ミスリア嬢、私と踊ってはいただけませんか?」
「えっ?」
殿下の綺麗な顔が、気づいたら、目の前です。
ふっと、その顔が微笑みました。
と、手が、とられます。
「さあーー。」
私は、返事をしたのでしょうかーー。
舞い上がった心は、状況を把握できないままに、殿下に誘われるままに、足を動かします。
お兄様と、何度か踊ったことはあります。
殿下の方が背は低いです。
テンポというか、お互いの呼吸といいましょうか、私にあわせてくださっているのがわかります。
お兄様は、お優しいのですが、ダンスについては、こう、なんといいましょうか、私ががんばらなければならない感じになってしまいます。
それが、殿下とは、はじめてとは思えないほどに呼吸があうのです。
「ーー私を見て。」
「えーー?」
殿下の瞳が、私を見つめています。
私が、恥ずかしくなってしまうくらいです。
ーーねえ、僕を見て。
ふと、既視感を覚えました。
殿下にお会いするのは初めてだというのに、その表情を見たことがあると、思ってしまいました。
「ーーお嬢様。」
「あ……この度は、私のような者と踊っていただき……」
「もっと君と踊りたいくらいだけど、他の連中もいるから、またね?」
ささやかれた言葉が耳朶をかすめ、鼓膜をふるわせます。
……どうして今日は、これほど顔が火照ることばかりなのでしょう。
夢のような一時でした。
お優しい麗しいと評判の殿下はまさにその通りで、まさか初めての夜会で、このように踊っていただけるなんて……。
ーードンッ
「あら、ごめんなさい。」
気づけば、私のドレスに、赤いワインの染みができてしまいました。
「まあまあ、これでは染みになってしまいますわ。」
「あ、いえ、その……」
「申し訳ありません。すぐにドレスをかえましょう。さあいきましょう?」
疑問形ですが、有無を言わせないものがあるように感じます。
思わずギイニを見ると、ギイニは微笑んでうなずきました。
「申し訳ありませんが、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん、ワインをこぼしてしまいましたのは私の落ち度ですもの。さあ……。」
そうして私は、誘われるまま、会場を後にするのでした。