第2話
目の前の人々はピクリとも動かず、石のように固まっていた。
俺は怖くなってきた。
その目の前の光景はあまりにも不気味過ぎたからだ。
店員が客に商品の説明していたり、家族が笑顔で商品選びをしていたからだ。
それらが動かないのだ。
俺はもはや普通の精神状態ではなくなってきた。
足がガタガタと小刻みに震え始めた。
「もしかして、遼も固まっているのか」
もしそうだとしたら、遼はまだケース電気の二階にいるはずだ。
俺は遼もみんなと同じように、固まっているのか確認するために足を一歩踏み出そうとした。
その時、
コツコツと足音が聞こえてきた。
「ッ!!」
俺は驚いた。
しかもその足音は、どんどん此方に近づいてくる。
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ…
更に近づいてくる。
だ、誰なんだ!
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ…
そして、ソイツは突然俺の前に現れた。
俺から約10メートル先。
商品棚と商品棚の脇から現れた。
ジャージ姿で。
俺はソイツを見て、一歩下がった。
カツ。
その足音で気づき、ソイツは歩みを止め、俺の方に顔向けた。
だが、ソイツは俺を見て驚きの表情をしていた。
「お前、動けるのか?」
言ったのはソイツだった。
どうやら男らしい。
こいつは何者なんだ。
なぜ、俺と同じように、動けている?
もしかして、ソイツは人間硬化現象に関して知っているのか?
「あんた、この事について知っているのか?」
俺は自分の疑問をソイツに聞いてみた。
「やっぱり動けるのか?」
と言い、ゆっくりと俺の目の前まで歩き、止まった。
何をする気何だ。俺でも誘拐するのか?
とそんな考えをしていると、ソイツは懐から携帯を出して、誰かに電話をする。
「あぁ俺だ。見つけたぞ。歳は高校生くらいで、男子だ。…………あぁ。分かった。こいつは俺が連れていく」
そして、電話を終了する。
?なんだ?こいつ今、俺を連れていくって言ったな。
拉致か!拉致なのか!?
「…俺は野田……健二だ」
こいついきなり、自己紹介を始めたぞ。
俺には聞きたい事があるんだ。
「お前、何者なんだ?」
「お、俺か?俺はその……超能力者だ」
ほうほう。なるほどな。超能力者だったのか……。
え?
ちょ、超能力者!!?
こいつ、超能力者って言ったぞ。
頭おかしくないか?
こういうヤツは医者へGOだ。
「は?超能力者?」
「あぁ、そうだが……そんな事を説明している時間がない。とにかく俺に着いてこい」
「お前はいったい何なんだ?つかこの現象は何だ!」
「だから、説明している暇はない」
どんどんと会話の激しさを増していく。
なにやら野田健二というヤツは慌てている。
そもそもこの現象が何なのか説明してほしい!
「どういう事だ?」
「敵が来てる」
敵だと?まさかそいつがこの人間硬化現象の根源なのか?
「時間がない。少し我慢して」
「うっ!…」
すると俺の懐から全身へと激痛が走る。
どうなら俺は殴られたらしい。
そして、俺の意識は消えた。
俺はつい先ほど、非現実な事を見た。
一つは、目の前の人々が硬化していた。
一つは、目の前に自称超能力者が現れた。
そして、自称超能力者の野田健二に殴られ、気を失った。
そんな俺は今、目の前の光景に驚いている。
気を失った俺は目を覚まし、なぜかベッドの上にいる。
その部屋は、ベッドには幾つかのくまやウサギの人形が置かれている。
まぁ、なんとかわいらしい部屋だろうか。
更に鼻に通る香りは、やたら甘い匂いがする。
それらを総合するに、女の子の部屋だと言うことは、直感的に分かった。
「ここは何処だ?」
そして、窓を見てみると、外は暗く、窓から月が暗い夜をほのかに明るく照らしていた。
すると、
ガチャ
「目覚めたかニャ~?おぉ!目覚めたようだニャ~」
扉を開けて、入ってきたのは猫口調の中学生くらいの女の子が入ってきた。
髪は腰まであり、頭には猫耳が付いている。
多分だが、猫耳カチューシャでも付けているのだろう。
どんだけ、猫一色なんだ。この猫娘は。
「あ…あの
「少し待っててニャ~」
ガチャン
行ってしまった。
俺が猫娘に ここは何処だ? と質問しようとしたら、出ていってしまった。
あの猫娘は何なんだ?
人間硬化現象。
野田健二。
猫娘。
それらはいったい何だ?
そういえば、遼はどうした?
遼は無事なのか?
野田健二は確か……自分を超能力者と言っていたな。
クソッ!
頭の整理がつかん!
頭がパンクしそうだ!
ガチャ
また扉が音を発てて開いた。
ゾロゾロゾロ……
今度入ってきたのは、1人だけではなかった。
「待たせてごめんニャ~」
「やっと目が覚めたようね」
「・・・」
いち…に…合計3人入ってきた。
その内、女子二人に男子1人だ。
男子の方は、見たことがあった。
人間硬化現象の時に俺の目の前に現れた。
ジャージの人。
野田健二だ。
今もジャージだが…。
女子の1人は先程、部屋に入ってきた猫娘。
もう1人は分からないが、髪はショートカット。
見た感じでは、俺と年はあまり変わらないらしい。
だが、服の上からでも分かるグラマーなボディー。
ぱっと見た印象は、とにかく胸がでかいという印象だ。
そして3人はベットの周りに腰を下ろした。
「ねぇ、健二君?」
とグラマー少女。
「……何だ?」
と野田。
「この高校生(俺)の名前何て言うの?」
「……分からない」
少し呆れて、ため息を吐くグラマー少女。
「あのねー、名前くらいは先に聞いておきなさい」
すると、コクりとうなずく野田。
「で、あなたの名前は?」
といきなり聞かれた俺は
「か、和馬です」
と答えた。
「そう、和馬君ね。私は青山唯よ。んで、ジャージの人が野田健二で、猫娘が永田リン(ながたりん)よ。」
「よろしくニャ~」
「・・・」
と各々が自己紹介をする。
「よ、よろしくお願いします」
と皆に習って俺もあいさつをする。
・・・・・・・・って、「よろしく」という事はこれから何らかの関係を持つという事じゃないのか。
つか、コイツら誰なんだ?
「あ、あの、皆さんどういう人達ですか?」
と俺は早速質問してみた。
「う~んそうねぇ~」
と腕を組んで悩む青山さん。
「まぁ、一言で言うとコミュニティの仲間だニャ~」
と青山さんへ助け船を渡すリン。
「そうね。リンの言う通り私達は同じコミュニティに所属する者よ」
「コミュニティー?」
俺は聞き返す。
「そうよ。ちょっと訳ありな人たちが所属するグループの事よ」
「訳ありって、例えばどんな人たちですか?」
俺は更に聞き返す。
「例えば、健二は見た感じでは、普通だけど本当は、超能力者だったりするわよ」
「野田さんって、超能力者何ですか?」
俺は野田に聞いた。
すると、野田が
「野田でいい。……それと超能力者ってことは、お前には話したはずだが……」
と冷徹な声が俺に向けられる。
普通に考えりゃ、信じるわけないだろ。
「まぁまぁ、普通信じるわけないんだし、試しに健二、ここで超能力者だってことを証明して見せればいいじゃない」
と提案する青山さん。
それに対して野田はと言うと
「やだ」
「何でよ?」
「面倒」
「いいからやりなさい!」
「……分かった……やる」
根負けした野田は、スッと立ち上がりしぶしぶ手を前に出すと
手から赤い魔方陣が展開し、その魔方陣から炎が出現する。
「……あ…」
俺は目を見開いた。
俺は驚愕したのだ。
目の前に魔方陣と炎が突如出現したのだ。
野田は手を下ろすと同時に、魔方陣と炎が消失した。
「てな感じだ」
野田は何事も無かったように、また座った。
にしても野田はそんな当たり前みたいな顔をしている。
「健二君は一様超能力者って事になっているけど、正確に言うと、『単体魔方陣発動能力者』よ」
「……たん……まほう……?」
「単体魔方陣発動能力者。分かりやすく言うと、『魔法使い』ね」
「な、なるほど…」
本当は全く納得してなかったが…。
「それでね、そこのリンが人間と妖怪の間に位置するの。属にいう『半妖』よ」
「そうだニャ~!」
と元気に手をシャキーンと上げるリン。
「ちなみにこの猫耳は本物だニャ~」
ピクピク猫耳を動かして証明するリン。
な…なんと!?
この猫耳はカチューシャではなく、本物だったのか!!
と俺が心の中でアンビリーバボーと驚いているのを、横で青山さんは次の話を始めた。
「んじゃ次はコミュニティについ」
「待って、ゆいにゃん。まだゆいにゃんの事がまだだニャ~」
と話を止めるリン。
ゆいにゃん というのは、どうやら青山さんの事らしい。
「あっ、そうね。忘れてたわ。私は…あまり言いたくないのだけど、
『人造人間』
なの」
「人造人間……?」
何だよ、人造人間って?
この青山さんは人に創られたってことか?
いったいどういう事なんだ?
「正確に言うと、『人』によって『造』り変えられた『人間』なの」
「造り変えられた?」
「私が幼い頃に交通事故に会ってね。それで、私の体はもうめちゃくちゃになったの。そのほとんどが、もう死んでいたの。でも、ある学者が私のために造ってくれたの」
・・・・・・・・・・。
「機械式体内生命装置をね」
「まぁ、簡単に言うと、機械によって私の命を繋いだの。だから、今の私の体のほとんどが機械でできているの」
・・・・・・・・・・。
「まぁ、そういう事なの二ァ」
と少し困った顔をしながらリンはいった。
ここで今まであまり口を開いてなかった野田がようやく口を開く。
「で、頭の一部が機械のおかげで、情報解析能力に富んでいるんだ」
「そ、そうだったんですね…」
と俺は下をうつむきながらそう言った。
そして野田の言った、情報解析能力というのは、あらゆる5感から得た情報を瞬時に解析する能力だろうと頭の中で思った。
それくらいは、流石の俺でも解るさ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
沈黙が流れる。
「さてと!次の話よ!」
青山さんはこの沈黙を破った。
これは意外だった。
「今度こそコミュニティの話ね」
どうやら此処からが本格的な話らしかった。
「この世界にはコミュニティは大小合わせて約1万ものコミュニティがあるのよ」
1万もあるのかと、俺は内心驚いた。
「一万も有れば、名前くらいは俺が聞いたことのあるコミュニティもありますよね?」
「いや、それはない」
と野田が即答した。
その後もちょっと無口な野田が説明する。
「コミュニティの名前は普段公表しない。公表すればそのコミュニティの拠点も周りにバレ易くなり、そのコミュニティは他のコミュニティに滅ぼされる可能性があるからだ。それに大型のコミュニティのほとんどが普段は名前を変えて、活動している。属にいう『会社名』だ」
なるほどね。確かにコミュニティの名前を公表するという事は、コミュニティその物を滅ぼすのと同じ事か。
だが、大型コミュニティは公で活動しなければ、そのコミュニティは潰れる。
だから、公では会社名に変えて活動しているのか。
「それじゃあ、世界で活躍している会社のほとんどが、コミュニティ何ですか?」
「まぁ、そういう事だ」
と野田が答えてくれる。
「にしても、何で俺にこんなことを説明するんです?」
と今更だが聞いてみる。
いや、実を言えば、何となく察しはついているのだが……一応聞いてみたのだ。
この問いに答えたのは、またしても野田だった。
「お前を俺たちのコミュニティに入れるためだ」
やっぱりか。
覚悟していたから、そんなに驚きは無かったが、何故俺なんだ?
「何で俺が?」
「お前は普通の人間ではないからだ」
と涼しげな声で言う野田。
その後も説明を付け加える。
「今日の夕方に起きた人間硬化現象で、お前はその被害を受けてなかった。この被害を受けない人は、いずれも特殊な人間だけだ。俺や青山、リンのようにな」
「というわけで二ァ!」
とリンが元気100%で、
「かずにゃんー!私達のコミュニティに入るの二ァ!!」
耳の鼓膜が破れんばかりの声で言った。
「とはいえ、俺たちのコミュニティの現状を話せば、入る気は失せると思うが……。なあ、青山」
野田は青山さんの方に振り向き、話を投げ掛けた。
すると青山さんは困ったような顔になった。
それでも青山さんはちゃんとコミュニティの現状を話してくれた。
「実はコミュニティにはランキング付けがあるの。もちろん、ランクが高いコミュニティは、経済力と武力、人が多いの。でも私達のコミュニティは経済力も武力もないし、人は3人だけ。それでね先日発表されたランキングで私達は9863位。ホントに崖っぷちなのよ……」
コミュニティは世界で約一万もあると言っていた。
そのなかの9863位。
相当ヤバいな。ここは。
素人の俺でも分かった。
「それで、和馬君を入れて、少しはコミュニティを強くしようっていう事なのだけど……入ってくれるかしら?」
「で、でも俺は至って普通の人間ですし、青山さんとかみたいに特殊な人間じゃないし」
「和馬君は普通の人間なんかじゃないわ」
「え?」
「実はね寝てる間に君の力について調べさせてもらったの」
いつの間に!?
「まだ結果が出るのに時間はかかるけど、人間硬化現象に被害はなかった君は十分特殊な人間よ」
そうなのであれば、俺は入ろうと思っていた。
小さい頃から夢見ていた、ヒーローではないが、超能力者がいたのだ。
更に半妖と人造人間までもいる。
それはそれで面白そうだ。
今までの生活が変わるのだから。
俺は次の瞬間、無意識に口が動いていた。
「俺、このコミュニティに入ります」
その瞬間、青山さんとリンはフッと笑みを見せた。
野田はため息を吐いた。
どうやら俺が入ったことに、安心したらしい。
すると青山さん。
立ち上がるとベットで体を起こしている俺に向かって、手をさしのべ、笑顔でこう言った。
「ようこそ。『英雄神』へ」