魔法少女☆口裂け女
季節は6月を少し過ぎた頃。
時刻は夜の8時を回っている。
しとしと雨の降る中、女の子が1人。
10歳くらいだろうか。雨だというのに傘も差さずに、誰かを探すように人気の無い道を歩いている。
その女の子は奇妙な格好をしていた。
黒いローブにトンガリ帽子、鼻の辺りまで伸びた長い前髪。
「あ、見つけた」
ポツリと彼女が呟いた。
探し人を見つけたのだろう。
彼女の探し人は、赤いワンピースに白いマスクが印象的な格好をしていた。
探し人も傘を差さずに、カツカツとハイヒールを鳴らしながら歩いてくる。
女の子の探し人は、口裂け女だった。
☆☆☆
「ねえ、私、キレイ……?」
示し合わせていたかのように、彼女たちが向かい合って足を止めた。
最初に口を開いたのは、口裂け女の方だ。
「は?ブスでしょ、アンタ」
嘲笑するように口端を歪めながら女の子は答える。
そんな態度が予想外だったのか、口裂け女が唖然とした表情を浮かべた。
しかし、それも一瞬。
「殺してやる……クソガキ……!」
憤怒の形相をした口裂け女は、懐から取り出した包丁を女の子に向けて振り下ろした。
☆☆☆
「きゃはははは、弱ーい!」
甲高く不愉快な笑い声を上げながら、女の子は立っていた。
傍らには刃の部分が消えた包丁と、まるで見えない紐で縛られたかのような姿の口裂け女が転がっている。
「……な、に……した……」
「え、金縛り掛けたのに喋れるんだ!便利でブスな口だね!きゃはっ!」
きゃはは、と笑いながら女の子は口裂け女の顔を踏みつけた。
「アタシ実は魔法少女なんだ!」
女の子―魔法少女はグリグリと、器用に足で口裂け女の口をこじ開けながら喋り続ける。
「でね、魔法でこれからアンタを喰らうの!」
――でも、それだけじゃつまらないじゃん?
魔法少女が右手を真横に差し伸べると、どこからか木の棒が出現した。
酷薄な笑顔を浮かべながら、こじ開けた口に木の棒を捻じ込むと魔法少女は魔法を唱える。
――木生火
木の棒はたちまち燃え上がり、その炎は瞬く間に口裂け女の顔を包み込んだ。
この世のものとは思えない身の毛もよだつ悲鳴を上げるが、金縛りで身動きできない。
しとしと降る雨をシューシューと蒸発させる炎。
白い水蒸気に、赤い炎。
焼けただれた口から放たれる断末魔。
それを楽しむかのような甲高い笑い声。
口裂け女の意識が闇へ堕ちる、その瞬間まで魔法少女はサディスティックに嗤い続けた――
補足説明
・包丁の刃が消えたのは、魔法少女が水に変えたため
・木の棒が出てきたのは、魔法少女が雨を木に変えたため