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ロジカル・デコード ~システム化された現実の解《こたえ》を視て、理不尽を攻略する。俺達は最強の座へと至り、世界の真実《すべて》を暴く~  作者: 千代田姫実
序章(プロローグ)

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【第7話】

 蓮は、二人を連れて、街のファミレスから昨日の現場を経由し、裏山へと向かって歩を進めていた。

 道中、蓮の思考は静かに周囲の状況を分析していた。


(昨日から丸一日経っている……。けど、ここに現れたゴブリンは、俺が遭遇したあの一体だけみたいだな……)


 蓮は昨晩から今朝にかけて、この付近でのSNSの投稿やニュースも監視し続けていたが、新たな目撃情報は上がっていない。

 今も付近を見渡す限り、規制線のブルーシートが張られているのは、昨日の戦闘箇所のみだ。

 つまり、昨日は「たまたま」あの一体がそこに居ただけ。ゲームのように定期的・無限に敵が湧き出す「ポップ地点」というわけではなさそうだ。

 それが分かっただけでも、少しだけ予測の精度が上がる。


 人通りのない裏山に入り、周囲に誰も居ないことを十分に確認すると、蓮は足を止めて二人に向き直った。


「二人とも、自分のステータスにある『ユニークスキル』の項目は確認したか? スキルって欄にあると思うんだが……使ってみたりとか、したか?」

「え? ああ……これか?」


 これか?と虚空を指差す悠真だが、本人が見せようとしなければ、他人のウィンドウは覗けない。蓮は予想で答えていく。


「ああ。その辺りに『ユニークスキル』と書いてあって、固有のスキル名が表示されているはずだ」

「《金剛外殻(アダマン・シェル)Lv.1》って書いてあるな。使ったりって……ゲームじゃあるまいし、お前……いや、待てよ? てことはやっぱ使えんのか、これ? 俺、昨日は仕事でバタついてて、こんなわけわかんねぇもんじっくり見てる暇も無かったんだよな」


 悠真の反応は、現代人としてむしろ正常なものだった。

 ほとんどの人は、ネット上の魔物動画もフェイクだと思っているし、この視界に浮かぶウィンドウだって、邪魔だと思えば意識の外へ追いやれる。目の錯覚か、あるいはどこかの先進企業のAR広告か、そのうち政府が何とかするだろう。そう考えて、日常という慣性にしがみついているのが大半だ。


「え……!? あ~~~……へへっ、私はもう使っちゃいました……!」


 悠真とは対照的に、結が少し恥ずかしそうに、しかし悪戯っぽく笑った。


「だって、これなんか面白いんですよっ!」


 そう言いながら、結はそのあたりに生えている長い雑草を二本、指先で摘み上げる。

 そして、草と草の先端をちょん、と合わせた。


「ほらっ!」


 結が指を離しても、二本の草は弾かれたり元に戻ったりせず、ピタリと接着したように離れない。左右に分かれて生えていたはずの草が、結び目も接着剤もないのに、ハート型という不自然な形で完全に同化していた。


「なんでもくっついちゃう~~! ふふっ♪ 昨日、家で退屈だったんで、ごろごろしながらこの不思議なウィンドウ見て遊んでたんですよねっ!」

「え!? すげぇなそれ!」

「遊びって……はは、さすが結ちゃんだ……。ちなみに、そのスキル名は?」

「《結合定義(コネクト・リンク)Lv.1》って書いてありますよ! あ、ちゃんと意味も辞書で調べたんですよ!? そしたらぁ、きっとくっつくんだろうなって! くっつけぇくっつけぇって思って触ってたら、本当にくっついちゃいました!」

「うおおお! いいなぁ! 俺もなんかやりてぇ!!」


 結は持ち前の好奇心と素直さで、すでに能力の一端を把握していたらしい。


「そ、そっか……いや、使い方がわかっているならいいんだ。くっつける……か。なんでもくっつくのか……?」

「そこまでは……でも大体なんでもくっつくみたいです! 食べかけで折れちゃったポッキーも、元通りにくっつきました!」

「そうか、修復にも使えるのか……」


 その言葉を聞いて、蓮はハッと閃いた。

 昨日の傷。病院に行かず、自力で処置したあの傷だ。


「結ちゃん。試しに、俺の傷口をくっつけてみてくれないか? 実は、縫ってないから治りが遅そうなんだ……」

「え!? だいじょうぶかな~……でも蓮さんの傷、治ったらいいな……やってみますね!」


 蓮は周囲を警戒しつつ、ジャケットを脱ぎ、シャツの裾を捲り上げた。

 器用に包帯を緩めてガーゼを外すと、まだ赤々として痛々しい裂傷が露わになる。

 それを見た結は一瞬顔をしかめたが、すぐに真剣な眼差しになった。


「やってみますね~~……蓮さんの傷、治れ~治れ~くっつけ~!」


 呪文のような可愛らしい掛け声とともに、結の細い指が蓮の脇腹に触れる。

 彼女は傷口を挟むようにして、健常な皮膚を両側から両手でむにゅっと手繰り寄せた。

 

 ――その瞬間。


「……っ」


 蓮が息を呑むほどの速さで、ぱっくりと開いていた傷口が、まるでジッパーを閉じたかのようにピタリと閉塞した。

 無理やり寄せたことで、端から血が少し滲んだものの、傷そのものは完全に「結合」していた。


「やった!! くっつきました!!」

「おお……! ありがとう! 結ちゃん。これなら治りも早そうだ」


 もはや魔法の領域だ。蓮は感動しながら、再びガーゼを当て直す。


「うおおおおおおーーーーー!!! すげぇえええええええ!!!! 俺も!!! 俺も!!!」


 一緒になって喜んでいた悠真だが、目の前で起きた超常現象に興奮を抑えきれなくなったようだ。

 自分もスキルを使ってみたいと、その辺の木を殴ってみたり、ブンブンとシャドーボクシングを始めている。


「スキルは大体名前の通りの効果みたいだぞ? 悠真のは……《金剛外殻(アダマン・シェル)》……だから……強そうな殻、アダマンだから、硬そうな殻って所か……? 硬くなるんじゃないか?」

「うおおおおおお!!!!! 俺は硬い!!! 蓮!!! 俺を殴ってみろ!!!」

「わ、わかったよ……じゃあ腹筋に力いれてくれ。いくぞ……!」


 興奮状態の悠真が、自身の腹を叩いて構える。

 蓮は悠真の頑丈さを知っている。そして、二人の仲だからこそ、そこそこ本気で殴っても肉体も関係も壊れないとわかっている。

 蓮は手加減なし、自身の傷口が開く可能性も厭わず、八割くらいの力で、鋭い右ストレートを鳩尾付近へ叩き込んだ。


「うおおおおおお!!!!! 《金剛外殻(アダマン・シェル)》ッッッ!!!」

「わっ……!」


 痛そうなインパクトの瞬間に、結が片目を閉じて声を上げた直後――。


 ドゴォッ!!


「ぐっっ!?」


 鈍い音と共に、短い悲鳴を上げたのは――蓮の方だった。

 悠真の自慢の腹筋を殴ったはずが、拳に返ってきた感触は、人の肉体ではありえなかった。

 身に覚えがある。

 昨日、あのゴブリンをバールで殴った時のような感触だ。

 筋肉の弾力を圧倒的に超えた、あまりに硬質な粘土の塊か、あるいはタイヤのゴムの奥に鉄板を仕込んだような。

 素手で殴った拳から、手首まで痺れるような衝撃が走る。


「ん!? 蓮……? もしかして……これ、できてるのかッ!!?!?」


 きょとんとした顔で悠真が自分の腹をさする。

 悠真も蓮の強さを知っている。蓮はただの優男ではなく、工場勤務と筋トレで鍛えた、決して非力ではない男だ。

 その蓮が本気で殴って、殴った方が痛がるなんて事はそうそう無い。

 悠真自身、今のパンチは「子供がじゃれてきた」程度にしか感じなかったのだ。


「痛ぇ……ああ……できてるだろうな……。間違いなく」


 蓮は痛む拳を振って痺れを散らす。これで確信した。

 二人のスキルは本物だ。そして、どちらも極めて有用で強力な力だ。


「二人とも、スキルを使えば、MPが減っているんじゃないか……? あまり使いすぎるとかなり脳が辛くなるし、気をつけて使えよ。それと――」


 蓮は表情を引き締め、声を低くした。ここからが本題だ。


「二人のそのユニークスキルの詳細は、絶対に誰にも言うな」

「えー、こんなに面白いのに??」

「あ? なんでだ?」


 二人が不思議そうな顔をする。

 蓮は静かに、しかし重い事実を突きつけるように問いかけた。


「さっきの話の続きだ。もし、インフラが止まったらどうなる? 避難しても、食料が尽きそうになったら、人はどうすると思う?」

「……あ~あ……マジか……そこまで考えてんのかよ……。考えたくねぇな……」

「え……? どういう事?」


 悠真はすぐに察し、顔をしかめた。結はまだピンときていない様子で首を傾げる。


「蓮が言いてぇのは……人同士で取り合いが起こるかもしれないって事だよ、結ちゃん」

「えぇっ……そ、それで、スキルの事を言わないのと、なんの関係が……? まさか……!」

「そうだろうよ……スキルを使って、取り合い……最悪、殺し合いが起こるかも……そう言いてぇんだよな? 蓮」


 結の顔から血の気が引いていく。

 誰かを助けるために使ったばかりのこの不思議な力が、争いの火種になる。平和な日常に浸っていた彼女にとって、その想定はあまりに現実味がなく、同時に恐ろしい響きを持っていた。


「ああ、悠真の言う通りだ。俺だって、そんなこと考えたくなんてない……。でも、俺は推測してしまっている……つまり、同じことを考えつく人間が居る、十分に起こり得るって事だ……」


 便利な力は、時に武器になり、時に他人から狙われる理由になる。

 結の「くっつける力」や、悠真の「硬くなる力」が知れ渡れば、利用しようとする者や、脅威とみなして排除しようとする者が現れるかもしれない。

 蓮の言う残酷な可能性は、最悪さえ想定すると、これから先の未来で十分に起こり得る現実だった。

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