表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

6.ヘリコプターvsサテライト。


テレウァンが叫び終えるより早く、地響きと轟音が炸裂し、さっきまで二人がいた半個室ブースが爆散した。


爆風に吹き飛ばされ、二人はネカフェのエントランスに叩きつけられる。


照明は消え、店内が薄暗くなる。

ネカフェは、煙と焦げた匂いで満ちる。

甲高い非常ベルが鳴り響き、自動案内が少し遅れて流れ出す。


『火災が発生しました。火災が発生しました。』


さっきまでブースがあった場所には、黒く抉れた空間と炎だけが残り、床には破片が散乱していた。


「夕凪、大丈夫か!?立てるか!!?」


テレウァンは夕凪の体を持ち上げながら、右足で地を力強く踏んだ。


「シンクレイッ!!」


その名を叫ぶと、テレウァンの背後から一本の光が伸びた。

光は煙を貫き、影を押し広げるようにして、何かを引きずり出す。


それは、ミラーボール。


光の筋を放ちながらゆっくりと浮上し、次の瞬間、真っ二つに割れる。

その内部から姿を現したのは、例のヘリコプター。

どこからか、ダンスミュージックが鳴り始めた後、煙を巻き上げて、空中へと躍り出た。


「防火扉っ!!」


テレウァンが手を払うと、防火扉はひとりでに閉まり、エントランスとブースを隔てた。


「夕凪、早く出ろっ!!」


テレウァンは夕凪の背中を押し、半壊したネカフェを飛び出した。


「何が起きたん!?急に爆発したで!?」


「私にもさっぱりわからん!!」


「王子なんやろ!何とかして!!」


「私の世界で王家の能力を使えるのは、私と兄と父だけだ!!しかし、私はあんなのを見たことがない!!」


ドンッ!!


背後で心臓を叩かれるような爆発音。

反射的に振り返ると、ビルの窓が波打っていた。

ガラスは全て弾け飛び、灰色の煙がうねっている。

その煙をかき分けるように、人工衛星が浮かび上がった。


「わっ、来よった!!」


「逃げろ!」


そう言われる前に、夕凪はもう走っていた。

足元は覚束なく、今にも転びそうなくらい、振り返る余裕もなく、ただ逃げることだけに必死だった。

人工衛星は夕凪を捉え、地上をなぞるように低空のまま進む。


「狙いは私ではないのか…!?」


テレウァンは走り出し、ヘリコプターはそれに合わせながら、唸りを上げて速度を増し、そのまま人工衛星に激突した。


「面白い。久々にこいつの能力を存分に振るえるではないか!」


機体の腹部から垂れた触手が伸び、人工衛星に絡みつく。


「私のシンクレイが目の前に現れても、追うことをやめんとはな。どこの誰だか知らんが、どうやら私のシンクレイの能力を知らぬらしい。」


触手に絡みついた部分が溶け始め、人工衛星はどんどん輪郭が崩れ、原型を失っていく。


「さあて。どんな輩がこれほど洒落たシンクレイを操っているのか、じっくり拝ませていただこうか。」


そう言って、テレウァンは周りのビル群を見回す。


「ここらのビルに潜んで、私を見ている事はわかっている。王家の神聖な能力に泥を塗りよって。大逆罪だ。その身、冥府へと送ってやる。」


その時、触手に絡められていた太陽電池パドルが、一斉にヘリコプターへ光線を発射した。

機体は熱に耐えきれず、外装が赤熱し、グズグズと溶け崩れていった。


「見たこともない能力だ…、されど。」


触手は力を増し、機体を絞り、圧し潰す。


「私のシンクレイは王家でも最強だ。この世に比肩する者なし。」


それでも人工衛星は、やけくそじみた軌道で、絡まり離さないヘリコプターを引きずったまま、夕凪を追跡する。


「まじかっ!?」


テレウァンは舌打ちし、即座に走り出した。


「夕凪!こいつはお前の事を狙ってる!!地下通路の入口を探せ!そこまで誘導しろ!」


「ええ!なんで私が狙われてんの!!?」


「知らん!!」


平日の夜、十八時を過ぎた梅田は、仕事を終えた人々が一斉に地上へ溢れ出し、歩道は一定の速度で流れる川のようだ。

その全員が、今起きている異常な一連だけを眺めている。

夕凪はそれらの視線を浴びながら、人の流れに逆らい、人と人との間を掻き分けるように走った。


なおも人工衛星は、ジリジリと距離を詰める。


「あった!!」


夕凪は、地下へ続く通路の入口を見つけた。



キュイイイイ……。



背後から、不吉な駆動音が響く。


「夕凪!一基、掴みそこねた!ビームが飛んでくるぞ!!」


パドルが一基、無傷のままヘリコプターの触手をすり抜け、白熱した光を帯びながら、猛スピードで夕凪へと近づいた。


「クソッ!!」


テレウァンは道路を疾走する一台の車へ手を伸ばし、人差し指を反対方向へ、クイッと弾いた。


次の瞬間、走行中にもかかわらず、運転席側のドアが開く。

突然の異変に、車体が大きく揺れ、減速する。


「うわっ!?なんや!?」


運転手が叫び終わる前に、テレウァンは半身を車内へ突っ込ませる。


「どけ。」


運転手の体はそのまま蹴り飛ばされ、アスファルトの上へ転がった。

テレウァンは片足を伸ばしてアクセルをベタ踏みし、思い切りハンドルを切った。


狙いはただ一つ。

夕凪を追う、一基のパドル。


衝突しようとするその直前、テレウァンは車外へ身を投げ出した。



その瞬間、



ガンッ――――ッ!!!



衝撃音。

次いで、爆発。

テレウァンのいた車体がパドルに激突し、繁華街の一角にもう一つの黒煙がうねった。


「夕凪!! 急げっ!!」


人工衛星は、建物の角や街路灯をなぎ倒しながら、ただ一点、夕凪だけを狙って進んでくる。


「どいてーー!!」


夕凪は人波を割ろうとした。

しかし小さな体は、群衆に押し流され、前へ進むことさえままならない。


すると、


「警察です!道を開けてください!!」


遠くからその声が聞こえると、逃げ惑う群衆は、まるでポセイドンが海を割ったかのように、一瞬で左右へと裂けた。


その先には、私服の男性と、スーツ姿の女性の二人が車の前で立っていた。

その内、長い金髪の女性が、警察手帳を見せて大きな声で言った。


「大丈夫、私達は警察です!さあ!私達の車に乗るであります!」


「あかん!地下通路に行かんと!!あんなん警察にはどうにもできん!!」


「ががーーん!!」


夕凪は女性の手を振り払い、迷いなく地下通路の入口へと走り出そうとした。


しかし、ある人と目が合う。


女性の隣にいた、私服の男性。


「……夕凪か!?」


男性の血の気が、すっと引く。


「……お父さん?」


その男性とは、夕凪の父、朝臣だった。


「夕凪!早く車に乗れ!!」


「お父さんが早く車に乗って逃げて!あれはこの世のもんやないねん!!」


「何言ってんだ!はよ乗れ!!」


夕凪は、父の手も振り払い、走り出す。


「おい!夕凪っ!!」


「菊池さん!危ないであります!!」


金髪の女性が、朝臣を引っ張り、歩道外へ出る。


「夕凪ぁぁぁぁーーー!!」


その横を、人工衛星が横切った。

目の前をかすめるように通過した、不気味なその物体を、朝臣ははっきりと目視してしまう。


理解するより先に、背筋が冷えた。


その直後、人波に逆らい、必死にその後を追って走る一人の青年が、視界に飛び込んでくる。


「……まさかっ!?」


朝臣は、その顔を見た途端、さらに血の気が引いていくのを感じた。


「夜風…!なんであいつまで!?」


「二人とも、お知り合いなのでありますか?」


「……俺の息子と娘だ。」


「えええええーーーーー!!!」



一方、朝臣達を通り過ぎた夕凪は、やっとのことで地下通路へと駆け込んでいった。


「よし!よく逃げ切った、夕凪!!そのまま足を止めるな!!」


テレウァンが人差し指を、下へ払う。

すると、地下通路入口に設置された非常用手動シャッターが、見えない力に引っ張られるように降りる。


ヘリコプターは、絡みついた触手を一段階強く締め上げた。

そして、人工衛星と一体になったまま、加速し、シャッターへと凄まじい勢いで突っ込んでいく。



次の瞬間、



ドォォォン…!!



爆音が、繁華街に響き渡った。


ヘリコプターと人工衛星の破片が、路上のあちこちへと散乱する。

非常シャッターは大きく歪み、深く凹んではいたが、貫通は免れた。



「夜風……。」



その光景を前に、朝臣はただその場に立ち尽くしていた。





****************





「あーあ、やられちゃった。」


タワーマンションの一室。

梅田の夜景を全て切り取れるような大きな窓の前で、ある人物は大きなベッドに仰向けに寝転がっていた。


白いシーツに身を預け、腕は力なく左右に投げ出されている。

足を組み、ミニスカートの裾から、黒いタイツが伸びる。

サラサラの赤い髪は枕の上に広がり、血の色にも、火の色にも見えるその髪は、微動だにしない。


「でも、初めてにしては上手く動かせたかな。」


女は、指先でタバコを挟み、リラックスした様子で、ゆっくりと一服した。

煙は天井へ向かって真っ直ぐに立ち上り、やがて空調に吸われていく。


窓を見つめる視線の先には、黒い煙が上がっている。


「あの女の子、まだ気づいてないっぽいなあ。」


独り言のように呟き、タバコを灰皿に押し付けた。


「その男、大嘘ついてるのに。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ