5.5.四人の刑事。
とある日。
御堂筋を走る一台の車の中で、四人の刑事が落ち着きのない夜を過ごしていた。
「るえか、もうお腹ペコペコで死にそうであります…。」
後部座席に座り、大口を開けて空腹を訴える新米刑事の新貝るえか。
二十七歳。
腰まで伸びた金色の髪は、力を失ったようにぺたりと黒のスーツへ流れ落ちている。
前髪は切る暇もなかったのか、目元にまでかかっていた。
細いフレームの眼鏡の奥には、生気の抜けた虚ろな目が覗いている。
「るえかちゃん、チョコ…。」
その隣で、カバンからチョコの個包装を破り、コロコロとした小さい一粒を、るえかの開いた口に放り込むのは、彼女の同期の西菜瑞羽。
光を滑らかに反射する程、綺麗で艶のある黒のセミロング。
前髪は眉のあたりで丁寧に揃えられている。
鼻筋はすっと通り、口元は薄く引き結ばれていて、大きすぎない切れ長の瞳は、感情を表に出さず、人形のような冷たさがある。
肌は白く、血色は控えめで、その分、黒く光る瞳が際立って見えた。
「先輩、本当に僕達こんなことしてていいんすかね?」
ハンドルを握っているのは、丸盾慎平。
三十六歳。
真面目という言葉が顔に貼り付いているような、身だしなみの整った男だ。
慎平は、助手席に座る男へと視線を向け、今の状況に不安そうな声でそう問いかけた。
「いいんだ。みんなここ最近忙しすぎて飯もまともに食えてないだろう。こんな状態の俺達で事件を解決できるとはとても思えん。」
仕切るのは、彼ら三人をまとめる、菊池朝臣。
「ゴチゴチになっちゃっていいんでありますかー??」
「ああ。ゴチゴチになってけ。」
「やったよ、みっちゃん!酒が呑める呑めるぞー酒が呑めるぞーい。」
「ア、ソレ。」
「バカタレ。ダメに決まってるだろ。」
「えええーーー!!!」
「せっかく梅田に行くんですし、美味しい肉でも食いたいですね。」
「慎平、店はお前に任せていいか?」
「了解です。」
「頭が硬い上司達でありますねー…。」
「明日は葉山真登の遺族に事情聴取するんだぞ。酒臭くなって行ってみろ。目も当てられん事になる。」
「確かに…。」
「しかしこの連続変死事件、犯人って、マジで人間なんですかね……。」
「人間でないとありえない、そう言いたいけどな。」
そう言って、朝臣は胸ポケットからタバコを取り出して咥えた。
「菊池先輩、この車、禁煙車です。」
「あ、そうだったか。すまん。」
咥えたタバコを箱に戻そうとした時、
ドォォォオンッ!!
どこかで強烈な爆音が響いた。
「どこだ!?」
車内の空気が、一瞬で張りつめる。
慎平は、アクセルから足を浮かせたまま、ミラーを確認した。
「後方のビル、火が出てます。向かいますか?」
「管轄は?」
「ギリ外です。」
「通報は?」
「もう入ってるはずです。あの音なら。」
「行こう。」
運転席の男が、ウインカーに指をかけた。
それが、今夜が長くなる合図だと分かっていても、誰も口にしなかった。




