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12.役者、一堂に会する。

「ただいまー。」


るえかとテレウァンがゲームセンターに戻ると、すぐに夕凪たちの姿が目に入った。


「あ、お兄ちゃん!よかった無事で、どこ行ってたの?」


「ちょっと、こいつの鬱陶しい能力でな。」


「テレウァン……。」


憎しみを含んだ声。

テレウァンの前には、手錠をかけられ、身動きの取れない男がいた。


赤髪の女性、ワタリだ。


「その名で呼ぶな。貴様は誰だ?」


「……君は王子だ。ボクのことなんて、微塵も覚えちゃいないだろうね。」


「分からんぞ?今のその姿では判断できんが、名を聞けば、かろうじて思い出すやもしれん。」


「……ヘキザ。ヘキザ・マロニトローム。」


「……知らんな。」


「ほら!ほらな!それ見たことか!」


「その名前、そんなナリをして貴様、男だったのか。」


「転生したら、この女の姿になってたんだよ。」


「おいお前達、何をわけのわからんことをベラベラと喋ってるんだ…?俺にもわかるように話してくれ…。」


ワタリの隣で、朝臣が額に手を当て、頭を抱える。

だが、そんな朝臣の様子など最初から視界に入っていないかのように、テレウァンは視線を逸らし、るえかの方へと手を差し出す。


「おい、るえか。銃を寄越せ。」


「ん?どうするの?」


「決まっているだろう。さっさとこいつをこの世から追い出す。」


「おい!ダメに決まってるだろ!」


朝臣が制する。


「こいつから全てを吐かせて上に回す。それが俺達の仕事だ。」 


「何を生ぬるい事を言っている?貴様も見ただろ?こいつの能力は、この世界では通用せん。刑務所にぶち込んでどうにかなるような奴ではないとわかっただろ?」


するとワタリは顔を強張らせ、朝臣に向かって叫んだ。


「お前、警察だろ!?この男捕まえろ!こいつはもう十二人も殺してるんだぞ!!」


全員が、耳を疑う言葉だった。


「……なんだと?」


朝臣の表情が凍りついた。

その沈黙を、嘲るようにテレウァンが笑う。


「ははははは。デタラメ言いよって。十二人も殺したのはこいつだ。女、さっさとこいつを撃ち殺せ。」


「ボクは正しいことをしたんだ!手段は暴力的だったかもしれないが、そこのガキんちょをテレウァンから守る為にここまでやったんだ!信じてくれ!!現に一人も殺していないだろ!」


「殺されかけたよ!しかもガキんちょやない!夕凪っ!!」


「コアラ。これ以上わけのわからんことをこいつに喋らせるな。」


「コアラじゃない。あとわけがわからんのはお前もだ。」


「騙されるな!テレウァンにミナミディスコを渡してはいけない!ボクの世界と同じような事になってしまうぞ!」


バンッ!


「うるさあああーーーーい!!」


一発の銃弾と、るえかの一喝により、瞬時に場が静まり返った。


「こんな場所で結論出そうとしよったって、無理に決まってるでしょ。

煙たいし、臭いし、証拠もないまま言い合っても意味ない!ちゃんと上に回してから話して!るえか、もう頭使いたくない!!」


「刑事にあるまじき言動…。」


「確かに、あの人工衛星をお前が操っていたって証拠がない以上、今の法律じゃ裁けない。それに、その証拠を見つける手段を、俺たちは持っていない。」


そう。

ワタリには、一切証拠がない。

人工衛星による熱光線が街に被害を与えた。

それ自体は、もはや否定しようのない事実だが、それと同時に、その事実は奇妙な壁にぶつかる。


操っているのはワタリしかありえない。

それは、あくまで推測でしかない。

日本の刑法は、驚くほど律儀で、冷淡だ。

感情も、直感も、判断材料にはならない。

必要なのは、物証や、記録や、再現性。

そして何より、法律に書いてあるかどうか。

人工衛星が能力、武器として使われたという前提そのものが、この国の法体系には存在しない。

つまり警察にできるのは、せいぜい眉をひそめることだけだ。

他に犯人がいない。

だからこそ犯人だ。

そんな論理は、法廷では一言で却下される。

疑わしきは罰せず。

正確に言えば、証明できないものは、存在しないものとして扱う。

結果として、ワタリは裁けない。

どれほど黒く見えても、処理上は白だ。

日本の法は、正義の味方ではない。

ただ、決められた手順を淡々となぞるだけの、めんどくさくて、融通の利かない、巨大な事務作業だ。

そして、その事務作業の隙間に、ワタリはきれいに収まってしまっている。


「お腹すいた。」


瑞羽の一言が、全員の腹を鳴らした。


「あたしもお腹すいたー。」


夕凪も続く。

朝臣は一瞬だけ考えてから、ため息まじりに言った。


「仕方ない。とりあえず飯にするか。」 


「やったー!」


「あの女性も連れて行くんですか?」


慎平はちらりとワタリを見て、少し不安そうに言う。


「ああ。責任は私が取る。私の家の近所に美味いお好み焼き屋がある。そこにしよう。」


そうして、結論の出ないまま一行はワタリを連れ、お好み焼き屋にやってきた。


菊池家の最寄り駅の前にある、年季の入った店だ。

菊池家の行きつけらしく、夕凪は暖簾をくぐった瞬間から上機嫌だった。


「うわ、ここ久しぶり!」


店内も古い。

鉄板の焦げとソースの匂いが壁に染み込んでいる。

だが、それがいい。

テーブル席は自然と二つに割れた。

喫煙組は朝臣、テレウァン、るえか、そして連れてこられたワタリ。

非喫煙組は、夕凪、慎平、瑞羽。


「みっちゃん、何にするー?」


夕凪と瑞羽は、メニューに夢中だ。

慎平はその間に、取り皿と箸、コテを三人分並べていく。


「たこ玉かな。あまり見かけないから。」


「珍しいよね!あたしも好き!」


夕凪はふと慎平を見て、


「……えーと…。」


「丸盾慎平です。よろしくお願いします。」


律儀に頭を下げる。

夕凪もつられて頭を下げた。


「丸さんって呼ぶと彼、喜ぶよ。」


「いや、そんなことは……。」


慎平は少しだけ照れた。


「丸さん!何にします?」


「んー。イカかな。モダンで。」


「イエッサー!」



その頃、喫煙組。


「るえか、牡蠣玉と焼きうどん!あとハイボール!」


「夜風は焼きそばとたこ玉だったよな。」


「そばか。悪くない。」


「ボクはシーフードミックスだ。」


ワタリが機嫌よく手を挙げる。


「おい、なぜ囚われの身の貴様が一番高いものを頼んでいるんだ。しかもタバコなんて呑気に吸いよって。」


「テレウァン。今は君も奢られる側だろ。ずいぶんと格が下がったな。王子様。」


「なんだと!無礼だぞ!」


「お前らちょっと黙ってくれ。」


注文が通り、ほどなく各テーブルに粉と具材が置かれる。

慎平は慣れた手つきでボウルを混ぜ始めた。


「丸さん、作れるんですね。」


「まあね。」


「大阪って、意外と店の人が焼いてくれるから、自分で作れない人多いですよねー。」


「そうだね。大阪人にお好み焼き焼かせたらプロ並みだとか勝手に思われてるらしいよ。ソースのかけ方だけは一丁前だから、上手く見えるだけだったりするんじゃないかな。」


「それそれ!」


そんな事を話している間に鉄板の上で生地が焼け、その上で青のりや鰹節が泳ぎ、ソースのいい匂いが広がる。


一方、喫煙席ではもう酒が進んでいた。


「かー!酒が美味い!!」


全員が酒を呑み、顔がほぐれていく。


「さて、俺にもわかるように、もう一度話せ。

お前は何者で、連続変死事件とどう関わってる?」


「連続変死事件?そんなの知らないけど…。」


「知らないだと?おい、夜風。こいつは事件に関わる超重要人物じゃなかったのか?」


「ああ、そうだ。全部こいつの仕業だ。」


「おい!何言ってるんだ!お前だろ!!」


「何がどうなってるんだよ…。」


ワタリはタバコに火をつけた。


「ボクは、この世界の人間じゃない。そこを一旦無理でも飲み込んでもらわないと、話が先に進まないけど?」


「……わかった。まず聞こう。」


ワタリは一瞬、言葉を選ぶように唇を噛んだ。


「異世界って考えてくれていい。隣にいるこいつが、その世界の王子だ。」


そう言ってテレウァンを指す。


「誰がこいつだ。貴様、王子である私に向かって…。」


「夜風、一旦待て。」


「その異世界で、人間がどんどん消えていなくなるという異常な現象が発生しているんだ。」


「……うん。」


「王様は、ミナミディスコなるものを見つければ、異常現象を治めることができると仰っていた。それは新しい一つの世界を開闢できるほどの能力を秘めているらしい。そのミナミディスコがあると言われているのが、この世界だ。それを見つける為に、最初にこの世界への転生に成功させたのが、王の息子であるテレウァン王子というわけさ。」


「アニメでよくある、マジの異世界転生じゃないすか!」


るえかは興味津々な表情で、話に耳を傾ける。


「だが、テレウァンは一年経ってもミナミディスコを見つけて帰ってこなかった。その間にも人は消え続け、おかげでもう今は八億人の人が消えている。だからボクは意を決して、転生を試みた。他に何人もの人が、できるかどうかもわからない転生を果たそうと自分で命を絶って、賭けに出たんだ。みんな成功したのか、失敗したのか、ボクにもまだわからない。もしかしたらみんな転生に失敗して、ボクだけが成功したのかもしれない。」


ワタリは肩をすくめた。


「そんな犠牲の上でここにいる。今じゃテレウァンはボクらの世界じゃ裏切り者同然。こんな無責任な奴に、ミナミディスコは渡せない。」


「おい。」


朝臣が口を挟む。


「ん?」


「俺にもわかるように話せ。」


「十分わかりやすく説明してるだろ!これ以上はボクの国語力が限界なんだよ!」


「まずその、テレウァンというのは…?」


朝臣は腕を組みながら、夜風を見た。


「だから、こいつだって。」


ワタリはまた、テレウァンを指す。


「夜風が?その王子だってのか…?」


「ああ。」


「じゃあ、夜風はどこにいるんだ…?お前は本当の夜風ではないのか…?」


「それは……」


ワタリが言い淀む。


「大丈夫だ。ミナミディスコさえ見つかれば、私はすぐに元の世界に戻り、夜風は目を覚ますだろう。」


「もしかして、お前達の他にも、転生してきた奴がいるかもしれないってのか?」


「ボクが知ってる限りでは、もう千人くらいは転生を試みている。その中で、何人が成功してるかとかは正直、見当もつかないし、未だ転生に成功している人に出会ったのはテレウァン王子のみだ。」


「そんな、集団で異世界転生するアニメ、見たことないですよ…。」


「……ふぅ。」


朝臣はタバコを深く吸い、天井へ上がっていく煙をしばらく見つめる。


「……ぶっ飛んだ話だが、あんな説明のつかないヘリコプターや人工衛星を見てしまったら、妙にその話に現実味が出てきて恐ろしいな。冗談だろと笑い飛ばしたいところだが、気にもなれん。」


「なぜ貴様が、王家の人間ではないのにシンクレイが使えたんだ?」


テレウァンの問いに、ワタリは首を振った。


「さあ。わからない。前の世界では使えなかったのに、ここの人間に転生したら、何故か使えるようになっていたんだ。」


「やはり人間と私達には何か共通点があるのか…。」


「シンクレイ?おい、俺にわかるように…」


「おいコアラ。さっきから貴様、腕組んでそれしか言ってないではないか。」


「菊池先輩は頭が固いんです。現実が自分の理解の範疇を超えると、その時点で思考を止めてしまってるんですよー。刑事、向いてないですよねー。」


るえかは日本酒をしっぽり呑みながら、呟く。


「連続変死事件の犯人も、お前達なのか?」


「いや、違う。」


テレウァンは即答する。


「菊池先輩、ワタリくん?ちゃん?の処分はどうするつもりなんですか?」


話の腰を折るように、るえかは切り出した。

朝臣は、鉄板の端に寄っていた生地をコテでまとめながら、ワタリに言った。


「ワタリ、お前何歳だ?」


「何歳…?十四歳。」


「嘘をつけ。どう見ても二十歳超えてるだろ。タバコも吸ってりゃ、酒も呑んでるじゃないか。」


「あ、この体の年齢か。正確にはまだわからないんだ。恐らく二十代前半だと思う。」


それを聞いて、朝臣は小さく息を吐いた。


「そうか。ならワタリ、俺のとこに来い。」


「はああああ!?」


テレウァンが怒鳴り声を上げる。


「正気か!?こんな危ない奴を私の家に招き入れるだと!?」


「先輩が預かるってことですか…?」


「連続変死事件に関わっている可能性が捨てきれないしな。成人しているなら、実家暮らししていたとしても、家を出た理由は一人暮らしをしたという事にすればいい。法で裁けないのなら、監視下に置けばいい。私が責任を取ろう。」


「十四歳やったら、夕凪ちゃんと同い年でありますか!姿は違えど、同じ年齢の異性が同じ屋根の下……おぅふ。」


「え?なになに?何の話してんの?」


夕凪は自分の名前を呼ぶ声に反応し、隣のテーブルからひょこっと顔を出した。


「夕凪。急だが、今日からこのワタリが菊池家に住む。」


「はっ!?なんで!?急すぎん!?」


「しかし、もちろん住むにあたって、金は稼いでもらう。俺の妻の店でな。」


「ネコザメポテトで!?」


夕凪は目を丸くした。


「なっ!ボクが働くのか!?まだ十四歳なんだけど!?」


「そんな見た目で中学なんか通えるか。」


「ふん、ざまあみろ。」


テレウァンは鼻を鳴らす。


だが、


「夜風、お前もだ。今まで触れずにここまで来たが、お前もニート同然だろ?」


「へ?」


こうして、役者は一堂に会した。

ここから菊池家を中心とした、異世界転生者とのヘンテコで、アブノーマルな生活が始まった。




第一話 異世界転生王子テレウァン。 完



第二話 Z世代の電波塔カマクラちゃん。 へ続く。

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