ぶた。
ぶた!
私は朝起きたら、豚になっていた。
豚の顔になっていた。
私は鏡が大嫌いで、家でも学校でも、どこでも顔の映るものは避けて生きていた。
顔が大嫌いだった。
私の顔が。
醜くて、歪んでいて、まるで人間に見えなかった。
友達みんなが私を笑っているような、蔑んでいるような気が毎日起きていた。
私を産んでくれたお母さん、お父さんに顔向けできないような話だけど、
二人とも大好きだけど、やっぱり私の顔は大嫌いだった。
そんなとき、なぜか私は朝目が覚めると、豚の顔になっていた。
そう訴えると家族みんな驚いて、怖がっていた。
何かの病気? 何かに取り憑かれた?
原因も対処も分からなかった。
学校に行けば、友達、先生、知らない人から顔を見られた。
でも、でも私はなぜか、なんでか分からないけど、
顔が変わってから鏡を見ることに、顔を見ることに、何の抵抗もなくなっていた。
以前は憎いほどに嫌いだった私の顔が、
むしろ大好きに、愛おしくなったのだ。
みんなに顔をからかわれても、豚みたいと言われても何も感じない。
実際に豚になったわけなので、傷つきもしない。
私は自信を持つようになった。
みんなに向けられた視線は、私の美意識を高めた。
きちんとメイクをして、服装を整えて、髪の毛もきれいにする。
以前なら考えられなかった。
人並みの営みを、当たり前にできるようになった。
顔は豚のままだけど、豚のままだからこそ、
私は逆に、それが“私”だと思えるようになった。
少し経つと、みんなが私の顔に慣れたのか、友達が増えはじめた。
気さくに話しかけてくれるようになった。
私も少しずつ人と話す力が伸びてきて、
なんと驚いたことに、彼氏ができた。
人生初の彼氏。
彼は私のすべてを愛してくれた。
一緒にダイエットのためのランニングもしてくれたし、一緒に勉強もした。
なんて幸せなのだろう。
前を向いて歩けるようになることが、こんなに幸せなのか。
そしてあるとき、友達たちから「一緒にプリクラを撮ろう」とせがまれた。
人生で初めての体験で、心が躍った。
何枚か撮り、印刷された写真を見てみると、そこには――
人間の顔の私がいた。
満面の笑みで笑っていた。




