竜の上から真実を暴露する
真実を暴露する話、第八弾。
別名、愛の告白。
私、王太子アルトゥールは、長期にわたる国外視察と交渉を終え、約半年ぶりに帰国した。
交渉にはかなりの時間がかかったが、おかげで妥協せずに良い取引が出来た。
満足のいく結果に心を躍らせながら、父である国王に報告をしたところだ。
父としても、満足のいく結果だったらしく、お褒めの言葉をいただいた。
「では父上、これで失礼します。」
「ああ、ちょっと待て。お前に伝えておかなければいけないことがある。」
いつもなら、呼び止められることがないのに。
珍しいことだ。
何故か嫌な予感がした。
「……何でしょう?」
「王太子妃、ルクレツィアのことだ。」
「彼女に何か!?」
「非常に言いづらいのだがな、嫁が実家の領に帰った。」
「……母上が?」
「違うわっ!ルクレツィアだと言っただろう。」
「は?」
「まあ、普段のお前の言動を見るに、仕方がないことだな。」
「なっ!」
彼女が実家に帰った?
私の普段の態度のせい?
た、確かにちゃんと言っていないこともあったが、いつも彼女はわかってくれた。
……本当にそうか?
彼女に我慢させていただけでは?
まさか、このまま離婚……?
それは嫌だ。
彼女のいない日常なんて、考えられない。
「父上、急用が出来ました。竜をお借りします。」
「迎えにいくのか?」
「当然。」
足早に父の執務室を去り、竜舎に向かった。
通常の移動なら馬車を使うが、今は緊急事態なので、竜で飛ぶことにする。
父にも一応宣言したし、大丈夫だろう。
竜舎の奥には、他の竜よりも一回り大きい、白竜がいた。
私の相棒、ヴルートだ。
「ヴルート。ルクレツィアが、実家の公爵領に帰ってしまった。急いで向かいたい。」
〈離婚か?〉
「そんなわけあるか!」
〈ははは!まあ、良い。連れて行ってやろう。〉
「頼む。」
ヴルートに手綱と鞍をつけ、飛行場にでる。
「殿下!?」
「緊急事態だ。」
「護衛は!?」
「要らん。」
竜の世話役が聞いてくるが、問答している時間も惜しい。
後ろで騒いでいるが、今はそれどころではないので、無視する。
ヴルートに跨り、身体を固定した。
「行くぞ。」
〈うむ。〉
「殿下ーーー!」
ヴルートの羽ばたきで、一気に上昇する。
ヴルートが全力で飛んだら、公爵領まで30分。
ルクレツィア、どうか公爵領にいてくれ。
君に伝えなければいけないことが、たくさんあるんだ。
私は手綱を強く握り締め、空を睨んだ。
公爵領の上空に入り、少しずつ速度を落とす。
深呼吸をして、緊張で強張った身体を落ち着かせた。
だが公爵邸が見えると、どうしても力が入ってしまう。
公爵邸の二階のテラスに、よく知った姿を見つけた。
半年ぶりのルクレツィアだ。
早る私は、竜に乗ったまま、ルクレツィアに声をかけた。
「ルクレツィア、帰ってくるのが遅くなってすまなかった!決して、君を蔑ろにしたわけじゃない!君に似合う月色の絹を見つけて、どうしても手に入れたかったんだ!君に着てほしくて!」
「え、あのアルトゥール様?何を……」
「ルクレツィア、私は君を愛している!誰よりも努力しているところ、辛くても笑顔で頑張るところ、社交界で女性をやり込めるところ、厳しい顔で叱責するところ、可愛いものを見ると目を輝かせるところ、甘いものを食べると頬を緩めるところ、二人っきりになったら赤くなって恥じらうところ、拗ねると頬を膨らませるところ、触れると恥ずかしがって逃げるところ!すべて愛している!」
「あ、アルトゥール様!?ちょ……やめ……」
ルクレツィアが慌てて立ち上がり、何かを言いかけているが、自分のことが精一杯で全く気づかなかった。
「刺繍が苦手で唸っているところ、私の肖像画を大切に隠し持っているところ、こっそり夜食を作ってくれるところ、遅くなっても寝ないで待っていてくれるところ、小さな背や胸も、顔も、唇も、手も、全て愛してる!」
「お願い、もうやめて。恥ずかしくて、死んじゃいそう……」
ルクレツィアは全身を真っ赤に染めて、蹲る。
それすら気づかないくらい、私は愛を伝えることに必死だった。
「だからどうか、帰ってきてくれ!離婚するなんて、言わないでくれ!ルクレツィアに嫌われたら生きていけない……」
「……え?離婚なんて、一言も言ってませんが!?」
ルクレツィアの叫びが耳に届いた。
「……え?本当に?嘘でも冗談でもなく?」
「本当です!」
「じゃあ、どうして実家に帰ったんだ?」
「それは、その……報告があって……」
「報告?」
ルクレツィアは、真っ赤な顔で、下腹に両手を当てた。
潤んだ目がまた可愛い。
こういう顔も好きだ。
意地悪するのもいいかも……
いやいや、そうじゃなくて。
まさか……
「子ども?」
「……はい。」
はにかんだ顔もまた良い。
「ルクレツィア!ああ、ルクレツィア!ありがとう!嬉しいよ!」
竜からテラスに飛び降りて、私はルクレツィアを抱きしめた。
「良かった。良かった。てっきり、嫌われたのかと……」
「仕方のない方。嫌うなんて、離婚だなんて有り得ません。もう少し信じてくださいな。」
「ルクレツィアのことは、疑ったことはない。自分が信用できないんだ。」
お腹に負担を与えないように、ギュッと抱きしめる。
腕の中の暖かさに、涙が出そうだ。
そんな私の背を、ルクレツィアはいつまでも撫でてくれたのだった。
それから、公爵邸に数日滞在して、ルクレツィアと共に城に戻った。
戻ったのだが、数日前と城の雰囲気が何か違う。
だが、嫌な感じではない。
むしろ、何だか妙に生暖かいような。
ルクレツィアもそれを感じ取ったのか、不思議そうな顔をしている。
父に問いただしたいことと報告があるので、ルクレツィアと共に執務室に赴いた。
出迎えてくれた父は、ニコニコ、いや、ニヤニヤした顔だった。
非常に腹の立つ顔だ。
「父上、ルクレツィアと帰還しました。が、どういう事ですか!?一時的に、公爵邸に戻っただけではないですか!」
「別に、離婚とは言っていないだろう?実家に帰ったことと、お前の言動を責めただけだ。お前の早とちりだな。」
「うぐっ、た、確かにそうですが……」
「いや〜それにしても、盛大な愛の告白だったな!」
「「え?」」
ルクレツィアと私の声が被る。
何故、父が知っているのか。
嫌な予感がする。
「心配になって、魔道具でずっと聞いていたんだ。それにうっかりしていて、放音してしまったんだ。王都中に。」
「はあ!?」
「いや〜、王都中お祭り騒ぎだったよ。未来の国王夫妻の仲が熱々でな!城のみんなも大喜びだった!はっはっはっ!」
「ち、父上ーーー!!」
にやけ顔の父、怒り心頭の私、真っ赤になって固まるルクレツィア。
執務室は、カオスな状態になっていた。
それから城内を歩いていると、年配からは揶揄う視線を、若い層からは微笑ましい視線を向けられて、しばらく恥ずかしい思いをしたのだった。
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