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私は登山家

作者: jiru

 目が覚めたら熊になっていた。おかしい。私は山好きのサラリーマンであったはずだ。今日も山に登りに来て、テントで昼寝をしていた。顔を洗うため川にきた。が、川に映っているのは熊である。山に登る際には熊を恐れ、熊スプレーは必ず携帯し、熊鈴を響かせながら歩いていた。それなのになぜ自分が熊になっているのか。これは夢だ。その場で目を瞑る。目が覚めれば人間に戻っているはずだ。段々と意識が遠のく。

 目が覚める。そっと川を覗く。やはり熊だ。

 腹が減った。山に持ってきた食料は尽きてしまった。スーパーに買い出しに行くこともできない。私はこのままでは飢え死にすると考え、渋々テントを離れ、川沿いに山奥へと入る。何か食べるものはないか。川では魚が泳いでいる。私は魚が嫌いだ。だが、こうなっては好き嫌い言っていられない。私は、川に入り慣れない手で魚を捕まえる。魚は私をあざ笑うように踊っている。私は怒りにまかせ手で魚をはたく。魚は宙を舞い、地面でビチビチとリズムを打つ。音は次第に弱まり、消えていく。ああ、死んでしまった。私は魚を殺してしまった。私の空腹は収まったが、なんだか満たされない。

 さらに、山奥へ入る。魚には飽きてしまった。ご飯が食べたい。サラダが食べたい。肉が食べたい。空腹だ。

 ガサガサと音がする。息を潜め、じっと音のする方を見る。そこには鹿が四頭いる。こちらもじっと私の方を見ている。可愛い。カメラを構えたい。きっと良い写真が撮れる。そんなことを考えていると、鹿は私に気がつき逃げ出す。私は思い出す。ああ、腹が減った。食べたい。肉が食べたい。

 再び鹿に出会った。じっと眺めることもなく、私の体は鹿の方へと飛び出し、逃げる鹿を追いかけ、喉へと喰らいつく。歯から伝う血が私の喉を潤す。私は腹も心も満たされた。

 遠くで鳴っている音が段々と近づいてくる。熊鈴だ。人間だ。会いたい。でも、私は熊だ。怖がられる。私は逆方向へ行く。草を分け、突如現れる人間。彼はびっくりした顔をし、悲鳴もあげたが、その後口を開く。

 「大丈夫ですか。」


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