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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
目覚めと始まりのメタスタシス

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ゴー・ファーストミッション





すぐ翌日。


俺は道場で共に練習した者達やアンブラ、師範代達に送られ、俺は道場を出た。



「また来いよ、ガンド」


「ああ。またな、アンブラ」




俺たちは、固く握手を交わした。





その後、俺は千明さんに渡された住所を頼りに、俺のギルド「神剣城」の拠点へと向かった。



拠点は意外にも、道場から歩いて15分程度の所にあった。歩いて往復くらいなら出来てしまいそうだ。


拠点は広く、大きく、何とも綺麗で優雅な洋風の屋敷で、とても転移したばかりの人間がマスターをやってるギルドの拠点だとは思えなかった。


トレイルとフェターリアが随分頑張ってくれたようだ。お礼をしないとな……。




「……失礼します……じゃなくて、ただいまか? この場合は」






「お帰りなさい、ガンド様」


「ようやく帰ったか。待ちくたびれておったぞ、ガンド」


「おう。ただいま」




玄関ホールで、トレイルとフェターリアと、もう1人、メイド服を着た女性が待っていた。


金髪で、そばかすがある美人な人だった。立ち姿から、良いとこのお嬢さん味が感じられる。


誰だろうか。




「……ええっと、そちらは……?」


「……お初にお目にかかります。私はフェルバー殿下の専属メイドを務めております、アン・マーティンと申します」


「専属ギルドである"神剣城"への伝達役を務めるため、こちらへ滞在させていただく事になりました。よろしくお願いします」


「……なるほど。よろしくお願いします」




俺は3人に連れられて、拠点の中を案内された。やっぱり広い。途方もなく広い。


使用用途もわからない部屋がいくつもあるし、トイレは5個も6個もあるし、キッチンもやたらと広いし、浴場に至っては、現世で社員旅行に行った時に泊まった旅館の露天風呂よりも広かった。


食堂に関しては広いだけでなく装飾もしっかりしていた。これからここで朝昼晩と食事をとるのかと考えると少し萎縮した。


結構良い職についていたが、こんな大富豪のような待遇を受けるほどでは無かったし、作法などは全く身についていない。せいぜい社長との食事会とかのために学んだテーブルマナーがあるくらいだし、これから家になるだろう場所でそんな事に気を使いたくはない。




……何か理由を付けて、別に家を借りよう。そうでもしないと気が休まらない……。





「ガンド様。ここが居間となっております。拠点の主要な施設はこれで全てで、あとは貴方の部屋と、私共の部屋……そして、寝室。と言った具合になります」


「あ、ああ。うん」




最後に案内された居間も広かった。

装飾も煌びやかで美しい。例えるなら英国貴族の屋敷のようで、本当に小説の世界に迷い込んだようだった。


ちょうど真ん中辺りに、テーブルが置かれ、それを挟むように椅子が2つある。そこで依頼を聞いたりするのだろう。



……しかし、イギリス人ははこんな屋敷で、朝昼晩毎日トーストと目玉焼きを食べていたのだろうか? いや、流石に貴族とかは違うのかな。




やれやれ。ミリしらだとこういう時イメージが沸かなくなるから良くない。こんな事ならもう少し調べておくべきだったか……。




「ギルドの依頼は主にここで受けてもらう。書類整理もここでするぞ」


「……ん? そういうのは普通、ギルドリーダーが自分の部屋でするもんじゃないのか?」


「お主は新米じゃろうが。この世界の事もまだよく知らんお主が、妾らのサポート無しでやっていられるはずもなかろう」


「そうですよ、ガンド様。貴方はそういう立場なのです。ご安心ください。私共が完璧にサポートいたします」


「……なんか、申し訳ないな。ありがとう」




「ええっと、どっちに座れば良い?」


「? どちらでもお好きな場所にお座りください」


「……ああ、わかった」




俺はとりあえず扉に近い方に座る。そして、アンが向かい側に座った。



「……では、「神剣城」ギルドマスターのガンド様。フェルバー殿下からの依頼について説明させていただきます」


「はい」


アンは一呼吸置いてから、説明を始めた。




「今回の依頼は、討伐依頼となっております」


「討伐対象はこの男。指名手配犯で、名前はバッラ」


「年齢は33〜36歳で、身長は175〜178cm、体重は65kgと推定されています」


「非常に残忍な性格で、スラムなどで殺人を50件以上行なっています」


「異能は斬撃系統。ただしそう強い異能というほどでも無いようです」





「質問良いか?」


「はい」


「強くなさそうな異能なら、他のギルドでも対処できそうだけど」


「……他のギルドは、スラム関連の依頼を受けたがらないのです。神剣城以外ですと、もはや国外のギルドに頼るしかなく……」


「なるほどな……わかった」




「では、お受けいたしますか?」


「もちろん、受けます。そんな奴放っておけませんし、何よりあの人の依頼ですし……」






「ってか、受けるかどうかこっちで決めて良いんですか?」


「はい、一応」


「……今度からそこは聞かなくて良いですよ。どうせ便宜上聞かなきゃいけないとかですよね?」


「……考慮しておきます」





「では、フェルバー殿下に依頼を受けたことをご報告しておきます。バッラについて詳しいデータをお送りしておきますので、確認しておいてください」


「はい」




「……送るってどこに?」






一瞬、部屋が静まり返った。



「あ、ああ! そうじゃった! 忘れておったわ。ガンド、これを渡しておく」


「ん?」



そう言って、フェターリアが渡してきたのは────────




─────スマホだった。




どっからどう見てもスマホだった。

押したら普通にホーム画面が出てきた。

色々設定しろという通知も来た。





とりあえず黙々と個人情報の入力など設定をしていく。もう何も考えない。書類が日本語だったり建物が日本家屋だったりした時点で怪しかったし、もう気にしても無駄だ。




「……ハァ」


アンが深くため息を吐いた。

世間知らずで悪かったなこんちくしょう。

こちとら転移してきたばっかりなんだよ!!




設定を終えてアプリを確認する。現世のスマホよろしくメッセージアプリがあり、そこに1件の通知が来ていた。これがアンが送ってくれたデータという事なのだろう。


メッセージアプリの名前は「デンタッツ」だった。ダセェ。しかも単純すぎる。ネーミングセンスを疑うな。


……よしよし。しっかりとデータが送られている。バッラの確認できるだけの経歴や、被害者情報までちゃんと用意されている。


「確認しました。目を通しておきます」


「ありがとうございます」



「私はこちらに滞在している間は、貴方様に仕えるよう命じられておりますので、用がありましたらなんなりとお申し付けください」


「わかりました」






アンは仕事に戻り、俺とトレイルとフェターリアは依頼をこなすため情報を見る。


トレイルやフェターリアもスマホを持っているし普通に使っている。手慣れた手つきをしているし、普段からずっと使っているのだろう。




バッラは本当に50人近くもの人を惨殺しているようだ。とんでもない男だ。



……ん?




「……何か、おかしくね?」




50人。確かに50人だ。それもスラムの人間ばかり狙っている。だが何かがおかしい。


50人の経歴をよく見てみると、全員ちゃんと経歴や出生地がある。……これがおかしい。




「おかしいだろ。スラムの人達って経歴とか出生地とか書かれてないだろ。調査したって言うけどさ、スラムの人達がデータ入力とかするわけないんだし」


「そうじゃな。妙かと言われれば妙じゃ。少なくとも十数人は経歴不詳の人間がおるじゃろ。狙って殺しておるのか?」


「一応、職にあぶれた人などもおりますから2・3人ならまだわかるのですが……これは」




「……偽造データの可能性もあるかもしれません。フェルバー殿下か、アン殿のどちらかが掴まされたのかも」










「伝達は済んだか?」


「はい」


「隠し切れたのであろうな」


「……少し危うくはありましたが、なんとか」


「そうか。隠し切れたのなら問題はない。引き続き任務を継続せよ」


「はい」







「……初任務にしては少々重すぎる任務だろうが……遂行して見せよ、ガンドよ」

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