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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
目覚めと始まりのメタスタシス
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スプリーム・ルーラー その①








夜の街を、駆ける。

ひたすら敵を倒しながら、街を駆けていく。


手に纏った風の刃が、俺の手助けをしてくれる。どんなに敵が多くても問題ないと思わせてくれる。





夜の街の優しい風を全身で感じながら、軽やかに駆け抜けていく……。


「……ド……君……」


……何かが聞こえたが気のせいだろう。さっさと次の敵を……


「……ガンド……君……」


……いや? 気のせいじゃない?


「……ガンド君」


これは─────────






「ガンド君、朝だぞっ!」


……あ。


(……夢、だったか)





そうだった。

俺は今、道場に泊まり込みで修行しているんだった。



「……起こしていただいてありがとうございます。……えっと」


「禅奈、だよ。おはよう、ガンド君」


「……おはようございます。禅奈さん」



このハツラツとしたお姉さんは、丸山禅奈という人である。この道場の師範代の1人で、俺が止まる部屋を貸してくれたのだ。



……この道場、部屋が空いてないのに俺が泊まり込みで修行する事を許可しており、どうするのかと思ったら禅奈さんの部屋を貸してくれるという事になったのだが……。




「マジで一緒の部屋で寝てるんですね」


「……あら、嫌だった〜?」


「いや、そういう問題ではなくてですね……」




この人には恥じらいとかそういうのはないのだろうか。いや違うな。異性として見られてないんだな。


……なんかムカつくな。



「……まぁ良いか」


「なにが〜?」


「……なんでも」








さて……。


「焔流異能指南道場」。

焔流、というからには流派がちゃんとあるのだが、今の所は異能の使い方、伸ばし方しか学んでいないのでよくわからない。



初日すぐに教わろうとしてみたのだが、


「私たちのやり方じゃ合わないと思う」


と、変な理由をつけて教えてもらえなかった。






道場では、相変わらず皆マネキンに対して異能を使い、様々強化に努めている。


正直最初はこんなんで上手くなるのかと思っていたが、初日と今とじゃかなり違ってきているので、効果は本当のようだ。


ただ、異能の加減によってはマネキンなぞ粉々になるわけで……



「……マネキン、修繕とかしてるのか?」



という疑問はもちろん上がってくる。



「してないぞー。金は一応出てるから、毎回買い換えてる」


「……すげーな。そんなに貰ってるのか」


「千明師範はある資格を持っててな。国営扱いになってるんだ、ここ。だからたまにここに国の王族とかがやってくるんだが─────」






「……」


「……どうした、アンブラ。虫でも止まってたか?」


「……ああ、いや……別に」




……なんだ?

アンブラのやつ、顔を引き攣らせている。

一体後ろに何が……




「そこの貴様。名を申せ」


「……ん?」


「そこのお前だ。我に背を向けている貴様だ」




すごーく、嫌な予感がする。

仕方ないので後ろを振り向いてみると……




「……えーっと……」




背後にいたのは、数人の護衛を引き連れた、いかにも王族らしい服装をした銀髪ロン毛の女性だった。


白が基調の衣装は、ザ・王族って感じに見えるのだが……卒倒するくらいとんでもない物を見ているようなオーラを放っている。


いや、衣装でなく、この人本体の物なのだろう。とんでもない……。



「……あなたは……し、失礼しました」


礼節くらいは弁えている俺は、ひとまずその場に跪いた。


「……よい。顔を上げよ」


そう言われたので、おそるおそる顔を上げる。とにかく余計な事は考えないほうがいいだろう。




「ふむ。貴様、この道場には最近来たのだな?」


「……はい」


「我が来ているというのに気付きもしないとは、面白いやつよ。貴様、異能を見せてみよ」


「……はい?」




確かにオーラはすごかったけど……そんな程度の事でか? というか、異能見せろって……。



「……そんなに面白い物ではございませんよ」


「よい。我は貴様に興味がある」


「わかりました……」





俺は近くのマネキンを見据えると、いつものように異能を使い……風の力で弓と矢の形を作る。


後は弓で矢を引くだけだ。俺は、そつなく構えを取る。……ここまでは完璧だ。



後は、確実に当てるべきだろう。外せば終わり──────そう思ったほうがいい。




「……"天々羽矢(あめのはばや)"」




─────上手く、命中した。

綺麗な音色を立てて、矢はマネキンを綺麗に貫いて穴を開け、床に突き刺さって消えた。





「───良い音だ」


彼女は、そう言って静かに笑った。どうやらお気に召したようである。


「……そう言ってもらえると嬉しいです」


「そうか。ならばありがたく受け取れ。次期王となる我からの賛辞であるぞ」


「はっ!」



俺はそう言って跪き……彼女の手を取り、手の甲にキスをした。西洋風のこの国でこの異世界だ、これくらいの習慣はあるだろう。




「き、貴様!! 姫に何をしているのだ!」


「……」


「おいバカっ! それは……!!」



……アレ?





周りが騒然としているので、俺はきょとんとしてしまったが、なんとなくやばいことをしたんだなという事は理解した。


「……あのー……」


「……返事は保留だ。本当に面白いやつよの、お前は」


「……えっと……」


「よい、よい。何も言わずとも。貴様のような男なら真剣に考える余地はある」




「我が名はフェルバー。グランデベント家第二皇女である」


「……は、はい」


「……ふむ。もう少し良い返事が聞きたかったが……よい。次はしっかりと返事するのを期待しておるぞ?」


「……はい」


「……では、な」





そう言うと、フェルバーさんは俺に背を向け、道場の入り口へ歩いて行く。配下の方々が何やら話しながらついて行っている。



「……はぁ。やらかしたかなぁ……」



俺はへたり込み、道場内がざわついた理由を考える。



「……ガンド、バカ野郎って言いたいけど言っても仕方ないから、覚悟決めろとだけ言っておくぞ」


「……アンブラ、どういうことだ?」


「お前の事だから、やるかもなとは思ったけど……教えてやるか……」


「いや、アンブラ! 教えなくて良いよ面白いから」


「ちょっ、師範……何言ってるんですか!?」











「皇女陛下!? 本当に返事をするおつもりですか!?」


「くどいぞ。我はそのつもりだ。じっくり考え、姉上(’’)とも相談して決める」


「……しかし陛下。姉君の事を考えると……」


「この国にはそれを貫通する制度があるではないか!? うるさいぞ!!」


「ひっ!」


「我の権限は絶対!! 我こそは次期王であるぞ!! わかったら対応を急げ!!」


「はい!!!」





「……そもそも、我の異能が効かなかった時点で、あやつは姉上以外で唯一我と対等に話せる存在であるのだ」


「……考えてもよかろう……」








俺がしでかした事の重大さ。

その意味を真に知るのは、実に1週間の修行期間が終わった直後なのであった……。






一口異能紹介

名前:フェルバー・グランデベント

異能:スプリームルーラー

(放たれるオーラに少しでも萎縮するとフェルバーに対して反論出来なくなる)

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