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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
虎擲竜挐のベルセルク

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奪還へ……!


ショックは大きかった。

思ったよりもずっと、俺の心にその事実は重くのしかかっていた。言葉が、上手く出なかった。

 それでも前を向かなければならないので、気を重くしながら俺はフォリ達と共に三味さんの元へ報告とお願いをしに行った。

 お願いするのはもちろん、フェターリアを助け出す事について。修行を一時休止する事を許してもらいにいくのだ……。


「いいですよ」


 三味さんからは当然の如く、そういう返事が返ってきた。俺はなんとなくその返事が来る事もわかっていたし、この後続けて三味さんが何を言うかも予測していた。


「私も協力します。師として、貴方の戦いを見ておく必要もあるでしょう」


 この人はそういう人だろうと、普段の修行からわかっていたのだろう。実際この人はかなり面倒見が良く優しい人であった。いつも修行の時、水分を取っているか、体調は問題ないかと何度も聞いてきたり、気前よく差し入れを持ってきたり。時には神か何かと思うほど人間が出来ていた。


「それに相手は吸血王との繋がりのある"例"の公爵家なわけですから、私を含め、道場の実力者を応援に向かわせる必要もあるでしょう」


「そうですね……。ひとまず東雲とエオリカには来てもらいましょうかね。それから、工藤君も」


「……えっ。工藤って……工藤さんですか?」


「はい! なにせ、彼も異能指南道場の門下生ですから」


 俺は唖然とした。今聞いた情報は、どこからも知らされていない全くの初耳であり、しかも全く結びつかない物だったからだ。ここにいる人間は屈強な体付きをしていて、言われてみれば彼も似たような体格の持ち主だった。しかし彼は、「工藤工房」の社長である。道場の門下生だったなら数年間は修行をしていたはずである。彼の見た目からして会社を起こしたのはだいぶ若いはずであるし、整合性が取れない。


「整合性が取れない、と考えているような顔ですね。それはその通りですよ。なにせ彼は、会社を運営しながら道場に通っていた本物のマルチタスカーですから」


 思考を見抜かれていた上で、そんなとんでもない話を聞くと呆気に取られて何も言えない。俺は暫く放心していたが、ハッとなる。いやいや、本当に人間技かと疑ってしまう。剣道や空手の道場ならいざ知らず、この道場でやっているのは某忍者コミックにあった「右を見ながら左を見る」トレーニングに近いとんでもなく難しく厳しい物ばかりだ。俺がたった一週間触っただけでもそう思うのに……それを、恐らく数年間やってのけている。恐ろしい男だ……。


「……それで、呼んだとしてその先はどうするんですか。奪還するにしてもあまり大人数だと隠密行動は出来ませんし……」


「はい。隠密行動はしないつもりです」


 え? と、首を傾げる。普通奪還と言ったら隠密行動を取り、敵となるべく接触しないようにして、バレずにターゲットを保護し連れ帰るのがセオリーであろう。この人は今それを放棄すると言ったのだ。そりゃあ首を傾げる。


「一体どういうつもりで……?」


「そもそも例の公爵家……アストゥート家は不正疑惑も多く、王達からも煙たがられておりました。吸血王との繋がりは厄介な物で、王達は裏の茶会で幾度もそれを話題に上げていたのです」


「……裏の茶会??」


「ええ。愚痴を言ったり猥談をしたりする、王や重役の"話のわかる人達"を集めた楽しいお話会です。私もよく参加させてもらっています」


「んなのあるんすか……ってか、猥談!?」


「ええ! 王には女王も多いのですがいかんせん皆毎日激務ですし、相当溜まっているようで……。なかなか楽しいですよ! 流石に、そういう事は男女きっぱり分かれて話していますけども」


「……確かに激務だろうしな、王なんてのは……」


 息抜きくらい必要である。でなければ王も将軍もあんな職業ほっぽり出してもおかしくない。俺は徳川家康の男色も豊臣秀忠が側室を何人も囲っていたことも近藤勇に妾が3人いたことも、今の時代的に悪く見えるだけで、別に悪いことだと思わないタチなので、別にいいと思った。ていうかそれらに比べたら女の子が寄り集まって猥談してた所で可愛いもんである。


「……ちなみに、裏の茶会は実は紹介者が重役などであれば、基本的に誰でも参加可能です。秘密を漏らせば殺されますけどね」


「こわ!」


 いや、守秘義務が生じるのは当たり前だが、殺すてそんな物騒な! ……っと、待て待て、今誰でも参加可能つったか、この人。


「……って事はもしかして」


「そう。貴方の考えている通りです。私は今、この茶会に参加し、アストゥート家を滅ぼす算段を立てようと考えています。王達の目の上のたんこぶであり、私の弟子の敵であり……更に恐らく、まだ吸血王はフェターリアさんの事を裏の茶会で説明していない。出来ない理由があるのでしょうね。それを報告してくれたフォリさんには感謝です」


俺の右手の方に立っているフォリに、三味さんは目をやり笑顔を見せる。中々可愛らしい顔で見つめられたからか、フォリは少し照れたような顔を見せた。


「いえいえ。これも"五十の辻"に属する私の勤めですから」


「ふふ。ギルドの人間としてこれ以上ないくらい、素晴らしい回答です。それはそうとガンド、とっとと身支度を整えてきなさい。茶会は今日の夜からですよ」


「はえ!? マジですか……」


「ええ。先程私がセッティングいたしましたので」


「はい?」


 ……今、とんでもない事を口走ったような……。え、それが本当ならこの人は一体、どれだけ上の立場の人間なんだ……?


「……貴女は一体……」


「あら? ガンド、貴方はもう既に知っているはずですよ? 私は異能指南道場の総合師範であり……」




「この国の総合相談役なのですよ」


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