"風"を持つ者
フォリを貫いた矢は、そのままフォリの向こうの方へと飛んでいきながら、消えていった。
渾身の一撃だ。
傷も深いしエネルギーを使いすぎた。
流石に倒れてくれないと……な。
一応まだあるにはあるが……。
「……参りました」
ボロボロになったフォリが、よろめきながらそう言った。腹部を抑えている。貫通したらしい。
「流石に……効いたか」
「えぇ、まぁ……。正直……思っていたよりやられましたよ。この威力、このスピード……エイドがやられたのも納得ですかね」
「……だが、修行してこれだからな。アンタのが強いかもしれんぞ?」
「……いえ。少なくとも貴方の方が若干強いでしょう。まだ隠し玉も持っているようですし?」
「……まぁな」
エイドの件を知っているなら、当然わかっているだろうとは思っていたが……どうやら"神域"の事も把握されているようだ。
「……で、降参するのは良いけどその後はどうすんだ? のこのこ帰らせるわけにもいかないぞ」
「わかってますよ。……その辺の説明は彼女にしてもらいましょう」
「はい??」
フォリがそう言うと……道場の建物の影から、女が1人現れる。ぬっと現れたその女性は俺がよく知る人の1人であった。奴が"倒した"と言っていたはずの。
そう、瞳である。
「……瞳!?」
「……や、やぁ」
かなり恥ずかしそうに、ぺこりと頭を下げる瞳。なんだかそれを見ていて拍子抜けしてしまったようで、俺は無意識にその場にへたり込んでしまった。
普通であれば敵の仲間だったのかと問い詰める所なのだろうが……相手が降参した後でそれは無いだろう。
「……で?? どういうことだ? 説明してもらおう」
「…… えっと……」
「僕から説明しましょう」
フォリが姿勢を正して、真っ直ぐこちらを見た。
「僕はここに貴方を試すためにやってきました。風の異能を使う、神域に至る者……。古くからの伝承に伝わる……"風の祝"の特徴を持つ貴方を」
「……ふむ?」
"風の祝"……、ね。
聞いた事が無いな。
「どういう伝承だ、それは」
「あれ、ご存じないですか? ここまで特徴が一致しているのも珍しいですから、誰かから説明を受けている物だと思っていましたが」
「……瞳?」
瞳は、目を逸らした。
明らかに何か知っているような動きだ……。
「……おい」
「ご、ごめん黙ってて」
「……なるほど。それでよってたかって囲んでいたわけですか、瞳さん」
「ま、まぁね……」
「??」
「風の祝は、強大な力を持っているとされており……その兵器にもなりうる力を、多くの国が欲しがっているのです」
「ふむ……?」
「まぁ端的に言えば、貴方は今、世界中に欲しがる国がいる存在だという事です」
「えぇ……マジでえ……??」
フォリはコクリと頷いた。
……なんだか凄まじく実感の湧きにくい話をされたが……困ったな。確かに修行して随分と強くなれたとは思うが……世界中に狙われるほど強いかと言われればそんなわけはない……。
「参ったなぁ……」
「なんだか、嬉しそうに見えますが」
「なわけあるか。面倒くさい事を押し付けられた気分だよ。第一俺はそんなに強くないぞ?」
「本当にそうでしょうか……。気付いていますか? 貴方は、僕に風穴を開けるほどの力を、"神域"の解放をせずに引き出したのですよ。エイドを倒したあの力を使わずに」
「まぁ、それは確かにそうだ。だがだからと言って……」
「エイドは、僕より弱いんですよ」
「え??」
「エイドは、組み手でも本気の戦いでも僕に傷一つ付けられない……そんな男です」
「どういう……事だ?」
「彼は"破砕"では幹部であり、諜報員のような真似もしていましてね。疑いのある人間がいれば迷わず殺しにかかっていました」
「ですから……お恥ずかしながら、僕も何度も奴に襲われました。しかし奴は僕を殺す事は出来なかった。ええ、出来なかったのです。なぜなら奴の強さの半分は呪いと残機、数に頼った強さだったから。破砕に一切の情報を漏らさず諜報活動を続けた僕の弱みを掴めなかった」
「その上で、身体能力で勝る僕に、どれだけ数を賭けても倒す事は出来なかったのです。貴方に葬られるその日まで。いやぁ、あの時は助かりました。ハエ叩きを買う事を、真剣に考えていたものでして」
「嫌な言い方だな、オイ」
「これは失敬。……しかしこれでわかったでしょう。貴方は強い。おそらく三味さんもそれをわかっていて僕にぶつけたのでしょうね」
「? 三味さんを知ってるのか」
「ええ。何度かお会いしましたのでね」
「……さて。そんな強大な貴方が、次にするべき事が1つあります。それは、このエルファニア王国という国の癌を取り除く事……」
「……ふむ」
「それをしなければ貴方は大切な物を失ってしまうかもしれません」
「!? なんだと……!? 瞳、本当なのか」
「………………」
しばらく悲壮的な空気が漂った。
この感じ、絶対俺たち4人に関わる事じゃないか。
しかし……トレイルや瞳は違うから……
「フェターリア・ロッソ」
「……!!? ロッ……ソ?」
その名前を、俺たちを王国に連れてきた"戦王"レナ・ビルガメスから一度だけ聞いたのを、はっきりと覚えている。
なんてこった。それが苗字だとすれば……フェターリアは……
「その反応なら、"吸血王"ルキドゥス・ロッソの名はとっくにご存じのようですね。そうです。なんと驚く事に、フェターリア嬢はルキドゥス王の妹君だったのです」
「……そして、現在それが彼女を苦しめています」
俺は思わずフォリの胸ぐらを掴んだ。
フォリは説明中ずっと崩さなかった笑顔を崩し、真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
「何が起こってるんだよ!! 答えろ!!!」
俺はそう怒鳴った。
「彼女は、吸血王が300年前に、とある公爵家と交わした条約に利用され……嫁がされるそうなのです」




