焔の誓い その4
「……こんな事する前に、気づいていて欲しかった」
千明さんはそう言いつつも、嬉しそうだ。
俺は……どうなんだろうか。なんというか、現実感がない。
「……俺は……正直、千明さんが好きだったけれど……届かぬものだと思っていた」
道場で、門下生を指導する千明さんは、とても美しく、大人びていた。
戦っている千明さんを見ると、自分が小さく思えて仕方がなかった。
そんな風に思っていたから……ガンドの考えも理解できた。
高嶺の花。
途方もないくらい先にいる存在だ。
そんな物が向こうから矢印を向けている……だなんて、夢やメルヘンでしかあり得ない話だ。
本来なら。
「……まさか俺が、こんな夢みたいな事になるとはね」
「……何を言っているんだか」
「俺は、貴女に実家に連れられた時も、同棲しようと言われた時も……ただの気まぐれだと思っていた」
「……そうなんだ」
「ああ。だって貴女は、俺にとって最愛の人で……憧れだったから」
「……な、なんだか照れるね。キミにこうやって面と向かって言われると……」
「もっと照れてくださいよ」
赤面して、乙女みたいになってる千明さんは可愛らしい。俺はその顔を見るのが嬉しくて、ついジッとみてしまう。
「……壱龍君……ジロジロ見てると怒るよ」
「良いじゃないですか」
「良くない! ……まだ、返事もしてないし」
「……」
いじらしい。
俺は、そう思って千明さんをベッドに押し倒した。
「……Yes、なんでしょ?」
「………………言わせないでよ」
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「……で、どうなったんだよ」
「それは俺達だけの秘密だ。お前には教えんぞ、ガンド」
「んだよ〜。教えてくれたって良いじゃねえか」
「よくないだろう。お前、夫婦の嗜みって奴を知らないのか」
「……ああ〜……お前、そのローズちゃんって子の部屋でおっ始めたのかよ」
「んなわけあるか! ……流石に場所は変えた……。帰る時、いやにローズが嬉しそうにしていたのを覚えているが……」
と言った具合に、俺は、焔流異能指南道場本山の街に存在する喫茶店で、アンブラの惚気話を聞いていた。
明日に決戦を控えるという時に、ふらっとやってきて、色々報告してくれている、というわけだな。
「……ま、2人がちゃんとくっついて良かった。俺としちゃ、アンブラは親友だし、幸せになって欲しいからな」
「……フッ。感謝しておく。……まぁ、実際には依頼の解決などで忙しく、あまり2人の時間は取れていないがな」
「んなの、気にならねえだろ。そっちは無限と言える時間があんだ。一緒にいられるんだからな」
「……俺んとこは、もうぐちゃぐちゃだよ。トレイル追い返したし、瞳はなんだか危ういし、アンは1人でアジトにいるらしいし……1番付き合いのなげぇフェターリアは消息不明だ」
「散々だな」
「だろ? ま、俺が悪いんだけどよ」
「……しかもなんだかんだ、女ばっかりではないか。浮気性か、お前」
「……いや。別にそんなつもりねえんだがな。どうやら、助ける相手が女ばっかなのが良くないっぽいが……」
「……そういえばお前、誰が好きなんだ?」
「……ん」
「お前にとっての特別だよ。流石に全員好きだなんて言わんな??」
「……あぁ……そうか。普通は、そうだな」
「……ん??」
「俺は、そういう相手はいないんだ」
俺がそう言うと……アンブラの目が、瞬時に驚愕の目に変わった……。
「……な、なぜ?」
「……俺は誰かのために、命を賭ける事を厭わない」
「俺がそうやって命を落とした時……悲しむのは俺のそばにいる誰かだ。だったら好きであるべきでない。距離を置くべきだ。そうだろ?」
「……お前……」
アンブラは、俺の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「! ……な、何を!!」
「お前……ふざけるなよ……!?」
「お前は、フェターリアに命をかけてもらったことがあったな!?」
「っ! ……そ、それは」
「トレイルもお前のために、毎日死に物狂いで周りの裏方の仕事だとかをやっている!! ……聞いたことがあるんだ」
「……それから瞳は、現在進行形でお前のために、命懸けで破砕の幹部を追っている」
「良いか!? お前1人が命を賭けてるわけじゃないんだ!! 皆、大切な物のためなら命を賭けるなんて当たり前なんだよ!!」
「もしそれで離れても!! また戻ってくれば良い!! そう思って……人は、人のために命を賭けるんだ。まぁ、もちろん生きること前提だがな!!」
「……アンブラ……」
「……オレは命を賭けた」
「そうして、ようやくわかったんだよ」
「……さぁ……お前の答えはどうだ……?」
「ノーコメントだ……」
俺は目を背けた。
「……そうか」
「悪いな。今は、考えてられんよ」
「……了解した。ゆっくり、しっかり考えろ」
そう言ったアンブラの声は、怒りに震えていたのだった。
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「……奴は……妾の事をどう思っておるのか」
「聞いておけば……良かったのかの」
「時間だ、フェターリアよ。行くぞ」
「……わかっておる」
「ガンド……妾はいつまでも……」




